【第4話 キラ・ヤマト宇宙(そら)へ】
【モルゲンゲーテ 緊急発射ハッチ】
「ボクがこの機体を……」
キラは目の前にある機体を見上げ、そしてそれを用意してくれた機体の持ち主…、いや預かり手を見た。
「本当にいいのですか、ムウさん?」
「いいも何も、こいつはお前の妹の機体だろ?」
困惑気味のキラにムウは、いつもの調子で言う。
「だったら、兄貴のお前が使った所で全然問題ないって♪」
「カガリは妹でなくて姉さんです!」
「おっと、こいつは失敬♪」
ムウは全く悪びれた様子もなく飄々と笑いながら、キラ同様に金色に輝く機体を見上げた。
ムウの機体……《ORB―01 アカツキ》
オーブに既存するMSの中で別格中の別格の一番機であり、今は亡きウズミ・ナラ・アスハが愛娘に託したオーブの魂と言うべき名機。
この機体ならば間違いなく大気圏を突破できる。
また苦しいとは言えムウの言うとおり、これはカガリの機体。弟であるキラが使っても明文は立つ。
「ちゃんとブースターもセットしてある。後はお前がちょちょいとOSを書き換えれば問題なしだ」
「ですがムウさん…、どうして……」
「あの時のお前を見て、『こりゃアカツキが必要だな』と思ってな」
ムウはキラの疑問に答えると、きりっと表情を引き締めた。
「そんな事より早くこいつでエターナルへ行け」
「エターナル…、ですか?」
「そうだ。今頃、虎の旦那が向こうに連絡を取って色々と手筈を整えてくれている」
「は、はいっ!」
キラはムウに深々と頭を下げアカツキのコックピットへと向かおうとした。
すると、何故かムウは一歩目を踏み出した瞬間のキラの肩を掴んだ。
「悪いキラ、ちょっと待て」
「どうしたのですか、ムウさん?」
「ついでって言うにはおかしいが…、ミリアリアの嬢ちゃんと一緒に行け」
「どうしてですか?」
思いがけないムウの言葉にキラはきょとんとしたが、言った本人は至って真面目な顔のままで続けた。
「上手くは言えないが…、向こうで嬢ちゃんの力が絶対に必要になると思ってな……」
「分かりました。ミリアリアと一緒に行きます」
「まあ、深く考えでくれ。それと、この借りは大きいからな♪」
「はい!」
キラは確固たる思いを秘めた表情ではっきりと頷き、ミリアリアの元へ駆け寄り、彼女の手をとりながらアカツキへのコックピットへと昇っていった。
『俺も随分と世話焼きになったねぇ……』
コックピットへと消えていくキラ達の姿を眺めながら、ムウはしみじみ思う。
確かにキラは戦友であり、恩人。
それでも、かつての自分が他人の為に面倒を被る事などしたか?
いや…、数々の出会いがムウを変えたのだ……。
キラ然り、愛するマリューも然り…、そして何より……
『な〜にセンチになってんだよ俺……?』
何かを誤魔化すように完全に閉じられたアカツキのコックピットから視線を外した先に、ムウの目は留まった。
そこは管制室…、そしてそこにいるのはツインテールの赤い髪の女の子メイリン・ホーク。
遠目ではっきりとは確認できないが、その様子は明らかに慌てている。
『まさかっ!』
ムウに戦慄が走る。
『嬢ちゃん、馬鹿な真似はやめろっ!』
自分の勘が間違っていなければメイリンの命が危ない!
ムウの足は考えるより先に管制室へと駆けた。
「―――、システム、オンライン、ブーストラップ機動……」
同伴する事になったミリアリアはキラが座るすぐ後ろからもの凄い速さでOSを書き換える光景にただただ呆然としていた。
元々、ムウ及びオーブMSのOS製作に携わっているキラとはいえこの速さは明らかに異常。
もはやコーディネーターであるとかないとかの次元の話ではない。
そして、後ろから見ていてもはっきりと見て取れる焦燥感。
その証拠にOSの書き換え中、キラは何度も舌打ちや悪態を挟む。
「ったくムウさん、おかしなセッティングして……」
キラはキーボードを叩き終えると、ボソッとぼやく」
「また新しいOS作らなきゃいけないし、テスト運転にお付き合いだよ」
「キラ。用意が出来たんだったら」
ぼやきが止まりそうになかったのか、ミリアリアは渋い顔で間に入った。
「さっさと行きましょ。ラクスが待ってるんでしょ?」
「あっ…、そうだったね……」
その言葉にキラは冷静さを取り戻し、苦笑いを浮かべた。
「色々と迷惑かけてゴメン、ミリアリア」
「気にしないで。どうせ、いつもの事なんだから」
「はい……」
キラは苦笑を浮かべたままキーボードを仕舞うと、間髪入れずに操縦桿に手をかけ、管制室へ通信を繋いだ。
「こちらキラ・ヤマト。発信準備完了、ハッチ開放を願います」
「発信許可…、出来ません!」
「なっ!」
帰ってきた返答はキラにもミリアリアにも到底ありえないものだった。
