「おかあさん、おかあさん」
息子の声に、カリダはゆっくりと目を覚ます。
『いけない。つい、うとうとしてしまったわ』
カリダはテーブルに伏せていた上半身を起こし、息子の声がした方を見る。
ところが、息子の姿はない。
「おかあさん、おかあさんったら」
しきりに自分を呼ぶ息子の声に、カリダは違和感を感じる。
何故か、自分の足元の方から聞こえてきたからだ。
『えっ……?』
カリダは恐る恐る自分の足元を見ると、そこには
「こんな所で寝たら、風邪ひいちゃうよ」
そこには確かに自分の息子…、キラがいる。
しかし、それはカリダが今知るキラではない。
そこにいるのは、幼き頃のキラ……
『これって、どういう事……?』
何がどうなってしまっているのか当然カリダには分からない。
それでも不安そうに自分を見上げる息子を安心させようと、無意識に優しく微笑みかけていた。
「どうしたのキラ?」
「え〜とね…、う〜んとね……、はい♪」
キラはもじもじしながら後ろに隠し持っていたものをカリダに差し出した。
それは赤いカーネーション。
「いつもありがとね、母さん♪」
「あら? あらあらまあまあ」
差し出されたカーネーションを受け取りながらカリダは思い出す。
今日は母の日であった事を。
「ありがとう、キラ」
「ううん。それよりもね、聞いてほしい事があるんだ」
キラは軽く首を振ると、何故か少し不機嫌そうな顔で母を見つめてきた。
「今日ね、アスランと将来、どんなお嫁さんが欲しいか話してたんだ。そうしたアスランは何て言ったと思う?」
「何て言ったの?」
「『黙って俺についてくる女の子』って言ったんだよ!? 母さん、どう思う!?」
「あらあらまあまあ……」
カリダは答えに困ってしまう。
それも答えそのものではなく、アスランの答えに憤りを覚えるキラに。
そんな母をよそに、キラは強い口調で母に訴える。
「アスラン…、将来絶対に女の子を泣かすタイプだよ! それなのにあんなこと言っちゃってさ!!」
「じゃ…、じゃあキラは……」
幼い子供から発せられるあまりに現実的な言葉を誤魔化そうと、カリダは逆にキラに問いかける。
「キラは、どう答えたの?」
「どう…、答えたのって???」
「キラが将来、お嫁さんに欲しい女の子はどういう子なのかって?」
「決まってるよ♪」
キラは母の問いに胸を張って堂々と答えた。
「ボクは母さんをお嫁さんにもらうんだ!!」
「あら…、あらあらまあまあ♪」
思いがけない息子の答えに、カリダはたまらずぎゅっと息子を抱きしめてしまった。
「嬉しいわ♪ でもね、母さんはキラのお嫁さんにはなれないのよ」
「えぇぇぇ!! どうして!? ねえ、どうしてなの!!」
キラはカリダの腕の中でバタバタ暴れるが、カリダはそんなキラを優しくしっかりと包み込む。
「母さんはお父さんのお嫁さんなの。だから、キラが母さんをお嫁さんにしたらお父さんのお嫁さんを取っちゃう事になるのよ」
「そう…、なんだ……」
バタバタしていたキラはしゅんとしょげてしまったが、すぐに真剣な眼差しでカリダを見つめてきた。
「じゃあ! 母さんみたいな女の子をお嫁さんにするね!!」
「母さんみたいな女の子?」
「うん! 綺麗でお料理が上手で、それでとっても優しい女の子をお嫁さんにするね!!」
「もう〜、キラったら♪」
カリダはもう一度、ぎゅっとキラを抱きしめる。
そして目を閉じ、伝わってくる息子の温もりをしっかり感じて……
「………、あら……?」
カリダは顔を上げ、辺りを見渡した。
しかし、誰もいない。
カリダはもう一度辺りを見渡す。
そこはリビング、カリダはついついうたた寝をしてしまっていたのだ
『夢…、だったの……』
念の為に、自分の足元を見てみる。
しかし、そこには誰もいない。
『不思議な夢……』
カリダは軽く息をつくと、新鮮な空気を求めて外へと足を向けた。
リビングを出て、中庭のある縁側へ行くとそこには、
「あらあらまあまあ♪」
思わずカリダは笑みを零してしまう。
中庭で仲慎ましく草木の手入れをするキラとラクスの姿が見えたからだ。
『あの夢は…、こういう事なのね……』
遠い昔、息子は母に言った。
【母さんみたいな女の子をお嫁さんにするね!!】
『私がラクスと一緒って…、ラクスには悪いわね♪』
カリダは飽きることなく、気づかれるまでずっと二人の姿を見続けた。
《あとがき》
5月は母の日。カリダさんが主役を張る日です(笑)
今年はキラとカリダさんとの思い出(?)話にしてみました。
キラがラクスに惚れた理由のひとつは、間違いなくカリダさんの影響があると思います!(力説)
なので、こういう話にしてみましたw
まあ、今年はゲストで凸さんの名前出しましたが、扱い方は何ら変わりなくでw
みなさ〜ん。母の日ぐらいはちゃんとオカンに感謝せぇよ〜〜♪
もどる
SEEDTOP
TOP