「どうぞ」


カリダは柔らかな微笑みを浮かべ、客人にお茶を出した。


「ありがとうございます、叔母さま」


金髪の少女――、カガリは少し緊張気味にカップを手に取った。


キラとカガリは血の繋がった姉弟。


本来ならば、カガリがカリダを【叔母】というのはおかしい。


しかしカリダはキラの育ての親であり、カガリもカリダの存在を知ったのはつい最近の事。


だから、カガリはカリダを【叔母】と呼んでいる。


ところが、肝心のカリダと言うと、


「叔母様よりもお母さんって呼んで欲しいわ♪」


っと、にこやかに微笑みながらカガリを茶化す。


「そ、そんな! わ、わたしは……」


「無理しなくていいわ。気が向いたときでいいから♪」


「も、申し訳ない…です……」


カガリは恥ずかしげに床に視線を落とした。


それでも、【母】と呼べる存在がいる。


その嬉しさは、何物にも代えがたく思えた。


カリダはそんなカガリを楽しそうに見つめながら、カガリの隣に座る男にも声をかけた。


「アスラン君も、どうぞ」


「は、はぁ……」


アスランは困惑とも見て取れる表情でカップに手を伸ばした。


『早く帰りたいよ……』


アスランは心から願ったその時だった。


「あっ! アレックスとカガリお姉ちゃんだ!」


家の子供達が三人のいる応接間に飛び込んできた。


「アレックス、きょう変なメガネしてない〜」


「カガリおねえちゃん、遊ぼうよ♪」


「ねえねえ、一緒に遊ぼうよ〜」


ヒナ鳥みたいにアスランとカガリに群がる子供たち。


カガリは困惑しながらカリダの顔を見た。


「お、叔母さん……、どうしたら……?」


「あらあらまあまあ♪」


カリダは柔らかな微笑みを浮かべた。


「カガリさん、今日は泊まっていくのね?」


「あ…、えっ、ええ……。休暇は明日一杯までありますので……」


「だったら、子供たちと一緒に遊んできたら?」


「で、ですが…、わたしは……」


「お話は、後でゆっくりできるわ」


カリダは笑顔と言う言葉で子供たちを促した。


「わ〜い♪ わ〜い♪」


「絵本よんで、よんで〜」


「キラおにいちゃんのお話も聞かせて〜♪」


生まれたばかりの子猫のようにカガリにくっつく子供たち。


「わかった、わかった。だから、そんなにひっつくな」


言葉は乱暴でも、カガリの顔は笑顔で一杯だった。


すると、そんなカガリの手助けをする為か、


「カガリ、俺も行くよ」


アスランは席から立ち上がろうとした。


ところが、


「アスラン君はここにいて」


カリダはにっこりと笑いながらアスランを見つめた。


「アスラン君とは、色々とお話したいの」


「えっ!? で、ですが子供達は……」


「みんな〜、アレックスは後で遊んであげるって♪」


カリダはアスランが言うのと同時に子供たちの呼びかけた。


すると、すぐに「は〜い♪」と元気に返事し、カガリを引っ張り始めた。


「ア、アスラン??」


「カ、カガリ! お、俺……」


「カガリさん、しばらくアスラン君を借りるね♪」


再び、カリダはアスランと同時に言葉を発した。


「ごめんね、無理言っちゃって」


「いえ。叔母さまも、アスランとは久々ですから」


「じゃあ、また後でね♪」


カリダがカガリに言うと、子供達とカガリは応接室から出て行った。


カリダと二人きりの応接室。


アスランは沈着を守ってはいるが、心の中では頭を抱えていた……。


アスランは幼少の頃からカリダとは面識がある。


しかし、今のアスランはどう見てもよそよそしい。


確かに会うのは数年ぶりではあるが、それを考慮してもおかしい。


『全然変わってないな…、昔と……』


アスランは心の中で呟きながら、極力カリダから視線を逸らした。


そう、アスランはカリダが苦手なのだ。


今日にしても、カガリが「キラのお母さんに挨拶しなきゃ!」という事で無理やり連れてこられたのだ。


