「自分だけ分かった様な……、奇麗事を言うなっ!」


怒りのままにアスランの口から飛び出した言葉は、容赦なくキラの心を斬る。


「おまえの手だって、既に何人もの命を奪っているんだぞ!」


それは紛れもない事実……


『俺もおまえも殺人者なんだ……!?』


アスランの鋭い眼光がキラの心を切り刻もうとしたその時だった。


パチパチパチ……


どこからともなく手を叩く声がアスランの鼓膜を揺らした。


一体誰が!?


アスランは周囲を見渡した。


音源はすぐに見つかった。


だがそれはアスランに、いやキラにもカガリにも思いがけない場所から……


ミリアリアの手から発せられる音だった……


パチパチパチ……


三人の、何とも言いがたい視線がミリアリアに集中する。


しかし、ミリアリアは手を叩き続ける。


全てを凍てつかせる様な笑みをアスランに向けたまま……


「……、何の真似だ……?」


アスランの顔に疑問と憤りの表情が浮かび上がった。


だが、ミリアリアは手を叩き続ける。


「どうして手を叩く? それに、何がおかしい!?」


アスランの言葉に怒気が篭り始めた。


するとミリアリアは手を止め、凍てつく笑顔をアスランに向けたまま柔らかく告げた。


「いい話だったわ……」


「何……っ!?」


「さすが、元プラント最高評議会議長の息子。話が上手いわね」


「………っ!!」


アスランの全身が激しく揺らめいた。


己の怒りが陽炎となって……


「でも、それだけ……」


それでもなお、ミリアリアの顔から笑みは消えない。


いや、それ以上に輝いている。


極限の凍えによって……


『な、なんだ…、この威圧感(プレッシャー)は……!?』


アスランに戦慄が走る。


これほどまでの威圧感、アスランは今までに体験した事はない。


先の大戦においても、これほどの威圧感……


いや、殺意を……っ!


「あんたは自分の言葉に酔うあまり……」


すっとミリアリアの手が腰元のホルダーに伸びる。


明らかに不自然な動き。


しかし、アスランは動かない。


動くことが出来ない……っ!


