「君が乗っていたなんて…、大丈夫か……?」


「はい。キラの言う通りにして、本当にただ乗っていただけですから」


ラクスはたおやかな笑顔を浮かべ、答え、聞いた。


「アスランこそ大丈夫ですか?」


「……、大丈夫だ……」


とは言ったものの、今の状態では全然説得力がない。


包帯だらけで、メイリンの支えがないと立つのも辛い状態だ……


ところが、俺の答えにラクスは僅かに顔をしかめた。


「お体の事ではありませんわ……」


「えっ……?」


「もとい、あなたの体のことなんて全然心配していませんわ」


ラクスは真っ直ぐ俺を見据えている。


光をなくした瞳で……


『な、何が……』


分からない……


一体、ラクスは俺に何を言いたいのかが分からない……


そう思った、その時だった。


「本当…、あなたって人は……っ!」


ラクスの右腕が振りかぶったのが見えた。


そして……


パァ―――――――ン


右頬に痛みと熱さが宿った……


「ラ、ラクス様っ!?」


隣にいたメイリンが悲鳴を上げた。


メイリンの立場から見れば、俺とラクスは婚約関係。


それなのに、一方的に俺が殴られた。


しかも殴ったのは、あの【ザフトの歌姫】


驚くのも無理はない。


だが、殴った方は氷の様に冷たい眼差しと声を俺にぶつけた。


「どうして殴られたか…、お分かりですね……?」


「ああ……」


俺は侵してはならない罪を犯した。


カガリの傍から離れ…、カガリに刃を向けた……


「弁明の余地なんて…、これっぽちもない……」


「少しは分かっているようですね」


ラクスは冷たい言葉を続けた。


「あれが、あなたの新たな剣ですわ」


「ジャスティス…、か……?」


「ええ……」


ラクスは答えながらジャスティスを指差した。


彼女はいつもそうだ。


決して憐れまない、事実と現実を差し出す。


いつも……


「一つ聞きたい……」


俺は内に秘める苛立ちと不安をラクスにぶつけた。


「君も俺はただの戦士だと…、そう言いたいのか……?」


甘い言葉を餌に強力な武器を俺に与え、踊らせた男の言葉がよみがえる……


あの男とラクスの言葉……


一体、どれだけの違いがある?


俺に出来る事は戦う事だけだ……


分かっていても俺は……


「そこまで……」


ラクスは悲しげに呟いた。


「そこまで堕ちましたか……」


「な…、に……」


堕ちたとはどういう意味っ……!?


パァ―――――――ン


今度は左の頬を叩かれ…、いやそれだけではなかった。


ラクスは俺の胸倉を掴み挙げた。


「そこまで堕ちたのかと聞いているのです!」


目前にラクスの顔が迫る。


あの穏やかな面影など微塵もない……


一切の混じりけのない怒りに満ち溢れた顔が……


「あなたは先の戦争で、何を手に入れたかすら忘れたのですか!」


「ラ…、ラク……」


「カガリさんはあなたにとって何物にも代えられない人ではないのですか!」


「………」


「全てを捨ててカガリさんの所へ行ったのではないですか!」


胸倉を掴むラクスの手にさらに力が込められた。


「カガリさんを護る騎士ではないのですか!」


「うっ……」


「それとも…、カガリさんの事なんてもうどうでもよろしいのですか!?」


「ふ…、ふざけるなっ!!」


頭の中で何かが弾けた。


俺はラクスの腕を掴み、強引に引き剥がした。


ラクスは転倒こそ逃れたが、大きく姿勢を崩した。


だが、それでも俺は……


「カガリが…、どうでもいいだと!?」


怒りに身を任せ、逆にラクスの襟を掴み挙げた。


「そんなふざけた事! よくも言えるな! ラクスっ!!」


「ええ、言いますとも!」


ラクスは怯むどころか、さらに声を荒げた。


「本当にカガリさんが大事な人が、こんな所で油を売っているはずがありませんわ!」


「なにっっ!?」


「例え、五体が砕かれようともカガリさんの下へ馳せ参じるのではなくて!?」


「くぅ……」


「分かりましたわ……」


ラクスは力が抜けた俺の腕を振り払った。


「ならば、あなたに問います……」


そして、俺を激しく睨みつけ怒鳴った。


「あなたが信じて戦うものはなんですか!?」


昔、同じような事を言われた時は何も言えなかった。


だが、今は違う!