今、ここにいるのはアスランの本意ではない。


『何でこうなるんだ……』


この気まずい空気を何とか打破したい。


しかし、アスランにそのような術などある筈がない。


当然、退却路など存在しない……


などとアスランが思っていると、おもむろにカリダが口を開いた。


「昔と全然変わってないね。アスラン君♪」


おっとりとしたカリダの物言いは、聴く人全てが良い印象を受けるだろう。


だが、アスランは何故か恐怖を感じていた……


『何を考えている…、この人は……!?』


アスランは俯きながらカリダの様子を盗み見た。


昔と変わらない笑顔と美貌。


キラの母親と言えば、誰もが納得しそうな優しい雰囲気を身に纏う人。


なのに、アスランには恐怖以外なにも感じ取れない……


『一体、何を企んで……』


心を落ち着かせようと、カップに口をつけたその時だった。


「相変わらず、キラにちょっかい出しているのね♪」


ぶはっっっ!!


あまりにも想定外の言葉に、アスランは思わず噴き出してしまった。


「ごめんなさい、間違えたわ」


ところが、カリダは平然とした様子で言葉を続ける。


「今はキラにそっくりのカガリさんにちょっかい出しているのよね♪」


「お、おばさん!!」


カリダの言葉に、アスランは顔を真っ赤にしながら思いきりテーブルを叩いた。


ところがカリダは驚くどころか、


「あらあら? 冗談よ♪」


涼しげに笑いながらカップを手に取った。


「本当、変わっていないわね。アスラン君♪」


「そんな冗談はやめてください!」


「あらあら。だけど……」


カリダはカップを置くと、意味ありげな笑みを浮かべた。


「ラクスを捨てたのは事実…、よね……?」


「な、なにを言い出すんですか!?」


アスランはさらに激しくテーブルを叩いた。


しかしカリダは怯むどころか、


「ラクスと婚約中にカガリさんと一夜を過ごしたよね?」


笑顔のまま、さらりと言い切った。


直後、アスランの背中に冷たい何かが伝った……


「そして、一方的に婚約を解消してラクスを捨てたのよね?」


『ちょっと待ってください!』


最初に言葉は間違っていないが、後の言葉は間違っている!


「捨てられたのは俺だ!」と叫ぼうとした。


だが、言葉が出なかった……


出せなかった……


と同時に、ふと思った。


この針の筵に座らされているような感、以前味わった事があると……


そして、カリダが誰かにそっくりであると……


その答えは、すぐに判明した。


「あら? あらあら♪」


柔らかな声がアスランの背後から聞こえたが、アスランは振り返らなかった。


振り返る事を本能が拒んだ。


「お久しぶりですわ、アスラン」


声の主――ラクスは穏やかな笑みを浮かべながら部屋に入り、カリダの横に座った。


「お、お久しぶりです……」


アスランはぎこちなくではあるが笑みを浮かべ会釈した。


ところが心の中では……


『どうしてラクスだけなんだ……っ!』


本来、ラクスの隣にいるべき人間の不在を激しく毒づいた。


この状況……


言うなれば孤立無援の状態で最前線に放りこまれたのと同じ。


それも敵は、フリーダムにドムトルーパー3機。


勝ち目など…、ある筈がない!


「ところで、何を話されていたのですか?」


ラクスはカリダに話しかけた。


これは、アスランにとってロックオンされたのと同じ……


だが、ロックオンから逃れる術などない……


「アスランがラクスを捨てたって話をしていたの♪」


笑顔でラクスの問いを返すカリダ。


言っている本人からすれば、悪意など微塵もないであろう。


だが、アスランにはこれほど惨たらしい攻撃はない……


「あら? あらあら……」


カリダの答えに、ラクスは少し困った顔をした。


「それは違いますわ、カリダさん」


『ラ、ラクス……!?』


集中砲火と思いきや、援助の手?


