【ご 注 意】




この話の注意点は2つ



@ オーブ=日本と思ってください

A ちゃんと調べてますが、話中の内容を深くツッコまないでください……






まあ…、いつも通り、広い心を持って読んでください♪

















「旦那、旦那」


モルゲンゲーテ格納庫の片隅で、マードックは人目を避けるように『旦那』を呼んだ。


「こっちですぜ、旦那」


「おう」


『旦那』は呼ばれている事に気づくと、誰にも気づかれないようにこっそりと移動。


そのままマードックと一緒に近くにある小さな倉庫の倉庫の中へと入った。


「いよいよかマードック?」


倉庫に入るなり『旦那』が嬉々とした表情で訊ねると、


「へい。今夜…、いけますぜ……っ!」


「よし! でかした、マードック!」


マードックの答えに『旦那』はポンと、ねぎらいの意を込めて叩く。


「今夜は久々に楽しい夜になるなぁ〜♪」


「ですが…、いいんですかい……?」


喜び勇む『旦那』とは対照的に、マードックは不安そうに問う。


「艦長に内緒で、こんな事しちまって……?」


「はぁ〜? 今さら、何言い出しやがる?」


この問いに、『旦那』は鼻で笑う。


「お前だって、この日を待ちわびてなかったか?」


「そりゃ…、そうですが……」


「これは女には分からねぇ楽しみなの。だから、別に言わなくていいのいいの♪」


『旦那』はあっけらかんとした顔で続ける。


「それに、俺らが大人しい大人でいられると思う? 無理だろ♪」


「まあ…、無理な相談ですわな……♪」


『旦那』の雄弁に負けたのか?


マードックは苦笑いを浮かべて、『旦那』の意気に応える。


「では今夜、例の場所で待ってやすぜ」


「りょ〜かい♪」


マードックと『旦那』は、こっそりと倉庫を出て、誰にも気づかれない様に自分たちの持ち場へと戻っていった。











◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











夜――――


オーブ郊外にある峠道。


比較的勾配が少ないながら、車幅が狭く、幾多にも存在するカーブの連続。老朽化に伴う路面の悪さ。


ペーパードライバーには到底走れる道ではない。


その為か、昼間でさえ車の通りはまばらであるこの道。


しかも、夜道を照らす街灯など一本も存在しない。


月明かりでさえ道を照らすには不十分、唯一の灯りはヘッドライトのみ。


たたでさえ走るのに困難な峠道。わざわざ夜中に好き好んで走る人間などいない。


この男を除いては……


「いいねぇ♪ 実にいいねぇ〜〜〜♪」


闇夜の静寂を打ち破るように駆け抜ける一機の白い車。


独特なエンジン音、それを際立たせるように時折鳴り響くスキール音。


その車のドライバーは悪条件の走行など関係なし……


いや、違う。


まるで水を得た魚の如く、極上に喜びに酔いしれながら車を走らせる男。


その男の名は……、


「聞こえますかい、旦那ぁ〜?」


装着してある無線機からマードックの声が聞こえる。


「随分と派手にやってるようですが、5000回転以上回さないでくださいぜ?」


「分かってる♪ 俺は【エンデュミオンの鷹】だぜ♪」


「いくら【エンデュミオンの鷹】と呼ばれましても、それはMSでの話ですぜ」


「ばぁろ〜! この鷹は地上を駆け走る鷹だってぇの!」


【エンデュミオンの鷹】……


そう、この車のドライバーは…、ムウ・ラ・フラガ!!


