【第1話 《キラ・ヤマト キレる》】





【オーブ官邸代表室】





アレックス・ディノ、もといアスラン・ザラは外遊中のアスハ代表に代わり公務に当たっていた。


 そんな折、彼の下にも一報が飛び込んだ。


《ラクス・クライン 公務中に倒れ緊急入院!》


 この報にアスランは全身を巡る血液の全てが凍りつく様な感覚に襲われたが、すぐに来た新たな報告の後、彼は溜息しか出せなかった。


『ただの貧血ぐらいで……』


 アスランは指で軽く眉間を押さえ天を仰いだ。


 ラクスは公務中に貧血を起こしただけ…、それ以外に何もない。


 ところが当事者がラクスという事だけで、ここまで事が大袈裟になってしまっている事に気を滅入らせた。


 アスランからすれば、この程度の事で大騒ぎという事体、迷惑極まりない。


『全くラクスは…、健康管理ぐらいしっかりと……?』


 ふと、アスランは様子がおかしい事に気づく。


妙にドアの向こうが騒がしい。っと、思うや否や、


「姉さんっ! 姉さんっ!」


 突然、扉が乱暴に開かれ、一人の男が血相を変えて入ってきた。


「姉さんっ! ラクスがっ! ラクスが…、ぁ……?」


 男はアスランの顔を見るなり、その表情を疑惑の色に染め上げる。


「何で君がその椅子に座ってるの……?」


「あのなぁ……」


 アスランは思いきり大きく溜息を吐く。


 アスハ代表…、もといカガリを【姉さん】と呼ぶ人間などこの世でたった一人しかいない。


「お前こそどうしてここにいる、キラ?」


 アスランはペンを置き、露骨に表情を歪めた。


「ボクは姉さんの弟だよっ!」


 キラは声を荒げ、アスランに詰め寄り、机を激しく叩く。


「そんな事より姉さんはっ! 姉さんは何処なのっ!」


「カガリはスカンジナビアに外遊中だ」


 アスランもキラが冷静でない理由ぐらいは察しがついている。


 それでも、このままキラに居つかれても仕事の邪魔にしかならない。


「ラクスが倒れた原因はただの貧血だ。何の心配もない」


 アスランとしては簡潔にキラの欲している事への答えを言っただけだった。


 ところが、その言葉を聞いたキラは、


「アスラァァァァンっ!」


 黒い瞳から光を消し去り、両手でアスランの胸倉を掴み挙げた。


「ラクスが倒れたっていうのに…、その態度は何だぁぁぁぁっ!」


「ちょ…、ちょっと落ち着け、キラっ!」


 アスランはキラの豹変に血相を変え、言葉を返す。


「本当にラクスはただの貧血だ。その際にどこか怪我したとかなければ、他にも異常は見つかっていない」


「そういう問題じゃない!」


 キラは掴み上げたまま、さらに声を張り上げる。


「ラクスが…、ボクのラクスが倒れたんだぞ! それなのに君は…、完全に他人事の様にぃぃぃ!」


「いいから落ち着け…、キラ……」


 と、アスランは諌めたが、すぐに思う。


 今のキラが素直に落ち着くなど到底ありえない。いや、落ち着いたらそれはそれで怖い。


 などとアスランが考えている間にも、キラの平常心は跡形もなく崩れ去っていく。


「もういいよっ! とにかくラクスの様子を見に行くから、ストライクルージュを用意してっ!」


「はぁ? ストレイクルージュ……?」


「はぁ? じゃないよっ! つべこべ言わずにストライクルージュを用意しろっ!」


 キラの要求にアスランはただ呆れるしかなかった。


 キラはストライクルージュでプラントに行くつもりだ。


 しかしアスランの立場上…、いやアスランでなくとも一個人の…、それも私情極まりない理由でカガリの愛機を貸すわけにはいかない。


 もといプラントに行く為には当然ブースターがいる。


 当然の事ながら経費がかさむ。


 その様な余裕など復興途上のオーブにある筈がない。


 っと、理論的説明はいくらでも出来る。しかしながら今のキラにそれが通じる筈もない。


「分かった分かった」


 アスランは息をつき、努めて冷静に答えた。


「とりあえず今は復興作業やら政務やらで人員が割けない。だから、そのところは適切に判断した上でちゃんとプラントに行ける様に機体を整備して用意しておく。だから、今のところは大人しく帰れ」


 充分に含みを持たせた回答、もとい時間稼ぎ…、いや詭弁……。


 それでも額面どおりに受け取って無事解決と、アスランは思った。


 だが、しかし……


「それが答え……?」


「んっ?」


「それが答え…、って言っているんだぁぁぁぁっ!」


 キラは騙されなかった。


 キラは怒りによって増幅された力でアスランの胸倉をさらに絞り、掴み上げ、思いきりドアへと投げ飛ばした。


 バッキャァァァン!


 ドアは見事なまでに大破したがそこは元軍人。


 激突の寸前で体勢を立て直し、しっかりと受け身。


 見た目こそ派手ではアルがアスランは無傷で済んだ。


 しかし、ここまでの仕打ち……。


 穏便にと思っていたアスランも、これにはさすがにキレた。


「何で…、俺がこんな目に遭わなければならないんだぁ!」


 アスランはキラを視認するや、獣の如くキラに襲い掛かった。


 対するキラも中指を突き立てて、叫び、応戦。


 男二人、拳と拳で語り合いを始めた!














