「発射許可…、出来ません!」
帰ってきた返答は、キラには到底ありえないものだった。
この返答にキラの全身から凄まじいまでの怒気が発せられ、後ろにいるミリアリアは戦慄に襲われた。
「何を言っているんだ! いいからハッチを開けてっ!」
キラの怒号がコックピット中に響き渡り、激しくミリアリアの鼓膜を揺らす。
「代表の許可なしに、無断でMSを発射させる事なんて出来ません」
「代表はボクの姉さんだ! つべこべ言わず開けろ!」
「それは分かってます! でも…、開ける事は出来ません!」
キラの怒号に混じって聞こえてくる無線の声。
ミリアリアには聞き覚えがあった。
機械を通している為、本来の声とは若干の違いはあるが、その声の主は間違いなく、
「メイリン…? メイリンなのね!」
ミリアリアは声を上げると、さらにキラの怒気が高まる。
「メイリン…、どうして君がこんな事をっ!」
「はわわわぁ……。そ…、そんな事を言われましても……」
聞こえてくる声は完全に怯えきっている。にも関わらず、キラは容赦なく怒鳴り散らす。
「今こうしている間もラクスは苦しんでいるんだ! 僕が行かなきゃダメなんだっ! 分かるだろ、メイリン!」
「わ…、分かります……。で…すが…、規則は……」
「規則なんて糞喰らえ……はぁっ! まさか……」
刹那、コックピットを包む熱さが一瞬にして凍えへと化す。
「アスランか…? アスランの差し金かぁぁぁぁぁぁ!」
「あ…、わぁぁ……」
通信から聞こえてくる声は完全に恐怖のみに支配されている。
もはや、まともな通信など不可能。
だが、それでも尚、キラは凍えきった声でメイリンの精神を凍てつかせ続ける。
「アスランの命令だからなの! あんな奴の命令だからって、ボクの邪魔をするの! ラクスがボクを待っているっていうのに君はっ!」
「わ…、わたしは……」
メイリンの声は本能的な反射に過ぎない。
恐怖と戦慄に完全に支配され、もはや行く事も退く事も出来ない。
キラの後ろで聞いているミリアリアには充分すぎるほど分かる。
しかし肝心のキラが、この状況を全く分かっていない。
「まだ邪魔するなら……、ボクは君を討つぅ!」
この時、計器に僅かに映ったキラの顔。
まさしく鬼そのもの。殺す…、慈悲なく容赦なく殺す目……
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