今日はキラの誕生日。
ところが、キラは自分の誕生日をお忘れになっているかの様でした。
無論カリダさんやマルキオ様、子供達、そしてわたくし。
皆がキラの誕生日を祝い、楽しい宴が開かれました。
それでもそれ以上のことはなく、夜が更けますと皆様は眠りについてしまいました。
ただいま時刻は午後の11時を過ぎたあたり。
キラも既にお休みになっているはずです。
ですがわたくしはそっと寝屋を離れ、向かいました。
キラの部屋へ。
二人きりの時を過ごす為に……
コンコン……
ドアをノックしましたが返事がありません。
ですが鍵はかかっていませんでした。
失礼とは分かっていますが、わたくしはドアを開けました。
キラは椅子に座り、窓の外をぼんやりと眺めています。
「キラ……」
「……ラクス?」
キラはわたくしの存在に気づくと、きょとんとした顔でわたくしを見ました。
「どうしたの? こんな時間に?」
「少し…、お聞きしたいことがありまして……」
さすがに真っ向に今日の事を聞くことは出来ません。
まずは話を切り出す状況を作ってから…、と思いましたら、
「奇遇だね。実はボクもなんだ」
キラはそう答え、椅子から腰を上げました。
「でもせっかくだから、外で話しない?」
「外で…ですか……?」
「うん。あっ、でもラクスが嫌だったら別にここでもいいよ」
キラは無垢な顔でわたくしを見ています。
それから察するに、大切なお話という訳ではないでしょう。
また、わたくしも話したいことはとりとめのない事。
それに今宵はとても天気が良く、星空も大変綺麗でしょう。
「よろしいですわ」
「ありがとうラクス」
キラはにっこり微笑むと窓を開け、窓枠に足をかけ手を差し伸べました。
『そんな所から……?』
と思いながらも、わたくしはそっとキラの手を握り締めました。
とても行儀が悪いことであると分かっています。
ですが、たまにはこういうのも良いですよね。
「じゃあ、行こうか」
キラはしっかりとわたくしの手を握り締め、エスコートしました。
家から少し離れた所に一本の大きな木があります。
わたくし達はその木の下に腰を下ろしました。
ですがわたくしは話を切り出す機が分からず、言葉を発することが出来ません。
またキラも、ただぼんやりと空を眺めています。
『どう、なされたのでしょうか……』
わたくしはキラが話すまで待つことにしました。
外は少し生暖かいですが、心地良い風が吹いています。
耳を澄ませば、小波の音が聞こえてきます。
空を見上げれば幾千の星々が光り輝き、月が柔らかな光で地上を照らしています。
そんな自然が織り成す景色・音色。
わたくしはじっと、それを眺め待ち続けました。
ところが、キラは一向に話す素振りを見せません。
ただぼんやりと…、ですがしっかりと光を宿した瞳で夜の世界に見続けています。
『どうなさったのですか、キラ……』
わたくしが言うのは何ですが、キラは少々抜けている所がございます。
ですが、今のキラはそういった類のものではございません。
どう…、言えばよろしいのでしょうか……
言うなれば融合…、そう今ある世界に溶け込んでいるかのようです。
「ラクス……」
ふと、キラが言葉を発しました。
とても柔らかで、とても落ち着いた声で。
「今日は…、ボクの誕生日だよね……」
「ええ。そうですわ」
「でも、ボクには特別な日じゃないんだ……」
キラは視線を下げ、ゆっくりとわたくしを見ました。
「ボクは作られた人間だから…、誕生日もカガリと双子だから都合的に一緒なだけ……」
「キラ……」
「誤解しないで、ラクス」
おそらく暗い顔をしてしまったのでしょう。
キラはにっこり微笑み、わたくしの手を握りました。
「みんな、ボクが生まれてきた事を祝ってくれた。こんなボクでも祝福される命だって改めて知ることが出来た」
「キラ、何をおっしゃって……っ!」
「そんな顔しないで、ラクス……」
キラは私の身体に腕を回し、そっとわたくしの胸の中へ顔をしずめました。
「ボクは今、本当に幸せだって思ってる。でも…、同時にこのままじゃいけないと思ってる……」
キラは淡々と、それでも言葉にはしっかりとキラの意思が込められています。
「もう少しなんだ…、あともう少しで……」
「何が…、ですか?」
「もう少しでボクがボクである理由が見つけられる……」
胸元から僅かに見えるキラの顔。
とても穏やかで、それでいながら決意に秘めた顔をしています。
「その時は…、ラクス……」
キラは包み込むように、優しく告げました。
「特別な日を…、一緒にむかえようね……」
キラ……
どこまでも強く、そして繊細なキラ……
わたくしを愛してくれるキラ……
「はい。その時は喜んで……」
わたくしは待っていますわ。
ですから、その日まで頑張ってくださいな……
わたくしだけのキラ……
《あとがき》
キラの誕生日。
ネタを考えた時、「この2人が盛大な事をするのかな?」と思いました。
ですので日常の延長、その一瞬に大きな意味を持たせてみました。
特別でない一日を積み重ねる。これ結構大変です。
特別な事をしていないと思っても、どこかで重大な選択をしている事って多々ありますから。
だからこそ特別でない日々を大切にして欲しいです。キラとラクスに関しては。
しかしキラカガの誕生日小説を書いていてずっと思ったのが…
「どうして、ラクス誕生日の前にHPを作らなかった!」です……(汗)
それだけが悔やまれる5月18日です。はい。
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