【第2話 《封印解かれる時?》】
【オーブ・オノゴロ某所】
アンドリュー・バルトフェルドは長年の夢だったコーヒー農園を開き、穏やかな日々を過ごしていた。
二度と目覚めさせてはならぬ聖なる封印を守護しながら……
「よ〜し、出来た」
バルトフェルドはご満悦な笑みを浮かべながら出来上がったコーヒーを持ちテラスへと向かう。
ちょうど時間は昼間、日の光が容赦なくテラスに降り注ぐ。
それでもテラスへと吹きぬける潮風が暑さを適度なものとし、風の感触がテラスで待つ客人を優しく包む。
「随分と待たせてしまったね、お嬢さん?」
「なに格好つけているのですか?」
外へ跳ねた髪がチャームポイントの客人…、ミリアリア・ハウはくすっと笑いながら受け流す。
「その程度じゃ、あたしを口説け落とせませんよ♪」
「おっと。それは、こいつを飲んでから言ってほしいねぇ〜♪」
バルトフェルドは自信たっぷりに、持ってきたコーヒーをミリアリアに差し出す。
「いい豆が収穫できてね。そいつを水出しという方式で抽出してアイスコーヒーにしてみたのだが?」
「では、自信の程を♪」
ミリアリアはストローを差し、ゆっくりとそれを口に含む。
程よい苦味と酸味、それとほのかな甘みが口いっぱいに広がり、また冷たさが火照ったミリアリアの暑さをゆっくり奪っていく。
まさに昼間の至極の一杯……。
ところがストローから口を離したミリアリアはちょっぴり残念そうな表情を浮かべた。
「んっ? 何かご不満でも?」
バルトフェルドの問いかけに、ミリアリアは悪戯っぽく微笑む。
「コーヒーは最高なんですが、それに合ったスイーツがないのが非常に残念ですね♪」
「おっと…、これは参ったねぇ〜」
実に女の子らしい答えに、バルトフェルドも悪戯っぽく笑う。
「今からダコスタ君に買ってきて貰おうか?」
「ダコスタさんは今、エターナルの艦長じゃないですか」
「おっと、そうだったそうだった♪」
バルトフェルドとミリアリアは顔を見合わせ、くすくす笑いあった。
やがてミリアリアに出されたコーヒーもなくなると、バルトフェルドは真面目な顔で話を切り出した。
「ところで、今日はどうした?」
「ええ…、実は……」
「エルスマンと喧嘩でもしたのか?」
「違いますよ♪」
バルトフェルドとは逆にミリアリアは、あっけらかんとこれを否定する。
「あいつ、オーブ領事館で勤めてからとっても忙しいそうで……。全然かまってくれそうにないから適当にプラプラしてますよ♪」
「そりゃ残念」
「何を期待していたのですか?」
「特に何も。って事は…、やっぱり……」
「はい…、ご察しのとおりです……」
それまでとは一変し、ミリアリアは顔色を曇らせた。
「ラクスが公務中に倒れて緊急入院したって聞いて……」
「その事なら大丈夫だ」
バルトフェルドは穏やかに、冷静に、誠実に答える。
「倒れた原因は疲労性の貧血で、倒れた際にどこか怪我したとかという報告はない。
検査結果の詳細はまだ届いてないけど、二・三日ゆっくり静養すれば大丈夫との事だ」
「良かった…、のですが…、それ以上に心配な事が……」
「心配な事?」
この時、何故かバルトフェルドに軽いながら緊張感が走った。
それを見てなのか? ミリアリアも何故か視線をバルトフェルドから逸らしながら唇を動かす。
「実はここに来る前にキラの家に寄ったのですが、キラは家に居なくて……。
しかも、その時にカリダおば様に『キラを見つけたら連れて帰ってきて』と頼まれてしまって……」
「ああ…、それはまた……」
ミリアリアの話を聞いたバルトフェルドも、思わず視線を遠くへと向けてしまった。
ミリアリアはキラの親友として、バルトフェルドは戦友として。
それでも二人ともキラに対する見解は一致している。
普段のキラは大人しく、冷静で、物事を見誤る事などまずない。
しかしながら、ラクスの事になるとそれは一変する。
何しろキラの世界はラクスを中心に回っている。
そのラクスに大事が起こったとなれば、それはキラにとって世界崩壊危機を意味する。
確実に平常心を失い、狼狽し、急激に心身を疲弊させていくだろう。
いや、それだけで済むならばまだマシであろう。
万が一にも、その様なキラを刺激する愚か者がいれば間違いなくキラは豹変する。
狂戦士(バーサーカー)となる……。
そんな状態のキラと出くわしたら最後…、こちらの無事の保障などない……。
「残念だが…、キラの情報は一切来ていない……」
「そうですか……」
二人揃ってはぁ〜と、大きく溜息。
それはキラの所在が掴めていない事への落胆なのか?
