キラの意識はあった。
しかしキラは瞳を開けようとせず、決して現われない人が起こしに来るのを待つ。
『ラクス……』
キラの目覚めの時を教えてくれるのはラクス。
いつも決まった時間に部屋に来て、優しくキラを起こしてくれる。
大抵はそれで起きるが、時々ラクスを困らせたくなる時がある。
この時、決まってキラは頭から布団を被って身体を丸め、ラクスにせがむ。
ラクスもキラが駄々をこねている事ぐらい理解している。
それでもこういう時、ラクスは決まってしてくれ。
目覚めの口付けを……。
「キラ〜、いい加減に起きなさい〜〜〜」
ドアの向こうから聞こえてくるカリダの声がキラを現へと引き戻す。
『母さんの場合は、フライパンだからな……』
キラは嫌々ながら床を抜け出し、ゆっくりと立ち上がる。
過去、ラクスと勘違いして駄々をこねたら、容赦なく頭を強打された。
それも躊躇いなく、思いきり……。
キラは寝ぼけ眼で洗面所へと向かう。
寝起きの顔を引き締め、軽く寝癖を整え、それからリビングへと向かう。
リビングへ行けば太陽のようにまぶしいラクスの笑顔が出迎えてくれ、彼女はそっとキラにコーヒーを差し出す。
ミルクたっぷりのホットコーヒー。
バルトフェルドが作った豆だろうがインスタントだろうが関係ない。
ラクスがキラの為だけに淹れてくれるコーヒー。これがキラの一日の始まり。
だが、ラクスはいない……。
リビングに行ってもあるのは水、気を利かせていたとしても熱い緑茶。
それが分かっているから、キラの足取りは重い。
『どうしてラクスがいないんだ……』
とぼとぼと歩きながらキラは考える。
頭では分かっている。ラクスは世界の為に懸命に働いている事ぐらい。
それでも思わずにいられない。
ラクスは自分だけのものだ!
『ボクはラクスと一緒にいたいだけなのに……』
とぼとぼ、とぼとぼ……。
『ああ…、アスランぶん殴るぐらいじゃ気が晴れないよ……』
思考が危ない方向へと走るが、キラには些細すぎる事。
今は、この空しさから逃れたい。
それが無理なら、ラクスを自分の傍へ連れてきてくれ!
しかし、それは夢。決して叶わぬ夢……
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