【プロローグ】
終戦から半年―――
この日、オーブ連合首長国において国際平和条約も調印式が執り行われた。
ギルーバート・デュランダル亡き後の混乱を最小限に押さえ、かつ、この短期間で条約調印へと導いた二人の女神。
オーブ連合首長国代表《カガリ・フラ・アスハ》
プラント最高評議会議長《ラクス・クライン》
この二人の尽力により、ナチュラル・コーディネーターの隔たりのない世界への第一歩が踏み出された。
その夜、地球・プラント各地で条約締結を祝い宴が催され、二人の女神に対する尊敬・感謝の声で溢れかえった。
しかし、そんな祝賀ムードとは少し異なる場所があった。
【オーブ連合首長国 プラント総領事館】
領事館長室で静かに、しかしながらこの日を心から待ちわびていた二人の男……
「やっとだな、イザーク」
ディアッカ・エルスマンは親愛なる友、イザーク・ジュールのグラスに酒を注ぐ。
「ああ…、やっとだな……」
イザークはいつも通りの無骨な表情でディアッカの酒を受ける。
「これで、俺達が本当に望んだ世界が望める……」
「そうだな」
グラスを手に取り、互いのグラスを重ねた。
「イザーク、ご苦労さん」
「ふんっ！ 礼はクライン代表とオーブの姫君に言え」
「相変わらずだな、お前」
「うるさい、ほっとけ！」
イザークは乱暴に吐き捨て、グラスの酒を一気に煽り、まくし立てる。
「貴様に俺の苦労が分かるかぁ！」
「はいはい。その愚痴ならいくらでも聞いてやるよ」
「何だ！ その投げやりの態度はっ！」
そう怒鳴りはしたが、イザークは達成感に満ち溢れた清々しい疲労感を滲ませた表情でここまでの経緯を話し出した。
当初イザークはラクス・クラインの護衛としてプラント最高評議会へと乗り込んだのだが、
その最初の席でラクスがイザークを副議長へと抜擢した。
しかしながらと言うべきか…、当然と言うべきか……。イザークを知る者全てがこの人事に肝を潰した。
確かにジュール家は政治手腕に優れた一族である。
イザークの母であるイザリア・ジュールもパトリック・ザラ時代には辣腕を振るっていた。
だが母は母。子は子。
常に導火線に火がついている様な性格のイザークに副議長という清濁併せ呑む役職など到底務まる筈がない。
それがイザークを知る者全員の共通認識だった。
ところがいざ蓋を開ければ、イザークは眠れる政治手腕を見事に開花させた。
無論、イザークは裏工作など行えるほど器用な男ではない。
一本気のアル性格と言えば聞こえは良いが、本来の性格はまさに常に爆発の危険性を秘めた爆弾そのもの。
事実、イザークは議会審議の度に爆発し、何度も審議は中断するわ、物は飛ぶわ、挙げ句に大乱闘を起こすわの有様……。
しかも、それらの光景は情報公開の名に置いて全世界に放映された……。
ところが世の中は不思議なもの。そんな裏表のないイザークの言動、それ以上に世を変えたいイザークの熱意に世論は味方した。
また、イザリアから引き継いだ人脈もあってか、今では名実共にラクス・クラインの右腕として認められるほどの支持を集めている。
さらに加えると、軍部でのイザークはアスランと並ぶ英雄として尊敬を集め、彼らからの信望も厚いとの事。
「ふんっ！ 俺の苦労に比べれば貴様なんざ楽なものだっ！」
『はいはい…、矛先が向いたっと……』
「俺が議会のバカどもを相手している間、貴様は領事館長の椅子にふんぞり返っていただけなんだからなぁ！」
「随分とひでぇ言い草だな」
静観を決めこもうとしてディアッカも、さすがにこれには反論。
ディアッカもイザークが副議長に抜擢されるのと同時に、オーブのプラント総領事館長に任命された。無論、ラクスの人事である。
当然、ディアッカはイザークとは違いこれに反抗。自分ほど責任を負う仕事に向いていない奴などいない……。
そう自認し、他からもそう思われているディアッカにとって当然の反抗だった。
ところが……
『これは、貴方様にしか任せられない大切な事ですの……』
っと、爆発状態のイザークですら一瞬にして沈静してしまう笑顔のお頼みにあえなく撃沈。
結局そのまま領事館長の任を受け、現在はイザーク同様に多忙を極める日々を送っている。
「はんっ！ 貴様、本当にクライン議長に説得されたのかぁ！」
『まだ絡む気かよ？』
「どうせミリアリアって女の尻を追いかけに来ただげじゃないのかぁ！」
「残念だけど、それは見当違いだぜ」