「真実を語れないっ!!」


ミリアリアは言葉を発すると同時に、ホルダーに忍ばせていた銃を取り出し、銃口をアスランに向けた。


しかし、近距離格闘のエキスパートであるアスランにとってそれは本来脅威ではない。


そう、本来ならば……


『う…、動けない……』


アスランは身動き一つとれずにいる。


ミリアリアの殺気によって……


「やめろ、ミリアリアっ!」


この状況に、カガリは哀願とも言える叫びを上げた。


「そんな事をして、何の意味があるんだ!?」


「意味なんてないわよ」


ミリアリアは銃口をアスランに向けたまま、冷たい声で返す。


「ムカつくだけ。この男にムカついているだけよ」


「だ、だからって!?」


「一体どうしちゃったの、ミリアリア!?」


カガリの隣にいるキラも悲痛な声を上げた。


「こんな事したって、何の解決にもならないよ!」


「解決? なにそれ??」


ミリアリアは鼻で笑い、吐き捨てるように応える。


「一体、何を揉めているって言うの? って言うより、キラは何とも思わないの?」


「な…、何が……?」


「このバカが言った事よ!」


言うと同時に、ゆっくりとミリアリアの指が引き金にかかった。


「確かにあたし達の手は血で染まっているわ。直接的でなにしろ、あたしも多くの人の死に関与したわ。それは間違いないわ」


彼女の目に映るアスラン。


先ほどの怒気はどこにもない。


いや、むしろ怯えている。


「でも、キラはそれから逃げずに生きて…、いいえ……、ラクスを幸せにしようと本当に一生懸命頑張ってきたわ。でも……」


ミリアリアの顔から笑みが消えた……


「このバカは何っ!? カガリを見捨てて! 都合のいい理屈にすがりついて! 挙げ句に言うに困って言った言葉があれって……」


そして浮かび上がった表情。


それはとても澄み切っていた……


一切の不純なものを含まぬ殺意に……


「あんたはすっかり忘れちゃったようだけど……」


ミリアリアは純粋な殺意だけをアスランに向けた。


「あたしにとってあんたは仇(かたき)…、トールの仇なのよ……っ!」


「………っ!」


「ようやく思い出したようね?」


ミリアリアは嘲笑を浮かべ、もう片方の手を銃に添えた。


「可哀想なトール……。こんな奴に殺されて……」


「ま、待てミリアリア……」


「仇の分際で、馴れ馴れしく呼ばないで……」


ミリアリアの瞳から光が消えた……


躊躇いなど、一切なく……


ミリアリアの指がゆっくりと……


「や…、やめろっっっっっっっっ!!!」


パーァァァァァァァァン……


カガリの悲鳴と同時に上がった銃声……


硝煙の匂いが、周囲に立ち込め……


『……、………っ!?』


アスランは絶対にある筈である焼けるような痛みがない事に驚いた。


『ど、どうして……?』


アスランは目だけを動かし、ミリアリアを見た。


今の今まで向けられていた銃口は天に向けられている。


それどころか、ミリアリアにあの殺意はどこにもない。


『な、何がどうなって……』


「って、バカな事すると思った?」


ミリアリアは悪戯っぽく笑いながら、カガリとキラを見た。


「殺したってトールは帰ってこないわ。それに、トールを殺したのは戦争だから……」


「ミ、ミリアリア……」


「驚かせちゃってゴメンね」


ミリアリアはその場に崩れ落ちたカガリの傍に駆け寄り、そっと手を差し出した。


「あんなのでも、あなたの思い人なんだしね♪」


「頼むから…、もうあんな事は……」


カガリはミリアリアの手を取ると、ボロボロと涙をこぼした。


『芝居…、だったのか……』


アスランもまた安堵に包まれた……


『本当、悪い冗談……っ!?』


パンッ! パンッ! パンッ!


カガリへと足を進めようと瞬間、3発の銃声が響き渡った。


銃弾は全てアスランの足元に……


発射されたのは…、ミリアリアの銃……


『ど、どうして!?』


再びアスランの顔が戦慄に染まった。


と同時に、凍てついたミリアリアの声がアスランの鼓膜を揺らす。


「あんた…、誰っ……?」


「な、何を言い出すんだ! 俺はアスラン! アスラ……」


「ここにあたし達が知っているアスラン・ザラはいないわ」


ミリアリアはアスランに背を向けたまま、言い捨てた。


「アスラン・ザラという男は、カガリの為ならば全てを犠牲にしてでも闘い通す騎士(ナイト)よ。断じて、あんたみたいな傀儡の騎士じゃない!」


「う…うぅ……」


「分かったなら、さっさとどっかに行きなさい! じゃないと…、本当に殺すわよ!」


「……、くそ……っ!!」


アスランは逃げるようにセイバーへと走り、乗り込むと三人に目もくれず飛び去った……。




















「ア…、アスラ……、あぁぁぁぁ!!」


セイバーの姿が完全に見えなくなっても、カガリは泣き続けた。


アスランは遠くへ…


違う……


ミリアリアの言うとおり、アスランはここにはいなかった……


「ごめん…、ミリアリア……」


キラはぎゅっと拳を握り締め、カガリを介抱するミリアリアを見据えた。


「あれは…、本当はボクが……」


「気にしないで、キラ……」


ミリアリアは泣きじゃくるカガリの背中を優しくさすりながら答える。


「まだキラの出番じゃないわ。キラにはあいつが帰ってきたときに……」


「うん…、分かってる……」


キラはさらに拳を強く握り締めた。

















その手から血が滴り落ちるほど、強く強く……



















《あとがき》
アスラン懺悔シリーズ一幕。25話より

あの話は、今思い出しても虫唾が走ります!
とにかくアスラン・ザラ! この男のクズっぷりには呆れて物が言えなかったです。はい!
ミリアリアの前で、あの言葉(冒頭のあれ)を言うか!? と誰もが思ったでしょう。

これは管理人の意見ですが、ミリィにとってのトールの仇は【戦争】と思っています。
当然、そこに至るまでアスランを恨んだと思いますが、全ての現況は【戦争】
ですので、ミリィ自身はアスランに恨みを抱いていないと思います。
ですが、作中のアスランの腐れっぷり!
という事で、一幕目はミリアリアの怒りを主眼においての懺悔です。

では第二幕の予告。
三石さんボイスで読んでください(笑)
《雰囲気を出す為に、反転してあります》


次回【鉄槌】



愛する者の悲しみを傀儡の騎士に刻みつけよ、キラ!!

序幕の時点ではまだお笑い程度でしたが、これが本シリーズの基本路線です。
R15指定したのは、この為です。
次回は、これよりも遥かに酷い内容となっていますのでご了承を…



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