「これからじっくり足回りチェックするから、無線切るぞ!」


そう一方的に言うと、ムウは通信を切り、漆黒の闇を僅かに照らすライトの先へと視線を移し、グッとアクセルを踏み込んだ。


「さ〜て…、楽しもうかい……。子猫ちゃん!!」


一気の加速によってムウの身体は深くシートに沈み、目前に白いガードレールが飛び込む。


しかしムウは恐怖を感じるどころか、うっすらと笑みを浮かべながらアクセルから右足を離し、叩き付けるように左足でクラッチペダルを踏みこむ。


と同時に、トップギアに入っていたギアを3速に落としながら、ハンドルを握る両腕は思いきり右へと切り込む。


「よ〜し、ここから……っ!」


急なハンドル操作によって車は大きく右へと傾き、車の先端は岩壁へと向けられ、けたたましい音が車内のムウの鼓膜を激しく揺らす。


だが、音が聞こえるのと同時に右に切り込んでいたハンドルを僅かに左へと戻すと、


「いいぞ〜、子猫ちゃん♪」


岩壁に突っ込む様になっていた車が、寸分の狂いもなく岩壁をなぞるように綺麗に駆け走る。


そして、すぐにやってくる逆方向へのカーブに備えて、今度は岸壁ギリギリに設置されてあるガードレール目掛けて車の向きを変え、


「そりゃぁぁぁぁ!!」


ムウの掛け声と同時に、車の先端はガードレールをなぞる様に走り抜ける。


その間、ムウは一度もブレーキを踏んでいない……


「さっすがマードック。いい足に仕上げてくれてるぜ♪」


ムウは通信を切っている相手に、思わず賛辞の言葉を続ける。


「やっぱ最高のMS整備士は、最高の車の整備士でもあるぜ!!」


ムウは歓喜の声を上げ、次々と迫り来るコーナーを通常の運転手では狂気としか思えない速度と、曲がり方で通過しながら、何かを思いだしていた。


「ホント、偶然だったんだがなぁ……」











それは1週間前の事―――


モルゲンゲーテの倉庫の奥深くに眠っていたこの車をマードックが偶然発見した。


この車は昔こそ一世を風靡した車ではあるが、今の時代となっては旧車。


それも若い世代の人間から言わせれば《クラシックカー》と呼ばれている代物。


しかし、この車を知るマードックはこの車に再び新たな息吹を吹き込まんと、この車の修理を始めた。


この車の存在をマードックから知らされたムウは、土下座してこの車のドライバーを志願した。


何故ならムウも、この車の素晴らしさを知る人間の一人だからだ。


すると、そんなムウには幸いか?


マードックの運転技術は一般ドライバーとさほど変わりない。


どうせ復活させるならば、往年の輝きをもたらしてくるドライバーに運転してもらいたいと思い、ムウの嘆願を快諾。


メカニカルな部分はマードックが。ドライビングはムウが。


部品調達などは二人の共同作業によって、この夜…、ついに復活したのだ!











「俺もまあ…、色々な車に乗ってきたなあ……」


ムウは変わらぬ走行のまま、感傷に浸り始める。


「4WDのガツンとくる立ち上がり…、あいつは最高にたまんねぇけどコーナーが楽しくないんだよねぇ〜。そりゃ今の4WDはしっかり曲がってくれっけど、なかなか納得いくコーナリングできねぇ……」


