「なあ、アスラン?」


隣に座るアスランを見つつ、辺りをきょろきょろと見渡した。


「これ、本当におまえが……?」


「ああ、そうだ」


アスランはぶっきらぼうな顔で答えた。


「今日は俺とおまえの二人きりだ」


「いや、二人きりって……」


返ってきた答えに戸惑いを隠せない。その理由は……


「ここ、バーだよな?」


「そうだ」


「バーって、普通もっと客入っているよな?」


「カガリ……」


アスランは溜息を一つ吐き、いつもの愛想に欠けた言い草をした。


「失礼だぞ。いくら悪気がないって言っても」


「し、しかし……」


「だから今日は俺とおまえ、二人だけの貸し切りだ」


アスランはそう言いながら正面を、カウンターの向こうをじっと見つめた。


『何がどうなっているんだ……』


頭の中はハツカネズミが駆け回っている。


それでも、この状況に至った経緯を自分なりに整理した。








何故か今日の公務の予定が全て前倒しになっていた。


いつもならアスランがちゃんとスケジュールを組んでいるのに。


お陰でわたしは一日中ドタバタする羽目になった。


だがその甲斐あって、夕方前には全ての公務を終えることが出来た。


今日はゆっくり出来る…、と思ったのだが……


『何も言わずいきなりだったよな……』


そう。公務が終わるや否や、アスランはわたしを連れ出した。


無論アスランと言えども、無断でわたしを連れ出すことは出来ない。


ところが真っ先に止める筈のキサカも何故か、


「素晴らしき夜を楽しんでまいりなさい」


とだけ言い残し、さっさと帰ってしまった……。


全くもって訳が分からない。


まあ、でも……


こうしてアスランと二人きりになれたのだ。


そのことに関しては素直に嬉しい。








『それでも……』


この状況はどうしても理解できない。


お洒落なバーに二人きり、それも貸し切り。


『アスランにそんなお金の余裕なんてあったか?』


不安だ……


まあ、お金の問題ならばわたしが払えばいいだけの事だ。


「なあアスラン」


「………」


話しかけても何の返事も返さず、黙って何かを待っている。


一体、何を待っているのだ?


それに今日は何の日だったか?


何か特別な日じゃなかったら絶対にこんなことはしない…、と思う……


と思ったその時だった。


「お待たせしました」


カウンターの向こうにいる人がすっと私にグラスを差し出した。


それは淡い緑色のお酒。


グラスの底には、多分さくらんぼだと思うものが入っている。


『綺麗だな……』


本当に綺麗な緑色だ……


まるで宝石…、エメラルドみたいだ……


「誕生日、おめでとう」


少し微笑んだアスランが自分のグラスを持ちながらそう言った。


「えっ…、あっ……」


ここでようやく今日が何の日か思いだせた。


今日は5月18日……


私の誕生日だ……


「ひょっとしておまえ……」


アスランは肩透かしを食らったような、もう見事なまでに呆れきった顔をした


「自分の誕生日、忘れてたのか?」


「いや! そんな事は…、な……」


「忘れてただろ?」


アスランは一瞬苦笑いを浮かべたがすぐに優しく微笑み、また自分のグラスを私の前に差し出した。


「本当、そういう所は無頓着だな」


「無頓着とは何だ!」


思わずカチンときてしまい、語気を強めてしまった。


「大体おまえ! そういう事は事前に知らせるもんじゃないのか!?」


「教えてどうする? 教えたら楽しみがなくなるだろ?」


「それにキラは!? わたしの誕生日って事はキラの誕生日なんだぞ!」


と言った瞬間、もの凄くアスランの顔が不機嫌になった。


「キラは関係ないだろ!」


「関係ないわけないだろ! あいつはわたしの弟だ!」


「俺はカガリと二人きりでいたいんだ!」


と激しく言いながら、アスランの顔は真っ赤になっていた。


でも、それはわたしも同じ…、いやそれ以上だ……


「本当はおまえの誕生日の祝賀行事も予定に入っていた……」


さっきまでの強気はどこへやら。


今のアスランはとても弱気だ。


「だけど、そんな席じゃ二人きりになれないから…、だから……」


「アスラン、おまえ……」


「カガリには俺しかいないって…、自惚れてるから……」


本当、自惚れてるよ……


でもその自惚れ…、とても嬉しい……


色々とあったけど…、わたしにはアスランしかいないんだ……


「アスラン、聞きたいことがある」


わたしは出されたグラスを手に取り、アスランへ向けた。


「どうせキザなおまえの事だ。これにも何か意味があるんだろ?」


「キザって……」


「教えろよ。隠すことじゃないだろ?」


「それは【青い珊瑚礁】というカクテルでございます」


不意にカウンターの向こうにいる人がわたしに話しかけてきた。


「5月生まれの誕生石エメラルドをモチーフにしております。ちなみに石言葉は【幸運・幸福】でございます」


なるほど。


だからエメラルドの様だと思ったんだ。


「本当は指輪をプレゼントしたかったけど…、その高いから……」


アスランは恥ずかしさを懸命に隠しながら、じっとわたしを見つめてきた。


「だから…、せめて二人きりで……」


「本当キザな奴だよ。おまえは」


そう言いながら、自分のグラスをアスランのグラスに近づけた。


「じゃあ今日はとことん飲もうか」


「そうだな」


アスランの持つグラスとわたしのがそっと触れた。











わたしの誕生石エメラルド


石言葉は【幸運・幸福】


でも、それを与えてくれるのはエメラルドでもこのお酒でもない。


与えてくれる人はこの世でただ一人……


アスランだけだ……

















《あとがき》
バーで二人きりで大人の一時を、という感じのカガリの誕生日。
でも、なんですか…? ここまで難しいとは思わなかった……
格好いいアスランを書くのって(爆)
《本当、上手く書けたか自信ないです。はい…》

キャラ考察ではアスランの事を散々に言ってはいますが、夜流田はアスランは好きですよ。
カガリしか目に入っていないアスランは♪(ど〜ん)

【青い珊瑚礁】というカクテルは実在し、普通のバーでもあります。
《ジンベースですので、それほど高いカクテルではありません》
ですが、アルコール度数は極めて高い(だいたい30度)ので飲めない人が飲んだら一発でぶっ倒れます。
念の為に言っておきますが、カガリがぶっ倒れた後の話はどこにもありませんのであしからず(笑)


ちなみにラクスの誕生石(アメシスト)をモチーフにしたカクテルは【バイオレット・フィズ】
《リキュールベースでアルコール度数も1桁(8度ぐらい)ですので、飲めない人でも結構いけるはず》

キララクのバーの話もいつか、書いてみたいな〜と思っています。
いつになるかは、全くもって不明ですが…(汗)




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