『今日はバレンタインだったよな……』
ボクはボクの正面に座るラクスを見つめる。
ラクスはとても穏やかな、だけどとても真剣な眼差しで自分の手元を見つめている。
ラクスの手元には、ゆっくりと編みあがっていく編み物。
ボクは、出来上がっていく編み物がたるまないように持つ係。
そう、ボクはボクへの贈り物が出来上がっていく様子を見ているのだ。
でも、普通はどうして? と思う。
これにはちゃんと理由がある。
2週間ほど前、ラクスが『キラにも手伝って欲しいですの』と言ってきた。
その時、同じ席にいた母さんが、
「そういう物はこっそり作って、渡す時に10倍返しの請求書も一緒につけるのよ♪」
っと、明らかに楽しみ目でボクを見ながら言った。
これだけ言われれば、いくら鈍感なボクでも分かった。
でも、ラクスの手作りのプレゼントを基準にしての10倍返しなんて……、
『一体、何があるんだよ。母さん……』
まあ、お返しの時になってから考えよう……
ボクは気を取り直し、もう一度ラクスを見つめる。
ラクスは本当に楽しそうに編み物を続ける。
だけど、手に持っている編み上がっている物を見て疑問に思う。
『これ…、マフラーだと思うんだけど……』
これには、セーターみたいに襟裾がついていない。
形だけを見れば間違いなくマフラーの筈なんだけど、マフラーにしては異常に長い。
既に長さはボクの身長と同じくらい。
ラクスが編んでいる所を含めれば、軽くボクの背丈を越える長さになる。
『一体、何を編んでいるのだろう?』
でも、ボクは何も聞かない。
ラクスがボクの為に編んでくれている。
その事実だけで、ボクの胸の中は一杯なんだから。
数時間後、ラクスの手が止まった。
「出来ましたわ」
ラクスはそう呟くと少し疲れた…、でもとっても満足そうに微笑みかけてきてくれた。
「うん。本当にありがとう」
ボクもラクスに微笑み返した。
でも、すぐに今まで思っていた疑問を口走ってしまった。
「ねえ…、どうしてボクと一緒に作ったの……?」
「どうして? とは??」
ラクスはきょとんとした顔をしたけど、ボクは素直に疑問を口にした。
「こういう物って普通…、当日まで隠して驚かせるのが……」
「確かに、それは考えましたわ。ですが……」
ラクスはくすっと微笑み、柔らかな声を紡ぐ。
「わたくし、キラに何か隠し事をするのは嫌でしたの」
「えっ……?」
「カリダさんには、色々と冷やかされましたが♪」
あっ…、なるほど……
実にラクスらしい答えに、ボクは全身が火照っていくのが分かる。
すると、そんなボクを見てなのか?
ラクスはすっとボクの隣に寄り添うように座り、編みあがった物を腕に抱えた。
「それに、これはキラだけの物ではございませんの」
「えっ? それってどういう……?」
「その前に…、これは何かお分かりですか?」
ラクスの問いかけにボクはラクスの腕の中を見ながら、先程の仮の答えを返す。
「マフラーと思うんだけど……」
「はい。マフラーですわ。ですが、とても長いマフラーとお思いですね?」
「うん。とっても長いマフラーだね」
「どうして長いか、お分かりですか?」
その問いにボクは素直に首を横に振ると、ラクスは腕の中のマフラーを手に取りボクの首に巻いた。
これはマフラーなんだから当然の事。
また、全然長さが余っているのも当然の事。
なにしろ、ボクの身長よりも長いマフラーなんだから。
すると……
「このマフラーは、こうして使うのですわ♪」
ラクスは残った部分を自分の首に巻き始めた。
そして巻き終えると、ぴったりとボクに寄り添い、ボクの腰に腕を回してきた。
『えっ? ええぇ???』
いきなりのラクスの行動に、ボクの心臓が激しく脈打ち始める。
でも、ラクスは普段と同じ穏やかな声で囁く。
「暖かいですか?」
「う…、うん……」
「わたくしも暖かいですわ……」
ラクスはボクの肩に頭を寄り乗せ、静かに目を閉じた。
「キラの温もりが…、伝わってまいります……」
そういう事だったんだ……
これはボクのマフラーであってボクだけの物ではない。
ラクスのマフラーであって、ラクスだけの物ではない。
ボクとラクス…、二人だけのマフラーなんだ……。
「ありがとう、ラクス……」
ボクもラクスの腰に腕を回し、ゆっくり瞳を閉じる。
マフラーから伝わってくるラクスの温もりをじっくり味わう為に。
ラクスはボクだけの女の子だと、改めて思う為に……
《あとがき》
2月はバレンタインデー。
チョコレートネタは去年やったので、王道の手編み物ネタでw
夜流田さんは編み物の経験、全然ないのですが手編みって難しいんでしょうね。
それを好きな人の前で編むんだから、ラクスはやっぱり凄いw
《そういうネタを平然と書くオレも、ある意味では凄いと思う…(汗)》
でも、当初は手編みではなく一緒にチョコ作りのネタを考えてました。
ところがそのネタ、思いきりネタ被りになっている事が判明して、手編みになりました。
ちなみにネタ被りになったのは、私が大好きなサイト様でも、手持ちの同人誌でもありません。
まあ、色々とあったんだよ…、くくくっ(不気味な笑い)
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