そうぼやきながら、車は綺麗な弧を描くようにカーブを曲がっていく。


「FFは何て言っても走りやすい。オーバースピードでコーナーに突っ込まない限り、まあ事故る事はねえ。しかも《VTEC》搭載の車…、ありゃどう考えても詐欺だぜ!」


カーブを抜けると、そこそこの直線が現われ、ムウは間髪入れずにアクセルを踏むこむ。


エンジンが猛き咆哮を上げ、一気に加速していく。


「ターボチューンしてなきゃ、このエンジンでも勝てるかどうか分からねぇから…、《VTEC》はよ。だが……っ!」


すぐに現われるゆるい右カーブ。


これをムウはハンドル操作のみで通過すると、今度は急勾配の上り坂が姿を現す。


ムウは1つギアを落とし、エンジンに過度の負担をかけない様に注意しながらも、一気に加速していく。


「FFは上りがきついんだよね……。特に低速コーナー直後の立ち上がりが……。ターボチューンしても、こればっかりは改善できねぇからな……」


しかし、この車はムウの懸念を見事に裏切り、彼の思い描いたとおりの加速を見せる。


「そうなると…、やっぱり、この車……。FRになるんだよねぇ♪」


ムウは軽く指でハンドルを弾くと、車内に響き渡るエンジン音と身体に掛かるGの感触に酔いしれる。


「そりゃFRもたくさんあるよ? でも、FR車の中でもこいつは別格中の別格だぜ!」


ムウはマードックから許されているギリギリのエンジン回転域をキープしながら、現状で許される限界走行へと移行していく。


「今の時代でも気品に溢れるボディ! 手なずけりゃ最新の同型車以外存在しねぇコーナリング性能! そして、このロータリーサウンド!!」


次々と見事なまでの曲線ラインを描きながらコーナーを抜けていくムウ。


車の動きに一切の乱れはない。まさしく人車一体……。


「国産車を知らねぇ奴に限ってすぐにポルシェやフェラーリなどに乗りたがる。だけど、俺はそんな物に興味などねぇ!」


残されたカーブも残り僅か、ムウは全身全霊を込めてカーブに突入する。


「車は国産! そんな中でも、俺はこの車に惚れてんだ!」


最後のカーブも見る者がいれば心を奪われる美しいスライド走行で抜け、最後の直線へと入り……


「俺は死ぬまで…、ロータリーエンジンだぜぇぇぇ!!」


甲高いエンジンサウンドを残し、車は峠から姿を消した……











◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











その頃、マリューは………


「今頃、ムウは楽しんでる事でしょうね」


マリューは正面に座る人物…、ラクスに柔らかな表情を浮かべいた。


「随分と寛大なのですね?」


対してラクスは、少し憮然とした表情で切り返す。


「もしもキラがムウ様の様な真似をしましたら…、許しませんわっ!」


「ラクスさんらしいわね」


そんなラクスを、マリューは諌めるように穏やかに返す。


「あの人が大人しい大人でいられる訳がないわ。それに、いつまでも無邪気な少年でいるあの人に惚れたもの」


「あらあら。おろのけですか♪」


「そうよ♪ それに何だかんだ言っても、ムウはちゃんと私の所に帰ってきてくれるしね♪」


マリューは幸せ一杯の顔で、誇らしく答えた。


「それはわたくしも同じですわ。ですが……」


ラクスも返しはするが、どうしてもムウの行動に納得いかないのか、無意識に眉間に皺が寄ってしまう。


「内緒で夜遊びするのは…、わたくしには到底許せませんわ……!」


「大目に見てあげたら? だって私の感じゃ……」


マリューはにっこり微笑みながら告げる。


「キラ君も、ムウと同じ事をすると思うわ」


「えっ……!?」


「キラ君も車持ってるのでしょ? しかも近々、改良するって言ってたし?」


「で、ですが…、キラは内装だけと……」


「甘いわ、ラクスさん」


驚くラクスを尻目にマリューは、穏やかに言葉を続ける。


「さすがにムウみたいにいきなりフルチューンはしないけど、足回りとボディの歪みを抑えるタワーバーを注文してたわ。カーナビと一緒にね」


「あ…、あの……、何を言っているか全く分からないのですが……」


「いずれ分かるわ。近いうちにね……♪」


マリューは終始微笑んだままだった。


もっとも心の中では……




















『私じゃなくてマードックに整備を頼むってどういう事よ! ムウっっ!!』













夜明け、マリューのカミナリが落ちた事は言うまでもない……























《あとがき》

車ネタです、思いきり車ネタです!
しかも、専門用語乱発! 久しぶりに書きたい放題書きました!

完全なまでに車の事を知らない人には何の事かさっぱり分からない内容に…(爆)
ですが、この話を読んで、少しでも車に興味を持ってくれれば幸いです。
《本当、車持ってから車ネタに走り出したなぁ〜〜》

今回の主役はムウさん。車ネタにはうってつけの人です♪
当然の事ながら、思いきり元ネタからパクリ倒してますw
それでもムウさんの位置づけは、声優ネタの方ではなく【ゴットフット】の方でございますがw

ちなみに、この話には続きがあります。当然、次の主役はキラw
完成予定は、夜流田さんの最初のチューニングが完了&初走行終わってからです♪
《チューン内容はマリューさんが言ってるよ♪》

最後にムウさん……
マリューさんに怒られても、あんたは生涯【大人しくない大人】でいてくれw
《ムウさんが大人しい大人になったら本当に悲しいよ…》


もどる
SEEDTOP
TOP