「カガリだ!」


「その言葉に、偽りはないですか!」


「ないっ!」


俺は声を張り上げた。


「俺はカガリを護る為…、共にある為に帰ってきた!」


「ならば、今ここで誓いなさい! あなたが戦う理由を! 覚悟を!!」


ラクスの声が凛と響き渡る。


だが俺は引かない!


もう二度と、都合のいい甘言などに媚びない!


どんな運命であろうと顧みない!


「この命……、カガリ・ユラ・アスハの為に使う!」


「それだけですか!?」


「この身が朽ち果てようともカガリを護り抜く!」


「それだけですか!?」


「絶対に俺の手でカガリを幸せにする!!」


幸せにするぅぅぅぅぅぅぅ!!


するぅぅぅぅぅぅぅぅ!


るぅぅぅぅぅぅ


ぅぅぅぅ……


……


格納庫にこだまする俺の魂の叫び……


嘘なんてない。


もう、二度と見失いなどしない!


「……、分かりましたわ」


ラクスは軽く肩で息をつき、言葉を紡いだ。


俺がよく知る柔らかな声で。


「あなたの覚悟、しっかりと聞きとげましたわ」


「ああ、俺もだ……」


そうだ……


答えは本当に単純だったんだ……


国の為、世界の為、未来の為、確かにそれは大切な事だ。


だが、俺が護りたいものはただ一つ……


「ありがとう…、ラクス……」


俺はジャスティスへと駆けた。


ジャスティスは俺の剣


ジャスティスは俺に与えられた力


ジャスティスはカガリを護る力


「俺は……、カガリを護る!」


さあ行こう、ジャスティス……


カガリの命を狙う道化達に……


俺の正義(ジャスティス)を知らしめる為にっ!


「アスラン・ザラ……、ジャスティス出るっ!!」








◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆








『一体、何がどうなって……』


メイリンは呆然とする事しか出来なかった。


あのアスランが、我を忘れ激昂する……


いや、それ以上にあのラクス・クラインが……


「あら? あらあら?」


メイリンの目の前に突然、ラクスの顔が現れた。


「大丈夫ですか?」


「は…、はい……」


「申し訳ございません。変なところを見せてしまって」


ラクスは柔らかな笑みを浮かべメイリンに向けた。


それは、紛れもなくメイリンの知る【ザフトの歌姫】


とても同一人物とは思えない……


「あの…、よろしいですか……?」


メイリンは思わず聞いてしまった。


「アスランさんとラクス様は婚約関係…、なのですよね……?」


「違いますわ」


ラクスはやんわりと、しかしきっぱりと言い切った。


「アスランはわたくしの婚約者などではございませんわ」


「で、でしたらアスランさんとは……」


困惑するメイリンに、ラクスは少し悪戯っぽく微笑んだ。




















「アスランは、散々手を焼かしてくれる困った義弟(おとうと)ですわ♪」



















《あとがき》
アスラン懺悔シリーズ三幕。42話より

元々、この【アスラン懺悔】を書きたいが為にスタートしたこの企画♪
ラクスにアスランをシバかせ、怒鳴らせ、説教する。
視聴者の80%以上(適当)の方が、望んであろうこの展開!
ですが案の定、裏切られたのでこうして書く事になりました(おい)

メチャクチャ漢前やな、このラクス……(笑)
それに、後半のアスランももの凄く男前になってしまったな……(遠い目)
これは最終幕で、ちゃんとアスカガENDにする為。
管理人としては不本意(待てコラ)ですが、格好よくしました(爆)


さてさて、いよいよ最終幕……
の前に、まだ清算せねばならぬ罪がございます!
もっとも、これはアスランの罪ではなくアスランに魂を吹き込む人物の……っ!
三石さんボイスで読んでください(笑)
《雰囲気を出す為に、反転してあります》


次回、番外編【見分け方】



あの発言の意味…、説明しろ! 石○彰!!!

次の話は、完全パロの黒ギャグです。
○田彰ファンの方は絶対に読まないことを推奨する危険な話になります!
ってか、あの発言を知っている方は絶対に石○に殺意を抱いたはず!
管理人と同じ意見の方は大歓迎です!



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