『どうして……』
キラは置かれている状況が納得いかずにいる。
今、キラがいるのはキッチン。
ちなみに、キラは今日初めてキッチンに入る。
当然、料理を作る為だ。
しかし、何故?
『どうして、こんなところへ来てしまったんだろう……』
キラは自問自答しながら、こうなってしまった経緯を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねえ、ラクス?」
夕食の片づけが終わり、ほっと一段落ついているラクスにキラは話しかけた。
「おかしな事を聞くけど、いい?」
「おかしな…、事ですか?」
ラクスはきょとんとした顔をキラに向けた。
「わたくしで答えられる事でしたら、お答えしますわ」
「うん。それは大丈夫と思う」
キラは真顔で聞いた。
「ラクスが作ってくれるご飯って、どうしてあんなに美味しいの?」
「……、はい?」
「ずっと疑問に思ってたんだ」
キラは呆気に取られているラクスに気づかない様子で、ごく普通に疑問を口にした。
「母さんより絶対に料理を作っている年数が違うのに、どうしてなの?」
「お、お世辞でも嬉しいですわ……」
「お世辞じゃないよ。だけど、どうしてもその理由が分からな……」
「あらあらまあまあ♪」
その時、キラの背後からおっとりとした笑い声が聞こえた。
しかしキラはその声を耳にした途端、全身が硬直した。
ラクスの顔からも赤みが消えた。
「年数が違うって、それは……」
声の主……、カリダはにっこり笑いながらキラの頬を掴み、
「私が老けた。って言いたいのね、キラ♪」
笑顔のまま、思いきりキラの頬を引っ張った。
「そんな事を言う口は、この口なのかしら♪」
「ふぃ、ふぃたいひょ、きゃうしゃん!(い、痛いよ、母さん!)」
「そんな影口を叩く口はいっそうの事、縫っちゃいましょうかね♪」
「ふぁ、ふぁくしゅ、たゃしゅきぇてぇぇぇ!!(ラ、ラクス、助けてぇぇぇ!)」
無論、ラクスにはキラの助けの叫びは分かっている。
だが、動くことはおろか声すら出すことが出来ない。
『キラ…、ごめんなさい……』
ラクスの視線が自然と二人、いやカリダから逸れる。
笑顔と言う名の仮面の下に潜む強大な重圧感(プレッシャー)から逃れる為に……
「ふぁ、ふぁくしゅぅぅぅぅ!!(ラ、ラクスぅぅぅぅ!!)」
「っと、冗談はこれぐらいにしましょう」
カリダはパッと、キラの頬から手を離した。
ようやく解放されたキラは伸びきった頬を叩いて元に戻し、
「母さん! なにすりゅんだひょ!」
「キラ、喋り方が可笑しいわよ♪」
「誰のせいだと思ってるの!」
突然の理不尽な行為を行ったカリダに怒鳴った。
「変な言いがかりつけて、人の顔で遊ばないでよ!」
「あらあらまあまあ♪」
「ったく……、もう更年期しょうが……っ!?」
「キラ……」
ボヤいた瞬間、キラに襲い掛かる。
微笑という名の凍てつく波動が……
「もう少し静かにしなさい」
「は、はい……」
「そうそう♪ 母さんの言う事は大人しく聞くものよ♪」
カリダはキラが反抗しない事を認知すると、普段の優しい微笑みをラクスに向けた。
「随分と嬉しいこと言って貰えたわね、ラクス?」
「は、はい!」
「でも、その理由は説明できないよね?」
「は、はい……」
ラクスは半ば生返事な回答しか出来なかった。
ラクスもまた、戦慄から脱し切れていない……
「それで、私からの提案なんだけど……」
カリダは石像と化したキラの頭をポンポンと叩きながら、楽しそうに言った。
「明日のラクスのお昼ご飯、キラに作らせるわ♪」
「えぇぇぇぇぇ!?」
カリダの言葉に反応したのはラクスではなくキラだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ母さん!? ボク、料理な……」
「キラは静かにしていなさい」
「うぅぅ……」
「どう、この提案?」
カリダは沈黙するキラには目もくれず、ラクスににっこりと微笑みかける。
普通の人間ならば、キラ同様に沈黙するしか道はない。
しかし、そこはカリダの次にキラの扱いが上手いラクス。
カリダの言動を学習しつつ、彼女の意図をしっかり汲み取った。