それとも、身の危険が及んでいない事への安堵からなのか?
「まあ…、嵐は来ない事に越した事はないからね……」
「ですよね……」
もう一度、大きく溜息。
そして、今ある平和を心から神に感謝しようとしたその時だった。
「バルトフェルドさぁぁぁぁん!」
ビクンッ!
聞こえた声に、二人同時に戦慄が走る。
「ま…、まさか……」
「そ…、空耳ですよ……」
はっはっはっ……
二人揃って空笑い……
「バルトフェルドさんっ! ミリアリアっ!」
空耳ではない!
これは現実だぁ!
『ナンテコッタイ……』
バルトフェルドは現実から逃げようとしてしまいそうになるが、
「どうしたの、キラっ!」
ミリアリアは現実を受け入れ、大声でキラに呼び返す。
するとキラは息を切らし、大きく肩を上下させ、長い距離を走った為だろうか、震える膝を懸命に動かしミリアリアの元へ駆け寄った。
そんなキラの顔は汗でびっしょり濡れているにも関わらず、血色は完全に消えうせてまるで死人の様な青白さ。
瞳もまた瞳孔が開いているかの様に輝きはない。
それでも、その瞳の奥からは僅かながら憤怒の炎が見える……
「ミリアリア…、聞いてよ……」
「ラクスの事ね? 大丈夫よ、ラクスは大丈夫だから」
ミリアリアはバルトフェルドから聞いた事をそのまま…、いや聞いた事以上に柔らかくキラに伝えた。
しかし……
「それでもボクは…、ボクは行かなきゃダメなんだ……っ!」
キラも懸命に込みあがる衝動を抑えようとしている。
それはミリアリアにも、現実逃避しかけたバルトフェルドにも分かる。
それでも…、込みあがる衝動を抑えることが出来ない。
「なのにアスランは…、アスランはぁぁぁぁぁっ!」
キラは狂った様に叫び、嘆きの咆哮の如く事の顛末を二人に話し始めた。
『当たり前だろ…、と言いたいが……』
『無茶にも程があるわよ…、と言いたいけど……』
二人の率直な感想は誰もが思う事である。
しかしながら、さながら銃弾の雨が降り注ぐような今の状況へと誘った人物に対して……
『ブースターケチった結果がこれだよ……』
『本当、空気読めないバカね……』
何故か出てしまう恨み節。
とは言っても、正論もキラへの同調も出来る状態ではない。
正論を言えばキラは大爆発…、同調すればキラは増長し、被害が拡大する危険がある……。
どうすれば被害を最小限に食い止める事が出来る?
二人は目を見合わせながら考えようとしたその時、
「だからボクは封印を…、フリーダムを取りに来ました!」
キラの叫びに二人は我に帰り、と同時に答えも見つかった。
『あっ、その手があったな』
『自分の機体なら、問題ないわね』
二人ともキラの言葉に対する驚きは全くないにしても、確かに少なからず罪悪感はある。
それでも、これ以上の解決策など思い浮かばない。
思い浮かばない以上、これが最善の策である。
「よし、分かった」
バルトフェルドは軽く肩で息をつき、じっとキラを見た。
「キラが必要としているなら、僕がそれを止める権利などない」
「バルトフェルドさん…、ありがとうございます!」
「礼は後でいい。それよりも鍵だ。キラ、鍵を貸せ」
「はい!」
いつしかキラの瞳に光は戻っていた。
しかし、それも一瞬の事だった……
「アアアアァァァァァ――――っっ!」
次回【Never End】第3話
大天使の聖母
《小話B》
今回は虎さんとミリィが登場です。
ちなみに、ここはサンプルの【TEA TIME】のシーンでもあります。
それにしても、夜流田さんのミリィは肝が据わってますねぇ〜w
まあ、原作でも相当のしっかりものだったので違和感はないと思いますが。
虎さんが少し壊れ気味? はははっ、気にしちゃ負けですよ♪(おい)
ちなみに今回も原作をイジってます。
ええ、凸の扱いが(えっへん!)
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