『静かだな……』


キラはぼんやりと空を見上げている。


空には数多の星。


それと、静かに闇夜を照らす満月。


そよぐ風は少し冷たい……


『さっきはあんなに賑やかだったのに』


キラは視線を月明かりに照らされる庭へ落とした。


つい先ほどまで、ここで子供たちが遊んでいた。


いや、遊んでいたというには少し違うか。


皆がみんな、この月夜を楽しんでいた。


そんな子供たちはもう眠っている。


しかしキラは眠ろうとしなかった。


『どうして、なんだろう……』


キラは壁にもたれ、もう一度空を見上げた。


どこも欠けていない、見事な満月だ。


月の光は闇夜の世界を静かに優しく照らしている。


だが、その光はこの世界以上の物を照らして……





そう、キラには思えて仕方ない……


『ボクはラクスの……』


ふっと、自分へと投げかける疑問。


ラクスの言葉に応えているのだろうか……?


ラクスの笑顔に応えているのだろうか……?


ラクスの思いに……


『どう…、なんだろう……』


誤魔化している、なんて気はさらさらない。


それでも、心のどこかで分けてしまっているのでは……?


ラクスを愛する自分と、ラクスに依存する自分とを……


「本当にボクは……」


「ボクは…、どうなされましたか?」


『えっ……!?』


聞きなれた、今聞かれたくない人の声にキラはビクッと反応してしまった。


「隣、よろしいですか?」


しかし声の主…、ラクスは柔らかな笑みを浮かべ、


「う…、うん……」


「では、失礼しますわ」


静かにキラの横に座り、ゆっくりと空を見上げた。


「綺麗なお月さまですね」


「う…、うん……」


「子供たちも、本当に楽しそうでしたわね」


「うん……」


「月見団子、お味はどうでしたか?」


「う……」


「キラ」


ラクスは少し不機嫌な顔をキラに向けた。


「生返事ばかり、返さないでください」


「う…ん……」


「ほら、また」


「ご、ごめん……」


キラは辛そうな顔を隠すように下に向けようとした。


ところが、


「キラっ」


ラクスは両手でキラの顔を包むように押さえ、強引に自分の顔へと向けさせた。


「また、独りで何かを抱えていますね?」


「そ…、そんな事……」


「嘘おっしゃい」


ラクスはじっとキラを見つめ…、いや睨みつけた。


ラクスは怒っている。


それは今の彼女の顔からも声からも容易に分かった。


それでもキラは口を固く閉ざそうとしたが、


「黙らないでください」


「そ、そんなこと言われても……」


キラの視線がラクスから逸れようとする。


しかし、すぐさま


「目を逸らさないでください」


ラクスは柔らかながらも強い語気でキラを押さえた。


「仰りたい事があるのでしょ? でしたら仰ってください」


「言い…、たくない……」


「仰いなさい」


「だから言いたく……」


「仰いなさい!」


ラクスは強引にキラの顔を自分の顔へと近づけた。


「わたくしの何が事足りないのか…、仰ってください……」


「えっ……?」


キラは思いがけないラクスの言葉に…、いや言葉よりも表情に驚いた。


ラクスの顔、それはまるで今の自分の姿を映し出しているかのようだった……


「時々、分からなくなるのです……」


ラクスはか細い声で呟く。


「ちゃんと…、あなたを愛しているのかが……」


「ラクス……」


「あなたに愛される女、なのかが……」


そう呟き、ラクスは静かにキラの胸に顔を埋めた。


「不思議…、だね……」


キラはそっとラクスを抱きしめ、彼女の耳元で囁く。


「ボクも…、同じような事を考えていた……」


「キラ……?」


「本当、不思議だね……」


キラはラクスを抱きしめたまま、そっと目を閉じた。


「ええ…、不思議ですわ……」


ラクスも目を閉じ、全てをキラに委ねた。











静かに変わりゆく時間……


けれど、変わらない思い……


永遠に変わらない思いを……


月の光は示そうと輝き続ける……

















《あとがき》
9月はリクエストをしたのですが、思いのほか来なかったです…(汗)
その中、リクエストをいただいたのが月見の話。
ですが、種D本編がラストに近づいている状況ではどうしてもラヴイチャが思い浮かばなかった……(汗)
という事で、9月は趣旨に反してネガディブなキララクで。

2人は些細なことが原因で、深く悩んでしまいそうだと思います。
っで、その原因が満月。
古来より満月の夜は人を惑わせる。というのをヒントにこの話を。

10月はこの反動でアホで砂吐き全開の話を予定しています(笑)
ちょっとだけ内容のヒントを……

【キラ・ヤマト厨房に立つ!】





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