「それは、いい提案ですわ♪」
「じゃあ決まりね♪ とりあえず、キラのサポートは私がするから楽しみにしておいてね♪」
「はい♪」
「な、なに勝手に話を進めている……っ!?」
「「キラ」」
今度、二人の女神の笑顔がキラに襲い掛かった。
「楽しみにしていますわ♪」
「そういう事だからね♪」
発する言葉も同時。
向けられるプレッシャーは相乗……
『そ…、そんな……』
その夜、キラは声を潜め枕を濡らした……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『二人してひどいよ……』
キラは出てしまいそうな溜息を堪え、黙々と作業を続けた。
愚痴でもこぼそうもなら、即刻後ろにいるカリダの報復がくる……
沈黙、それが今キラに出来る唯一の自衛策。
「初めてにしては、しっかりしているわ」
キラの後ろから聞こえてくる声は、とても楽しそうなものだ。
「案外、料理の素質あるかもよ?」
「そうかな……」
「ええ。これだったら、きっとラクスも喜ぶわ」
「うん……」
カリダの言葉に、キラはふっとラクスの事を思い浮かべた。
『ラクスも、今のボクみたいなのかな……?』
最初は嫌々だった作業が少しずつ楽しくなっている。
無論、慣れない作業の連続で四苦八苦はしている。
それでも、それ以上に楽しくワクワクする。
料理の完成と、ラクスの反応が……
「仕込みは出来たようね」
カリダはキラに与えた作業が終わったのを確認すると、穏やかな微笑みを浮かべながらキラの横に立った。
「手本を見せるから、しっかり見ているのよ」
「うんっ!」
キラもにっこり微笑み返した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あら? あらあら??」
ラクスは目の前に出された料理に思わず目を丸くした。
出された料理はオムライス。
これならば初心者のキラにでも出来る料理だ。
しかし、同時に料理の上手・下手がはっきり出る料理でもある。
「これ…、本当にキラが……?」
「うん! ボクが作ったんだよ!」
キラは誇らしげに言った。
「色々と手伝ってもらったけど、仕上げはボクひとりでやったんだよ」
「凄い、ですわ……」
ラクスは驚き一杯の顔で、もう一度料理に目をやった。
それは紛れもなくオムライス。
型崩れは一切していない、ちゃんとした形のオムライス。
とても、今日初めて料理を作った人間のものではない。
「それよりも、食べて食べて!」
キラは少し興奮気味に料理を勧めた。
「ラクスの為だけのオムライスだからさ!」
「はい、喜んで♪」
ラクスは笑顔でスプーンを手に取り、料理を口に運んだ。
『あんなに仲良くしちゃって♪』
見ている方も、思わず恥ずかしくなってしまいそうな光景。
カリダは飽きることなく、ずっと見続けた。
『これからが、本当に楽しみだわ♪』
幸せに満ち溢れた笑顔を浮かべたままずっと…
ずっと……
《あとがき》
まずは、更新が遅れて申し訳ございません…
《10月なのに、11月に更新する事になろうとは…(土下座)》
10月は「秋」
「秋」と言えば食欲の秋→食欲の秋ならば料理→キラ厨房デビュー。というノリで(笑)
しかし、キララクよりカリダさんが全面に出ちゃっていますね、これ…(汗)
間違いなくこのHPでは最強キャラですね、カリダさん♪
スランプまっただ中でも、カリダさんは書いていて本当に楽しいです♪
料理をオムライスにしたのは管理人が無性に食べたい料理だから(笑)
でも、オムライスは下手な人間が作ると100%原型なくします。
ちなみに、管理人の成功率は30%ぐらいです…
これは管理人の持論ですが…
【男子、厨房に入るべし!】
今の時代男たる者、料理はもとい家事ぐらい出来ないとダメです!
当然、管理人も一通りの家事は出来ます。
さすがに漫画「クッキングパパ」のお父さんまでとは行きませんが、理想はこれ♪
皆様もこれを機に料理を作りましょう!
いい気分転換にもなりますし、何より楽しいですよ♪
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