『これは夢…、なのでしょうか……?』


ラクスは今置かれている状況に戸惑っていた。


「ラクス?」


ラクスの正面に座るキラは、戸惑うラクスににっこり笑いかける。


「どう、美味しい?」


「えっ…、ええ……。美味しいですわ……」


ラクスは笑顔を取り繕ったが、心中は戸惑いで一杯。


誤魔化すように料理を口に運ぶが、どうも味が分からない。


『まさかキラが…、こんな場所にわたくしを……』


それは今より数時間前の事。


プラント出立の準備も一段落付いた時にキラが、


「今日は二人きりで晩御飯食べに行こうよ」


との誘いを受け、一緒に来た。


ラクスの想像では、それ相応の場所とは思っていたのだが……


場所はオーブ本土にある高級レストラン。


ところが、客としているのはラクスとキラだけ。


言ってしまえば、完全な貸しきり状態。


付け加えるなら、最高級と言って過言ではないこのレストラン。


当然、ドレスコードも厳しい。


しかしながら、ラクスが知る限りキラがドレスコードに引っかからない服装を持っている記憶はない。


だが、今のキラの服装は見事なまでの正装。


ダークスーツを身に纏い、ピシッとネクタイ、おまけに髪もしっかり整えている。


少々女の子に見えるキラが、今は見事までに紳士である。


無論、ラクスもしっかりドレスコードを守っている。


服装は淡い桜色のイブニングドレス。


しかも、これはラクス自前の物ではなくキラが来店の前にラクスに渡した物。


「ねえ、ラクス」


不意にキラがラクスに話しかけてきた。


「そのドレス、似合っているよ♪」


「えっ!? ええ……」


「うん。本当、綺麗だよ」


キラはすっかりご満悦。


逆にラクスは、到底ありえないキラの言動に押されっぱなし。


場所しかり、服装しかり、エスコートしかり……


いくらプラント出立前夜とは言えでも、これはあまりにも異常……


だが、ラクスからキラに話しかけることが出来たのはデザートの皿が下げられ、お茶が出された時だった。


「キラ、よろしいですか……?」


ラクスは不安げにキラに訊ねた。


「今日は…、一体どうしてこのような……」


「ラクスがプラントへ行く送迎だよ」


キラは事何気なく答えたが、


「ですが…、わたくしは一ヶ月ばかり行くだけですのにここまで……」


ラクスは戸惑いの瞳を包み隠さずキラへと向けた。


そんなラクスに、キラは穏やかに微笑んだ。


「確かに、ボクらしくないよね」


「そ…、そんな事は……」


「でも、こういう機会しかないから。ボクが格好付けられる機会って……」


キラはカップを手に取り、どこか寂しげな笑みを浮かべた。


「それに、いくら頑張ってもアスランみたい……」


「それは、キラの完全な思い込みですわ」


ラクスはキラが吐露する事を察するや、すぐさまそれを否定した。


「アスランは今のキラのように紳士な振る舞いなど、一度もわたくしにしてくれませんでしたわ」


「そんな…、いくらアスランだって婚約者時代には……」


「キラはアスランがそこまで甲斐性がある人と思っているのですの?」


ラクスは僅かながら語気を強めた。


「わたくし初めてですのよ。こんな素敵な場所で男の人とお食事するのは」


「えっ……?」


あっという間に攻守は逆転。


今まで堂々としていたキラの表情が、ラクスが知るいつものキラに戻った。


「そう…、なの……?」


「はい。ですから、わたくし戸惑ってしまいましいましたわ。ですが……」


ラクスはキラにしか見せない顔で、心の底から告げた。


「改めてキラ…、あなたに心を奪われてしまいましたわ♪」


「そそそそ…、そんな……」


ラクスの言葉に、キラは見事に撃沈。


顔を真っ赤に染め上げ、俯いてしまった……


「あら? あらあら♪」


すっかり普段に戻ってしまったキラへ、ラクスは悪戯っぽく囁く。


「まだまだ詰めが甘いですわね、キラ♪」


「うん…、まだまだ甘いよ……」


「そんなキラの事ですから、この後の予定は全く考えていませんわね?」


「うっ……! う…、うん……」


キラはすっかりしょげてしまった。


キラの中では食事が終われば、そのままご帰宅。という考えだった。


「本当に詰めが甘いですわね♪」


ラクスは両肘をテーブルに付き、組んだ手の上に顎を乗せ上目遣いでキラを見つめた。


「わたくし、まだ満足していませんわ♪」


「ご…、ごめん……」


「もう〜! そうではありませんわ!」


ラクスはぷくっと膨れながらも、さらに甘く囁いた。


「せっかくの夜ですのよ? わたくしはもっとキラと一緒にいたいのですわ」


「……えっ?」


ラクスの言葉に、キラはハッと顔を上げた。


「ちょ…、ちょっとそれって……!?」


「その先はキラが言ってくださいな♪」


これには鈍感なキラでも、ラクスの心中を察することが出来た。


ラクスは今夜、一緒に過ごしたいといっている。


それをキラに言えと言っている。


当然の事ながら、ラクスはそれを望みキラも望んでいる……


「ララララ…、ラクスっ!!」


キラはガタンと勢い良く立ち上がり、


「い…今すぐ、いい部屋見つけて取ってくるから!」


言い終わるや、猛ダッシュで外へと飛び出してしまった。


『あらあら♪ キラったら♪』


独りになったラクスは満足な笑みを浮かべ、カップを手に取った。


『まだまだ精進が足りませんわ♪』


ラクスはカップを口に当て、今までキラがいた場所を見つめた。


今日のキラは本当に紳士だった。


と同時に、しばらく離れ離れになる寂しさを振り払おうと必死だった。


それでも、それをラクスに悟られまいと懸命にラクスをエスコートした。


そんなキラの心遣いが切なくもあり、嬉しくもあり、楽しませもしてくれた。


しかし、完璧に終わらない所がキラ。


結局、普段通りの流れになってしまっていた……


『ですが……』


不意にラクスは現実的な事を考えてしまった。


『今日のお支払いは大丈夫なのでしょうか……?』


確かにキラはオーブに戻ってから、影ながらオーブの仕事に従事している。


それでも、これだけの高級店の支払いが出来るとは到底思えない……


『無粋な事を考えるのはやめましょ♪』


ラクスは気分治しにカップを置き、代わりにワイングラスに手を取った。


そして、くいっとグラスのワインを飲み干した。


『だって、夜はこれからですものね。キ・ラ♪』














ラクスは深まる夜へと思いを馳せた……




















《あとがき》
キリリク小説【100000HIT 達成者macherie様】
ちなみにお題目は……
指定CP:キララク
指定内容:慰霊碑直後のキララク ラクスが議会に乗り込んだ所
という物だったのですが、ラクスが議会に乗り込む前ですとキラが傍にいない。
それでもネタは浮かんだのですが、これが思わぬ方向へと進むことになりまして…!

そういう事から、ラクスがプラントへ出発する前夜のベタベタ話にしました♪
《リクエストから少し(?)逸れてしまいまして、本当に申し訳ございません…》

格好いいキラにしつつ、最後はいつもどおりのキラたん。
乙女チックにしつつ、最後はいつもどおりのラクス。
やっぱ、これが管理人の芸風(?)と再確認しました(笑)

さてさて、この後二人はどうなったのか?
こいつは興味が尽きませんなぁ〜〜♪


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