今日はみんなでお花見にやってきた。
桜の甘い香りを乗せた風が訪れた全ての人を心地よく酔わせ、
風に舞う花びらは、まるで踊っているかのようだ。
『こういう時に……』
キラは周りの様子を伺いながらそっとお酒に手を伸ばした。
桜を肴に飲むお酒、それは間違いなく甘美なものであろう。
なのに、お酒のビンに手が触れた瞬間、
「何やってるの?」
母さんがにっこり微笑みながら、ひょいとビンを取り上げた。
「キラはまだ未成年でしょ?」
「なに言ってるんだよ母さん。プラントじゃ、もう成人……」
「キラ……」
うっ……、
母さんは穏やかな笑みを浮かべている。
でも、それが逆に怖い……
「何か…、言ったかしら?」
「な、何も言ってないよ……」
「そう? 私の気のせいかしら?」
そう言いつつ、母さんはしっかりとビンを自分の側に寄せている。
『ずるいよ、母さん……』
いつもこうだ。
何かあれば、笑顔でボクを抑止してくる。
もしくは、本当に楽しそうに傍観を決め込んでいるかだ。
『はぁ……、ラクスと一緒に飲みた……?』
あれ?
そういえば、さっきからラクスの姿が見えない?
辺りを見渡したけど、ラクスはどこにもいない。
「ラ、ラクス……」
大きな声で呼ぼうとしたのに声が出ない。
それに何だ、この嫌な感触は……
鼓動が早くなっていく……
『まさか迷子になったんじゃ……』
そう思った瞬間、足が独りでに動き出した。
心当たりなどない。でも探さなきゃ……、
もしもラクスに何かあったら、
どうするんだ!!
一体、どれだけ歩いたのか分からない。
気がつけば桜並木から遠く離れた雑木林の中にいた。
『こんな場所にいるなんて……』
心の中ではそう認識しようとするが、足が止まらない。
まるで、ボクの足に何かが取り付いたようだ。
『ラクス、いったい何処にいった……?』
自分の意志に逆らう足を見たとき、とても綺麗な何かが目に入った。
桜の花びらだ。
『風に乗ってきたの……っ!』
地面に目をやると花びら以外のものが目に入った。
足跡だ。それも真新しい。
大きさも男のものではなく女の子、ちょうどラクスと同じくらいの大きさだ。
『この先にラクスが!?』
一時でも早くラクスの元へ! そう思い駆け出そうとした。
なのに足はゆっくりにしか動いてくれない。
一歩一歩、ゆっくりと踏みしめるように。
『どうしちゃったんだろう、ボクは……』
とにかく足がいう事を聞いてくれない。
なのに、さっきとは違って心は落ち着いているのが自分でもはっきりと分かる。
いったい、この先には何があるんだろう……
『あっ……』
雑木林を抜けると、そこは小さな広場のような場所だった。
その中央にはとても大きな枝垂(しだれ)桜があった。
そしてその木の下に……
桜の精霊が……
違う、精霊じゃない。ラクスだ。
でも、その姿は本当に桜の精霊のよう……
「―――……」
粉雪のように舞い落ちる花びらをラクスは身じろぎもせずに眺めている。
そして、彼女の髪も優雅に風に踊っている。
なんて美しい光景なんだ……
まるで桜と語り合っているかのようだ。
頭の中に自分が知る限りの最上級の褒め言葉が次々と思い浮かぶ。
でも言葉が出ない。
言葉なんていらない…
言葉なんかに出来ない……
やがてラクスは僕の視線に気づき、ゆっくりと振り返った。
「キラ、いらっしゃったのですか?」
「う、うん……」
返事を返すことは出来たが、心はまだ夢見心地だ。
「綺麗な桜ですわ」
そう言うとラクスは風に舞った花びらをそっと手で受け止め、その手をキラの前に差し出した。
「一人で鑑賞するにはあまりにもったいないですわ。ですから、キラが来てくれて嬉しいですわ」
「……」
「あらあら? キラったら?」
ラクスは薄紅色の粉雪に包まれながら柔らかに微笑む。
「あまりに桜が綺麗でお忘れになってしまいましたか?」
「えっ……?」
「言葉、ですわ」
忘れていた……
言われるまで忘れてしまっていた……
「今…、思いだした……」
「それは良かったですわ」
「思いだしたついでに、お願いがあるんだけど……」
あれ?
口が勝手に意味ある言葉を織り成していく。
「聞いて…、くれる……」
「はい。なんでございましょうか?」
「抱きしめて…、いい……?」
ちょっと待って!
な、何を言い出すんだボクは!?
そ、そんないきなり、なんの脈略もないのに……、
違う違う!!
脈略とかそういう問題じゃない!
「よろしい…、ですわ……」
えっ?
今、何て言ったの??
「優しく…、抱きしめてくださいな……」
ちょ、ちょっとラクスまで何を言い出すんだ!?
た、確かに言い出したのはボクだけど……、
だ、抱きしめるなんて…
そ、そんな……
「キラ」
ラクスは少し不機嫌そうな顔でボクを見ている。
「言い出したのはキラですわ」
「う、うん……。い、いや、そのラクス……」
「しっかりしてください、キラ」
ラクスはそう言いながら、ボクの体に自分の体を密着させた。
『そ、そんなに近づかれたら……』
もう理性が利かなくなっちゃうよ!
とにかく間を取らないと……、
ラクスの視線から逃れると、ラクスの肩元に目がいった。
そこに桜の花びらが落ちていた。
「ラクス、ついてるよ」
ボクは肩元の花びらをそっと取った。
途端、ラクスの顔が一瞬だけとても険しくなった。
でも、それは本当に一瞬だけ。
次の瞬間には、
「キラも…、ついていますわ♪」
ラクスの顔が目前に迫ったと思ったら、とても柔らかなで温かな感触を感じた。
ラクスの唇が……
ボクの唇を……
『花びらって、そんな……』
《あとがき》
4月、桜の季節といことで桜の木の下でイチャラヴさせました(笑)
ってか、私は何を書いているんだ…
本当、私のキラは攻めきれないんだからさ!(あんたが言うな)
ラクスもキラが迫ってきたと思ったら引いちゃって、ねえ??
正直な所、ラクスの髪を見て思って桜絡みで話を作ろうと思いました。
小説では「ピンクの髪」と書いていますが、私としては「桜色の髪」って書いて欲しい!(力説)
それとキラ君、カリダお母さんには全く頭が上がっていません。
まあ、あのお母さんに反抗なんざしたら私が殴りますYO!
5月は『母の日』なので、そのあたりを話にしようか思案中です。
えっ?『チェリーブロッサム」ってタイトルに見覚えがあるですと?
き、気のせいですよ。HAHAHA!
《はい。某女子高の小説から取りました…》
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