「何を言っているんだぁ! いいからハッチを開けてっ!」
キラの怒号がコックピット内に響き渡り、ミリアリアの鼓膜を激しく揺らすが、
「代表の許可なしに無断でMSを発進させる事なんて出来ません!」
あまりに状況にそぐわなすぎる管制室の指令に、キラはさらにミリアリアの鼓膜を激しく揺らす。
「代表はボクの姉さんだ! つべこべ言わずに開けろっ!」
「それは分かっています! でも…、発進は許可できません!」
キラの怒号に混じって聞こえてくる無線の声。ミリアリアには聞き覚えがあった。
機械を通している為、本来の声とは若干の違いはあるが、その声は間違いなく、
「メイリン? メイリンなのね?」
「メイリン……っ!?」
ミリアリアの反応に、キラの怒気はさらに高まる」
「メイリン…、どうして君がこんな事をっ!?」
「はわわわぁ……。そ…、そんな事を言われても……」
聞こえてくる声が怯えに染まり始める。
にも関わらず、キラは容赦なく怒鳴り散らす。
「今こうしている間もラクスは苦しんでいるんだ! ボクが行かなきゃダメなんだ! メイリンにだって分かるだろっ!」
「わ…、分かります……。で…すが……、規則は……」
「規則なんて糞喰らえ……はぁっ!? まさかっ!?」
刹那、コックピットを包む熱さが一瞬にして凍えついた。
「アスランか…? アスランの差し金かぁぁぁぁぁ!」
「あ…、わぁぁ……」
通信の声が完全に恐怖に支配された……。
メイリンも理解している…、殺意が向けられている事を……。
だが、それでも尚、キラは凍える殺意を込めた声で怒鳴り続ける。
「アスランの命令だからなの! あんな奴の命令だからってボクの邪魔をするの! ラクスが待っているっていうのに君はっ!」
「わ…、わたしは……」
メイリンの反応は、もはや反射的なものに過ぎない。
死への恐怖にもはや行く事も引く事も出来ない…、キラの後ろで見ているミリアリアには充分すぎるほど分かる。
しかしながら肝心のキラが、この状況を全く分かっていない。
「まだ邪魔するなら……、ボクは君を討つっ!」
この時、計器に僅かに映ったキラの顔。
まさしく凶戦士…、いや、もはや死神……。
「キラっ、ストップ! ストッ―――――プっ!」
それを見た瞬間、ミリアリアは己の危険を顧みずキラを取り押さえた。
「キラ、なに焦ってんのっ! ハッチはちゃんと開くわよ! それに、あれはアスランじゃなくてメイリンよっ!」
「ボクが焦ってる? ボクは冷静だよっ!」
「どこが冷静なのよ! いいから落ち着きなさい!」
ミリアリアは怒鳴り、暴れるキラを懸命に抑えようとするが全然落ち着いてくれない。
ミリアリアにとって、こんなキラは初めて…、いや過去に一度だけや探れていた時代は知っている。
それでも、その時とは比較にならない程の狂乱っぷり。
『お願いだからハッチ開いてぇぇぇぇぇ!』
ミリアリアが心の中で叫んだその時だった。
今の今まで閉ざされていたハッチが開き始めた。
メイリンが正気に戻った? それとも死の恐怖に屈した?
そう考えていると、男の声が通信に割り込んできた。
「キラっ! ハッチは開けた! 早くいけっ!」
「ムウさん!」
「嬢ちゃん! 発進合図を頼む!」
ムウの声にミリアリアは我に返った。
「はっ、はい! ……ああっ、もう面倒だから全部省略っ! システムオールグリーン! アカツキ、発進どうぞっ!」
ミリアリアが叫ぶや否や、キラは一瞬にして落ち着いた。
そして再び操縦桿に手を掛け、
「キラ・ヤマト。アカツキ、行きますっ!」
発進の掛け声と同時に、アカツキは始動。
そのまま開いたばかりのハッチから疾風の如く金色の機体は天高く舞い上がった。
次回【Never End】第5話
ミリアリア無双
《小話D》
今回はムウさんが登場です!
でもって、ようやくキラが宇宙へと飛び立ちました
これでオーブ内乱の危機は去りましたねぇ〜w(えっ)
キラにとってムウさんは実の兄のような存在と夜流田さんは思ってます。
と同時に、最も頼れる大人であると思ってます。
ムウさんもキラを実の弟の様に思い、色々と世話焼いてくれます。
もっともムウさんは、あの2年間があってこそ余計にキラに思い入れている節もあるかな?っと…
しっかしメイリンの扱いが…、ごめんよメイリン……(滝汗)
メイリンは良い娘ですよ。悪いのは全部凸なのよ!(おい)
さて次回からいよいよ舞台はプラントです!
ってか次回のタイトル【ミリアリア無双】って何だ!?(待て、おまいは作者だろ?)
次回は少し間隔が開きますが、お楽しみに!!
《2週間ばかり夏コミ新刊の為のネタ作り。もといプロローグだけでも完成させなきゃ!!》
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