皆さまとのご夕食も終わり、片付けも終え、子供達と一緒に団欒の時間を過ごそうとした時でした。
「トリィーー」
いつもならピンクちゃんと遊んでいるはずのトリィがわたくしの肩に止まりました。
「あらあらどうしたの?」
わたくしの声に反応したトリィはばたばたと羽を動かしました。
珍しいことです、普段はとても大人しいトリィが……、
「あら??」
肩から落ちそうになったトリィを受け止めた時、いつもとは違うことに気づきました。
トリィの脚に何かが括りつけられていたのです。
おそらく、わたくしにとって欲しいのでしょう。
「少しお待ちになって…、と」
括りつけていたものを取り外すと、トリィはぺこっと頭を下げて元気よくどこかへと飛んでいきました。
わたくし達には微々たる重さでもトリィには相当な重荷だった筈です。
『一体、誰がこんないたずらを?』
悪意はないにしても、ちゃんと叱っておかないと。
わたくしはゴミ箱に捨てようとしたしましたが、一応念のためにどういう物か確認しました。
すると……、
『こ、これは……』
確認した瞬間、わたくしは反射的にしゃがみこんでしまいました。
それは紙切れ…、そこに見慣れた筆質の文字が……
キラが書いた文字が書かれていました。
【今夜、部屋に来て欲しい。大事な話がある】
と……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時刻は深夜を回ったあたり。
普段なら、もう寝ている時間。
でもボクはベッドには行かず、じっと待っていた。
『ちゃんと届いたかな……』
本来なら直接お願いすればいいのだけど、この話だけは誰にも知られたくなかった。
だからトリィの脚に手紙を括りつけ飛ばした。
そしてボクの思惑通り、トリィは身軽な姿で帰ってきた。
後はただラクスが来るのを待つだけ……
コンコン……
小さくドアをノックする音が聞こえた。
ラクスだ。
「入って」
ボクがそう言うとドアが開き、人が入ってきた。
紛れもなくラクスだ。
「キラ……」
ラクスの姿を見て、ふとおかしく思った。
この時間ならば、もうパジャマ姿のはずなのに昼間の服装のままだ。
しかも、ラクスの顔はほんのり赤い……
「大事なお話があると…、書いてありましたが……」
「うん。大事な話」
ラクスの様子が少しおかしい事が気にはなったが、ボクは話を切り出した。
「ラクスは母さんの事、どう思ってるの?」
「母さん…? カリダさんの事ですか?」
やっぱりラクスの様子が変だ。
何故か言葉に緊張感が伝わってくる。
それでも、ボクは続けてラクスに聞いた。
「うん。ラクスは母さんの事をどう思ってるの?」
「カリダさんは本当に素敵な方ですわ」
ラクスはか細い声で答えた。
「わたくしの事を実の娘のようにしてくださって……。あの人なら、きっと上手くやっていけますわ……」
あれ?
なんかおかしいぞ??
「カリダさんからもっとお料理の事とか教えてもらって…、それでそれで……」
あっ……!?
ま、まさか……
いや、そのまさかも知れない……。
「あの…、ラクス……」
間違いなく、ラクスは何か誤解している。
「今日来てもらったのは母さんの事なんだ……」
「はい。ですからわたくしは……」
「いや、そうじゃなくて」
ダメだ。このままでは同道巡りだ。
仕方ない…、ちょっと恥ずかしいけど本題を切り出そう……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長い間、同じ屋根の下でキラと共に過ごしてまいりました。
そしていつの日か、この日が来ると信じておりました。
カリダさんとの関係の具合を聞いてきたのが、その確固たる証です……
「わたくし…、あの人となら絶対にいい…、およ……」
「母さんへのプレゼントの意見を聞きたいんだ」
……
………
あら……
あらあら……
「だから、母の日のプレゼント!」
キラは逼迫した顔で語気を強めました。
「何を送ったらいいかボクには分からないんだ……」
と思いましたら、一気に弱気の虫に踊らされて……
「今まで散々…、母さんに迷惑かけたから……」
キラはうつむき、謝罪の念に溢れた様子でうなだれました。
「これからはちゃんと親孝行したいんだ……」
『あらあら…、わたくしとした事が……』
これで確信しました。
今夜、わたくしを呼んだのはカリダさんへのプレゼントの意見を聞くためでしたのね。
プロポーズではなかったのですね……
『残念ですわ……』
心の中で少しだけ悔しく呟き、その事は忘れましょう。
今宵はカリダさんの事をしっかりと……
「あらあらまあまあ」
突然、後ろから聞きなれた声が聞こえてきました。
「大層、大掛かりな事をしてると思ったら……」
振り向いた途端、わたくしはハッと目を見開いてしまいました。
ですがそれはキラも同じ……
