今日はボクと姉さんの誕生日。


姉さんは生誕祝賀行事に引っ張り出されている。


ボクもラクスと一緒に過ごして…、もとい過ごす計画を立てていた。


ところが今朝、突然姉さんが家にやって来て、


「ラクス。叔母さま。今日、キラを借ります」


そうラクスと母さんに言付けるや、強引にボクを引っ張り出したのだ。


それでもその時、ラクスが絶対に反発すると思った。


ところが……


「はい。そちらの邪魔者はわたくし達が処理いたしますので、ごゆっくりと♪」


何故か笑顔でボクを送り出してしまったのだ。











◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











「姉さん……」


ボクはカフェに着くなり、椅子にへたりこんだ。


「どうした、キラ?」


対して姉さんは、とても涼しい顔でボクを見ている。


「なに、ヘタってるんだ?」


「そりゃヘタるよ……」


ボクはうんざりした顔で足元にある物を見た。


足元にあるのは大きな買い物袋がいくつも並んでいる。


言うまでもなく、全部姉さんの戦利品だ……


「買いすぎだよ、姉さん……」


「おまえ、何言ってんだ?」


姉さんは軽く笑い、本当に他人事のように言った。


「たったこれぐらいで、もうギブアップか?」


「これぐらいって……」


「それにお前は女の子に荷物を持たせる気か?」


卑怯だよ…、姉さん……


そんなこと言われたら、反論できないよ……


「それにおまえ、ラクスと一緒に買い物ぐらい行くだろ? だったらこれぐらい楽勝だろ?」


すいません、姉さん……


ラクスは姉さんみたいに、こんなにたくさん買い物しません……


それに、ラクスはちゃんと荷物を持ってくれます……


『って言ったら、倍返しじゃ済まない……』


何も言い返せないので、せめてため息だけ一つ……


って、これと同じ事、昔にあった。


もっとも、あの時は戦争中で気が抜けなかったけど……、


『今は、こうして……』


正直、今のボクは夢のようだ。


誰もが笑って暮らせる世の中になって、自分達が描く夢に向かって歩むことが出来て、


そして、なによりカガリ姉さん。


確かにじゃじゃ馬で、向こう見ずで、感情的だけど……


純粋で優しい姉さんとこうして一緒にいられる……


勿論、ラクスと一緒にいる時が一番幸せだ。


でも、姉さんと一緒にいる時も幸せだ。


「なあ、キラ?」


不意に姉さんが話しかけてきた。


「出しなにラクスが『邪魔者は処理する』って言ってたけど、あれってどういう意味だ?」


「えっ……?」


「公務は全部キャンセルしたし、キサカにもちゃんと断ってきたし……。邪魔者なんてあるのか??」


姉さんは本当に分からない顔でクビを傾げた。


『邪魔者…、ね……』


ボクは心の中で舌打ちをした。


今日の邪魔者…、それは言うまでもない……


先の戦争で散々姉さんを泣かしたあの男……


アスラン・ザラだ……


『でも、まあボク達の邪魔なんて絶対に出来やしないよ……♪』


ボクは込みあがる笑いを懸命にこらえた。


今頃は間違いなくアスランはラクスと母さんの手の中……


アスランがあの二人から逃げるなんて絶対に不可能だ。


否、今頃はきっと……


「……ラっ、……いっ」


「……ん、……、うわっ!?」


突然、ボクの目の前に姉さんの顔が現われた。


それもドアップで。


「おいキラっ! お前、今、何考えてた!?」


「な…、何も考えてないよ……」


「嘘つけ! さっきのおまえの顔、もの凄く黒々しかったぞ!」


「そ、そんな事ないよ!」


ボクは慌てて首を横に振り、余計な事の一切を振り払った。


いけないいけない……


せっかく姉さんと二人きりの時間なんだ。


あんなのは放っておくにかぎる……


「それよりもだ、キラ」


姉さんはすぐにボクの疑いを解き、別の話を振ってきた。


「今日は…、何の日か分かってるよな……?」


「何の日って、ボクと姉さんの誕生日じゃない?」


「悪い…、そういう事を聞きたいんじゃなくって…、その……」


何故か姉さんは頬を赤らめて俯いてしまった。


でも、姉さんは言いたい事ははっきり言う人。


俯き、恥ずかしそうにだけど、言葉を繋げた。


「おまえ…、こういうの嫌だったか……?」


「はい???」


「だから、こうしてわたしと一緒にいるのは嫌…、か……?」


「そんな事は絶対にないよ」


ボクはやんわりと返した。


「ボクは姉さんとこうして一緒に過ごせて嬉しいよ」


「本当だったらおまえは今日、ラクスと一緒に……」


「ラクスはいつもボクの傍にいてくれるから、気にしなくていいよ」


「だ…、だが……」


「それに、今日はラクスと母さんが計画した事なんでしょ?」


そう言った瞬間、姉さんはハッと顔を上げた。


「お、おまえ!? ど…、どうしてそれを……!?」


「それは……」


それぐらいは分かるよ、姉さん。


こういう計画はラクスと母さんが好きそうなことだし、


それに、姉さんが独りでこんな計画を立てる人じゃないし、


そもそも出る時にラクスが「邪魔者は処理する」って言ってたし……、


っと、理論的な説明はいくらでも出来る。


でもって、姉さん自身が計画の一端を口に出してもいるし……


だけど、そういう答えを姉さんは求めていなし、ボクも答えたくない。


だから、ボクはボク自身の気持ちを答えた。


「それは、きっと気を利かせてくれたんだよ」


「気を…、利かせて……?」


「だってボクと姉さんは、普段離れ離れ。それに会う時は、大抵姉さんが仕事中だから」


そう……


ボクが姉さんに会えるのは、ボクが用事でモルゲンゲーテに行くときぐらいだ。


