「はぁ……」


ラクスは小さく溜息を吐き、窓の外を眺めた。


外はどんよりと曇り、とどまることなく雨が降り注いでいる。


そんな天気が、もう1週間。


「困りましたわ……」


ラクスは視線を部屋に戻すと、大きく溜息を吐いた。


部屋の中はたくさんの洗濯物で溢れかえっている。


部屋は湿気でじめじめ。居心地が良いはずがない。


とは言っても、この天気ではどこにも出かける気になれない。


日々の買い物でさえも、こう雨続きでは辛くて仕方がない。


ならば子供達と一緒に遊べば、と思ったりもするが、


「わたくしでさえ、こんな気分なのに……」


ラクスは部屋にいる子供達を見ると、小さく肩を落とした。


子供達もまた、この天気に参っているようだ。


雨が降っているから外で遊べない。


かと言って、部屋の中では外みたいに活発に動くことも出来ない。


やんちゃが過ぎると、ラクスとカリダが怖いからだ。


なので子供達は何度も読み返した本を眺めたり、元気なくトリィやピンクちゃんと戯れている。


「本当、困りましたわ……」


この状況はたまらなく辛い。


しかし、解消する術なんて思いつかない。


一体どうすれば…、と思ったその時だった。


「どうしたの、ラクス?」


部屋にやってきたキラが、少し不安そうにラクスに話しかけた。


「そんな憂鬱な顔して……」


「憂鬱にもなりますわ……」


ラクスは溜息一つこぼし、再び窓の外を見た。


「これだけ雨が続きますと……」


「仕方ないよ」


キラは苦笑を浮かべラクスの横に座った。


「今は梅雨だからね」


「それは、そうですが……」


キラの言葉に同調しつつも、ラクスは不満だった。


と言うのは、ラクスにとってこれが生まれて初めて経験する梅雨だからだ。


それに、キラはあまり家事の手伝いをしない。


だからキラはそれほど悲観的にならないのだ、とラクスは心底思った。


「ところで、ラクス?」


キラはラクスの思っていることなど気にすることなく、笑顔で訊ねた。


「ラクスには、雨音はどう聞こえる?」


「えっ?」


唐突なキラの問いに、ラクスは面を食らった。


「どう聞こえる…、とは……?」


「いやね。昔、母さんが言ってたんだけど」


キラは窓の外に目を向け、手を耳元に当てた。


「雨音が音楽に聞こえたら楽しい、って言ったんだ」


「雨音が…、音楽……」


「うん。でも、ボクはいくら聞いても音楽に聞こえないから」


キラはラクスを自分の傍に引き寄せ、ラクスの耳に手を当てた。


「だから、ラクスにはどう聞こえているのかな? って」


「キ、キラ……」


ラクスは思いがけないキラの行動に驚き、離れようとした。


しかしキラの言った言葉がそれを引き止め、言われたとおりに雨音にじっと耳を傾けた。


地面に叩きつけられる雨の音……


屋根に叩きつけられる雨の音……


窓に当たる雨の音……


微かに聞こえる風の音……


そして、キラの息遣い……


『あっ……!』


ラクスは心の中で感嘆の声を上げた。


ラクスの耳に響く様々な音。


それらは単体では、単なる「音」


しかし、それらを織り成していくとそれは……


「聞こえますわ……」


ラクスはそっと目を閉じ、ゆっくりと乗せた。


ラクスにしか聞こえない音楽にラクスの声を。














『思ったとおりだ』


キラもラクスがこの長雨で相当参っていることは知っていた。


しかし、この状況では気晴らしといってもたかが知れている。


ならば、彼女が好きな歌ならばと思った。


『本当、良かった……』


キラはラクスの顔を見て、心から喜んだ。


そこには、先ほどまでの憂鬱感など微塵もない。


あるのは清らかな歌声と、嬉しそうに歌うラクスの笑顔。


『でも、やっぱりラクスは……』


キラは心から尊敬した。


ラクスこそ、紛がうことない『歌姫』だと




















《あとがき》
6月は梅雨という事で、湿りがちな気分のラクスから書きました。

ネタが閃いたのは、ヒ○シのネタにある
「雨音がショパンの調に聞こえると言いますが、俺には聞こえません!」から(笑)
当然、私にも聞こえません(苦笑)
でも、ラクスにだったら聞こえるのではないのか? と思い、こんな話に。

それとキラが気を利かせたのは、本当にラクスが心配だったから。
ラクス同様、見栄を張らずさりげなく気遣うタイプだと私は思います。
でも、一番美味しい思いをしているのはキラですけどねw

さて、次は7月。
7月は七夕。おそらく七夕の話になると思います。
ってか、書く暇あるのかな… 原稿が、原稿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(断末魔の叫び)
《更新、遅くなりまして本当に申し訳ございません》




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