いえ、キラの方が間違いなくわたくしより動揺しているはずです。
何故なら、部屋に入ってきたのは……
「ラクスがどれだけの覚悟をしてここに来たか分かったるの?」
おっとりとした声色ながら、明らかにキラを攻撃した言い様。
しかし、それはこの人だけが持つ特権。
また、わたくしを『ラクス』と呼ぶもう一人の人……
「カ、カリダさん!?」
慌ててわたくしは割って入りました。
「あ、あれはわたくしの早合点でございます。キラは何も悪くありません」
「ふふ、ラクスは優しいのね♪」
カリダさんはにっこりと微笑みながら、それでもうつろな目であさっての方向を見ているキラをじっと見ました。
「キラ。何か言いたいことはある?」
とてもおっとりとした声なのに、どうしてか怖く思えます……
「………」
「キラ。だんまりしてもダメよ」
「どうして……」
「『どうしてラクスがこの部屋にいるの?』? それとも『どうして母さんがここにいるの!?』のどっちかしら?」
とカリダさんが言った途端、キラは真一文字に唇を締めました。
普段の生活を見ていましてもキラがカリダさんに頭が上がらないことは分かっていました。
ですが、ここまでとは夢にも思いませんでした……
「本当、あなたって子は……」
カリダさんは少しだけ溜息をつきますと、そっとキラを包み込むように抱きしめました。
「いつもそう……。変に気を使って、独りで抱え込んじゃって……」
「最初から…、聞いて……」
「ええ。一部始終聞いてたわ」
途端、キラはカリダさんの腕の中で暴れだしました。
ですが、
「その気持ちだけで十分よ……」
カリダさんがぎゅっと抱きしめると、すぐにキラは大人しくなりました。
「キラはもう十分すぎるほどの贈り物をしてくれているわ」
カリダさんはキラの抱擁を解くと、
「最愛の娘をね♪」
わたくしの腕を取り、自分の傍へと引き寄せました。
「本当、キラにはもったいない娘だわ」
「カ、カリダ…さん……」
「私、本当に幸せよ」
カリダさんはまたキラを抱き寄せ、本当に嬉しそうに目を細めました。
「キラがいてラクスがいて…、みんなが笑って過ごして、何事もなく一日が終わって……。これ以上望んだらバチが当たるわ」
「かあ…さん……」
「もうキラったら……」
カリダさんはそっとキラの目元を指でぬぐいました。
「ラクスの前で泣いちゃ、格好つかないでしょ?」
「う、うるさいよ……」
「本当、手のかかる子ね♪」
キラとカリダさん……
血こそ通っていませんが、本当に素晴らしい母子です……
そしてわたくしを実の娘と見てくれるカリダさん。
本当に…、ありがとうございます……
次第に夜もふけ、わたくし達はそれぞれの寝屋に戻る事になりました。
「あっ、そうだわ」
ふとカリダさんは思いだしたかのように言いました。
「私、欲しいのが一つあったわ」
「なに、母さん?」
キラはいつもの穏やかな顔でカリダさんを見つめました。
すると、何故かカリダさんはわたくしをじっと見てきました。
「ラクスにも協力してもらわないとダメなものだけどいい?」
「はい。わたくしにできる事でしたら」
「じゃあ、すぐにとは言わないけどお願いするね♪」
カリダさんは満面の笑みを浮かべ、言いました。
「早く、孫を抱かせてね♪」
えっ……
ま、孫といいますとそれは……
「で、出てって!!!!」
突然、キラが怒鳴り声を上げました。
「ラクスも早くっ!!!!!」
顔を真っ赤にしてキラはわたくしとカリダさんを強引に部屋から出し、乱暴にドアを閉めました。
「あらあらまあまあ」
息子の逆鱗に触れたにもかかわらず、カリダさんは嬉しそうに微笑んでいます。
「本当、恥ずかしがりやさんなんだから」
「あの…、それは少し違う気が……」
「細かいことは気にしない気にしない♪」
カリダさんは本当に幸せ一杯な顔をしています。
そんなカリダさんにわたくしは心の中で言いました。
『わたくしもキラの子供、欲しいですわ♪』
《あとがき》
5月は『母の日』という事で、カリダさんは前に出して見ました。
やっぱ、キララク&カリダさんは書いていて楽しいです(笑)
もう、カリダさんの声が井上喜久子さまというだけで次から次へとネタが出てきて(えっ)
話の内容が『MY HOME』と少々かぶってしまいました。
ですが、やっぱり私は親子としてのラクス&カリダさんが大好きでたまりません。
是非とも映画化の際は最高の嫁姑を描いて欲しいものです
次のSEEDではキララクの子がヒロイン(キララクは娘でしょ)
でもってフラマリュの子が主人公!!(私はまだフラマリュを諦めてはいない!)
の話をお願いします。サン○イズ様(おい!)
ちなみに6月は梅雨という事で雨にちなんだお話をと考えています。
当然ラヴラヴの砂吐き全開ですけども♪
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