それ以外で姉さんに会える機会なんて、本当にない……


「だから、これはラクスと母さんからのプレゼントだと思うよ」


「プレゼント……?」


「うん。こうやって姉弟水入らずの時間を過ごせる事が、ねっ♪」


「そうか…、プレゼントか……」


姉さんは瞳にうっすら涙を浮かべた。


「そう言ってくれて…、本当嬉しい……」


でも、その顔は幸福に満ち溢れた笑顔……


「おまえとこうして一緒に過ごす事…、それがわたしのささやかな夢だった……」


「えっ……?」


「お父さまが亡くなって一人ぼっちになった…、けど、おまえがわたしと姉弟だと分かって……」


姉さんは今日の経緯を話し始めた。


姉さんは20歳の誕生日をボクと一緒に過ごす事を、随分と前から計画していた。


しかし、オーブ代表の身である姉さんには叶わない夢だと諦めかけていた。


ところがある時、姉さんのところへ遊びに行ったラクスがそれを知り、姉さんの夢をかなえるべく色々と知恵を貸した。


仕事の前倒しや、関係者各位への根回しなど色々と……


そして、キサカさんの承諾を経て今日に至った。


「だから…、せめて20歳の誕生日だけは血の繋がったおまえと一緒に……」


姉さんは涙をぽろぽろ零しながら言った。


「わたしは本当に勝手な奴だ…、おまえの都合なんて関係なしに引っ張り出して……」


「姉さん、一つ聞くよ?」


ボクはそっと涙に濡れる姉さんの頬に手を添えた。


「それは、嬉し涙だよね?」


「………っ!?」


案の定、姉さんは目を見開きボクを睨みつけてきた。


それでもボクは、微笑みながら姉さんの頬の涙をそっと指で拭った。


「今日はボクと姉さんの誕生日だよ? そんな日に、嬉し涙以外の涙なんて見たくない」


「キラ……」


「だから、それは嬉し涙だよね?」


「ち…、違う……っ!!」


姉さんは怒鳴ると、ボクの手を振り払った。


「こ…、これは……、汗だぁ!!」


「あ…、汗って……」


「おまえがあまりに似合わない事を言うから動揺して掻いてしまった汗だぁ!!」


姉さんはそう言いながら自分の腕でぐっと涙を拭い、声を張り上げた。


「それにさっきから黙って聞いてりゃ、言いたい放題言いやがって!」


「ちょ…、ちょっと……」


「せっかく姉であるわたしが、暇をもてあましてる弟を誘ってやったんだ! 礼の一つぐらい言えっ!!」


姉さん、いくら何でも無茶苦茶だよ……


でも、これがボクの姉さんだ。


こうじゃないと姉さんじゃない。


「ありがとうございます、姉さん♪」


ボクは心から笑って、姉さんに言った。


「今日は姉さんの行きたい所へ連れてってください♪」


「そうだ、それでこそわたしの弟だ」


姉さんは満足そうに微笑み、ボクの肩をぽんぽんと叩いた。


「よし! じゃあ、その前に腹ごしらえでもするか!」


「うん!」














ボクの姉さん……


じゃじゃ馬で、向こう見ずで、感情的で、涙もろくて……


でも純粋で、世話焼きで、優しい姉さん……








ボクは神様に心から感謝します。











こんなに素敵な姉さんをボクに与えてくれて……








◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











その頃、マルキオ邸では……


『どうして、こんなところへ来てしまったんだ……』


俺は濁りゆく景色を絶望の思いで見ることしか出来ない……


目の前には女神の皮を被った悪魔が二人……


「あらあらまあまあ♪」


年長の悪魔が俺に囁きかけてくる。


「なに、ふてくされてるのかしら♪」


「………」


一言返せば、10倍になって返ってくる……


だから、俺は何も答えない。


「あらあら、アスラン♪」


ピンクの悪魔が威圧的な笑顔で俺を見ている。


「キラにカガリさんを取られた事が、そんなに嫌ですの♪」


嫌に決まってるだろ!


今日はカガリの誕生日……、


それはすなわち俺と二人きりで甘いひと時を過ごす日!


それを平然と奪っておきながら……っ!!


「相変わらず、器量の小さい人ですわ♪」


「本当。男の子はもっと寛大な気持ちを持ってないとダメよ♪」


もうどれだけの時が過ぎた……?


拉致され、ここに連れてこられてからずっとだ……


真綿で首を絞めるように、俺を苛め続けている……


『そうだ…、これは夢なんだ……』


俺は思考の一切を止めた。


そうすれば、何も感じずに済む……


しかし、同時に思う……


この世に神など存在しないと……っ!!














ラクスとカリダの責めは、キラが帰ってくるまで続いたという……

















《あとがき》
今日はカガキラの誕生日♪
嘘です…、1日遅れての更新です……(土下座)

去年は別々でしたが、今年は一緒に誕生日を過ごさせようと考えました。
っで、一緒に過ごすならデートしかないですか♪ ですがお互いに思い人がいる訳ですので、仲のいい姉弟のひと時に。
《上手くかけた、本当自信ないですが…(汗)》

私の中ではキラはお姉ちゃん子になってます。
だってキラの回りにはラクスを含めて、お姉ちゃんがいっぱいだから♪(笑)

個人的にカガリはキラと一緒に生活したいと思います。
ですがキラとカガリの立場上、それは叶わない夢……
ですので、誕生日の日だけは姉弟仲良く過ごせたらな〜、と思いました。

カガキラは、これからも本当に仲のいい姉弟CPとして書いていきたいです。

でもって凸さん、まあ扱いはこれで充分でしょ?(おい)
もはや君はオレの中では完全にお笑いキャラだから♪(きっぱり)




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