アスランは、僅かにもたらされた希望に感謝した。


直後……


「わたくし達、捨てた・捨てられたという関係ではありませんでしたわ」


ラクスは半ば呆れきった顔でアスランを見た。


「確かにわたくし達は婚約関係でした。ですが、アスランは一度たりともわたくしをわたくしとして見てくれませんでしたわ」


『え…、えっ……?』


アスランにはラクスの真意が分からない。


「あの時のわたくしは【ザフトの歌姫】。アスランはそれを守る護衛のような…、いいえ、その任務だけを全うしているだけでした」


「あらあら……」


「それにわたくしが踏み込んでも、アスランは逃げてばかり……。そんな状態でしたわ、ずっと……」


ラクスは疲れきった顔で言い終えた。


「あらあらまあまあ……」


カリダはそっとラクスの頭を撫でた。


「辛かったわね、ラクス……」


『全部、俺が悪いのか……』


カリダとラクスを見て、アスランは思う。


あの時の俺はラクスの本質を見ようともしていなかった。


また、ラクスから逃げていたのも事実だ。


だが、しかし……


『今になって、何故それを……!?』


アスランはやり場のない憤りを覚えた。


と、その時だった。


「へぇ〜、そうだったんだ……」


背後から聞きなれた声。


しかし、その声には明らかに怒気が含まれていた。


『な、なんで……!!』


アスランは振り返られなかった。


そして、神を恨んだ……


『なんでキラがここにいる!!』


「本当…、鈍いとかという問題じゃないよね……っ?」


ポンッと、アスランの肩に手が置かれた。


いや、しっかり掴まれたというべきか……


「でも、君がそんなんだっからボクはラクスと一緒になれたんだけど……」


背後の声は屈託のない様に聞こえるが、アスランは感じとった。


キラの怒りと憎しみを……


「ボクは許せないな……っ!」


「「キラ」」


呻く様なキラの声に、ラクスとカリダが即座に反応した。


「それは、今からゆっくり話をするからね」


「カガリさんの今後にも関わる事ですから、キラも座ってくださいな」


カリダとラクスはにっこりキラに微笑んだ。


「そうだね…、ゆっくり話をしようね、アスラン……っ」


キラはアスランの肩をしっかり抑えたままアスランの横に座った。


そして……


【アスラン君、覚悟しなさい!】


【アスラン、覚悟はできていまして!】


【アスラン、これは姉さんの為なんだからね!】


3人揃って、目でそれを勧告した。


『なんで、こうなるんだ……』


アスランは半ば開きかけた瞳孔に映る世界を呪った。


「カガリ…、助けてくれ……」


それが、アスランの最後の言葉だった……




















《あとがき》
【Crystal Pearl】砂城 叶さまのリクエスト小説です。
ちなみにいただいたお題は…

《リクエストCP:カリダさん&キララク&アスカガ》
《リクエスト内容:キララクだけでなく、カリダさんや他の皆に弄られるザラさんがみたい》

というダイナミックなものでした(笑)
とは言いましても、管理人ごときの文才でここまで書くのはさすがに無理です…(土下座)
そういう訳(?)で、キララク&カリダさんに弄られるアスランという事になりました♪

カガリを絡ませなかったのは、立場上カガリはアスランを弁護せんといけない為で…
「そんな過酷な任務は与えられない!」と言う事で途中で離脱させています(爆)
途中もの凄く黒々しい話になりかけたり、お茶を濁したりしていますが、
お望みに近いものでありましたら光栄でございます。
《改めて、己の文章力のなさを痛感しました…(土下座)》

タイトルの【似たもの同士】の意味。
もう今更、説明の必要はないでしょう(笑)
《カリダさんを基本にすると。ラクス→(ほんの少しだけ)平和的なカリダさん キラ→武闘派カリダさん(えっ)》

それにしてもアスラン…、ご愁傷様です……
亡骸はちゃんとオノゴロ沖の魚のエサにしてやるからさ♪(おい)
でも、アスラン弄るのって楽しいですね♪(ちょっと待て)
もう、アスランに対する愛は非常に歪みきっていますね♪
ってか、「格好いいアスランを書け!」って言われても、もう無理♪(言いやがった)

真面目な話になりますが、書き手としましては非常にやりがいのあるお題でした。
複数人同時に動かす描写、これが管理人の弱点であります。
これが少しでも良くなって、今後に繋がれば幸いです。


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