その頃、部屋近くの廊下―――


「あ、ありがとうございます。フラガ一佐」


「いいのいいの。気にしない♪」


 ムウは両手にたくさんの書類を抱えながらメイリンと一緒に歩く。


「しかし大変だね〜。お嬢ちゃん…、じゃなかった。代表の秘書っていうのも?」


「い、いえ! そんな事はありません!」


 ムウの気の抜けた問いに、メイリンは背筋を伸ばしてしっかりと返す。


「わたし、いま本当に充実しているのです! 誰もが笑って暮らせる世の中を作ろうとするアスハ代表、そしてラクス様の為に働けて本当に嬉しいのです!」


「でも、足取りが軽いのは俺が書類持ってるから、だけじゃないだろ?」


「えっ? あっ! は…、はい……」


 ムウの言葉にメイリンは頬を赤らめ俯いてしまう。


 メイリンの機嫌が良い理由…、それは今、彼女はカガリの秘書ではなく、留守を預かるアスランの秘書という状況である事をムウは見抜いていた。


 しかしながらムウには、その理由に嫌悪感に近いもの覚える。


 無論、公私混同しているからという理由ではない。


 なにしろ、ムウ自身が公私混同の末にマリューを自分の物とした。


 故に、自分がメイリンを咎める資格などない。


 ムウが抱く懸念をもっと別な事……


『よりにもよって…、あの坊主に惚れるかねぇ……』


 空白の二年間、子供達がどう生きてきたムウは知らない。


 しかしキラは、あの二年間で少年から男へと成長を遂げていた。


 あの戦争、キラはラクスを護る為に再び剣を手にし、闘い、守り、互いの愛をより強いものにした。


 と同時に、自分の代わりにマリューを護りとおしてくれた。


 しかしながらアスランはどうだ?


 ミリアリアの話では、惚れたカガリを捨ててプラントへと戻り、甘言に踊らされ、惰性の様に時代に流され、


 あろう事か惚れた女に銃を向け、結局は出戻り…、それもメイリンをお持ち帰りしての出戻り……。


『俺が親父だったら……』


 絶縁覚悟で絶対に二人を引き裂く!


 不幸になるのが確定的な奴などに娘をやれるかぁ!


『お父さんは悲しいよ……』


 ムウは一瞬だけ悲哀に満ちた眼差しをメイリンに向けたが、すぐに気を取り直し彼女と一緒に代表室へと歩く。


 その時突然、前方から凄まじい雄たけびが上がった。


「キラァァァァぁぁ!」


「アスラァァァァンっ!」


 がしゃぁぁぁぁんっ


「フ…、フラガ一佐……っ!」


「ああ……」


 二人は互いに顔を見合わせ頷くと、雄たけびが上がった場所へと駆け出した。


 そこで二人が見たものは……


「今日という今日は許さんぞ、キラっ!」


「それはこっちの台詞だよ、アスランっ!」


 キラとアスランはもみ合いになった状態で床に転がり、マウントポディションの奪い合い。


 キラが上になって殴ろうとするがアスランはキラの腕を取ってキラの体制を崩して隙を作り、上の位置を奪い取って反撃。


 するとキラは僅かに頭を動かし、アスランの拳を床へと打ちつけさせて怯ませ、その一瞬で再び上の位置を奪い取り逆襲に転ずる。


「何やってんだ、キラっ!」


 キラが再び殴りつけようとしたその時、ムウはキラを羽交い絞めにし強引にアスランから引き剥がし、メイリンに向かって叫ぶ。


「お嬢ちゃんはアスランを押さえろ!」


「えっ…、あっ…、……」


 ところがメイリンはこの光景に怯え、竦み、動く事すらままならない。


「一佐っ! そのまま押さえてください!」


 千載一遇の好機に、アスランは身を躍らせてキラへと襲い掛かるが、


「させるかぁぁぁぁ!」


 キラが叫ぶや、ムウは凍てつく様な戦慄が走った。


 キラは自由が利く足…、右足で蹴りを放った。


 キラの右足が床から跳ね上がり、鋭い弧を描いてアスランのこめかみを叩き、さらに高い宙空へと疾り抜けた。


「ア…、アスランさぁぁぁん……っ!」


 どさ……


 メイリンの悲鳴と同時にアスランの体は床へと沈んだ。


 再び右足を床に戻したキラは肩で大きく息をつき、無言でムウに解放するように促した。


 仰向けに倒れたアスランを無機質な瞳で睨みつけながら……


「キラ! 何があったんだ、おいっ!」


「正当防衛ですよ……」


 ムウの問いにキラはぶっきらぼうに呟き、くるりと踵を返した。


「こんなお役所仕事しか出来ない公務員なんかに話をしたボクがバカだったんですよね……」


「おい、ちょっと待て!」


「すいません…、急いでますので……」


 キラはそう言い残し、代表室から姿を消した。


『一体、何が……』


 ムウには事態が全く…、いや、キラがあれだけ激昂し、親友であるアスランを躊躇なく沈めた。


 今朝ムウの耳に入った情報とキラの性格を考えれば、答えは一つしかない。


『お姫さんの…、事だな……』


 ムウは胸の奥につかえていた空気を吐き出し、と同時に思う。


 早くてを打たないとキラが暴走してしまう……











 この程度の暴走では済まされない…、と……


























次回【Never End】第2話



封印解かれる時?

















《小話A》
さあ、いよいよ本編が始まりました!
いきなりキラが暴走しています!!(笑)



こうして改めて書き直して(見直して)みると、本当にウチのキラは人間出来てませんねw
まあ人間出来てないキラっていうのが、夜流田さんの基本路線ですので♪
《人間出来てないからこそ面白みのある人間があるって事で(微笑)》



それにしてもムウさん、完全にオヤジ入ってますね〜。
まあ、大多数の思いをムウさんが代弁してくれてんですけどねwww



まだまだ序盤、次回にも新たな登場キャラが出てきますよ〜。
さてさて、キラの暴走は止まるのでしょうかね???



えっ、凸について???
凸なんだから、あんなもんじゃねぇの???(おい)




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