ディアッカは小さく息をつき、自分のグラスに酒を注ぎ、ゆっくりと口に含む。
「ミリィは、オーブに戻ってすぐに旅に出ちまったよ」
「何だそれは？」
イザークはドンッとグラスをテーブルの上に叩きつける。
「貴様…、あの女に惚れていたんじゃなかったのかぁ！」
『あれ？ あの堅物のイザークが人様の恋愛ごとに首突っ込んできやがった……♪』
思いがけないイザークの反応にディアッカは心の中でほくそ笑むが、とりあえず様子を窺う。
「何をやっているか貴様はぁ！」
「何もやってねぇって」
「素直に捨てられたって認めろ！ それが嫌なら、縛り付けてでも手元に置いておけ！」
「お生憎さま♪ オレは籠の中より、大空を自由に飛びまわる鳥の方が好きなんでね♪」
ディアッカは余裕たっぷりな表情で返し、ぐいっと酒を飲み干す。
甘くてほろ苦くて…、そして少し切ない味がした……。
『そう、ミリィは……』
彼女は一箇所に留まっていられる女じゃない。
鳥の様に大空を自由に羽ばたき、自分の信じる道を真っ直ぐ進む女…、そんな女を我欲の為に縛り付けるなんて絶対に出来ない……。
『オレはミリィの止まり木…、それだけで充分だ……』
「ふんっ…、貴様の口からそんな台詞が出てくるとはな……」
イザークは露骨な冷笑を浮かべ、テーブルのボトルを手に取る。
「大体、貴様もアスランも女の尻に敷かれて…、全く情けないわっ！」
「亭主関白は旧世紀に終わってんだ…、っと……」
何かを思い出したのか？ ディアッカに不適な笑みが浮かぶ。
「そう考えると……」
ここまで一方的に言われていたディアッカは反撃に出る。
「シホは本当に健気な女だよなぁ〜〜〜♪」
ビクッ！
途端に、イザークの眉間に皺が寄り始めた。
「こんな暴虐でキレ癖があって亭主関白の見本みたいなご主人様に、文句一つ言わずに尽くしてるんだからなぁ♪」
「貴様ぁぁぁぁ！」
ガンッ！
イザークは手に持っていたボトルを思いきりテーブルに叩きつけ、いつものように怒鳴る。
「誰が暴虐でキレ癖があるだぁぁ！」
「誰って？ お前」
「俺は一度たりともシホに厳しく当たった事などないわぁ！」
これは本当の話………。
軍時代、いくら機嫌が悪くてもイザークは一度たりともシホに当たった事はない。
もっともその矛先の全てはディアッカに向けられてはいたが……。
「それに明日からの休暇、シホと一緒に過ごす事になってい…、はっ！」
シホの事で相当冷静さを失っていしまったのか？
イザークは慌てて口を塞ぐが、その顔は酒とは明らかに違い色に染まってしまっている。
ところが何故かディアッカはツッコまない。
『あまりやり過ぎると、事後処理が面倒だしな』
「っと、まあ…、その事は置いといてだ……」
ディアッカはボトルを手に取り、イザークのグラスへと差し出す。
「折角の日だ…、今日はとことん飲もうぜ」
「ああ…、飲もうか……」
二人は先程とは打って変わって静かに酒を酌み交わす。
今日は彼ら…、人類全てが望むべきを道を歩み出した日……
だから今日は心から祝おう。
この記念すべき日を。
そして、心から祈ろう……
平和を願い散っていった英霊達の思いを……
イザーク・ジュールの休暇も終わり、世界は揺るぎない平和への道を進み始める。
だが…、イザークと同時期に休暇を取っていたラクス・クラインが復帰して二ヵ月後……
【ラクス・クライン 公務中に倒れ緊急入院！】
この報はプラントから全世界へ…、衝撃として瞬く間に世界を駆け巡った……。
次回【Ｎｅｖｅｒ Ｅｎｄ】第１話
キラ・ヤマト キレる！！
《小話@》
皆様、いかがでしたでしょうか？
ここから壮大なるキララク暴走劇場が開幕します♪(えっ)
ＴＯＰにも書きましたが、再録に当たりまして色々と修正したり没ネタを追加したりしていきます。
ってか…、プロローグの時点で既にいじってるし…(滝汗)
《本を持っている皆様、冷静に見比べてツッコまないでね〜〜〜》
っで、ここでは基本的に製作時の裏話・ネタ話を中心にと思っています。
キララク小説なのに、プロローグがディアイザという見事な裏切りっぷりｗ
いや〜、だっていきなりキララクじゃ、キララクのありがたみが薄れるかなぁ？ って思っての確信犯です(てへｗ)
ネタバレですが、ラクスはまだまだ登場しませんよｗ
最近のＴＶ番組みたいに、無駄に引っ張るからねぇ〜〜〜♪
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