穏やかな昼下がり。


キラがテラスでのんびりと本を読んでいると


「キラ、お茶が入りましたわ」


リビングからラクスの柔らかい声が聞こえてきた。


『あっ、もうこんな時間か』


キラは本にしおりを挟み、それを手に持ちリビングへと向かった。


リビングに入ると、


「わ〜い♪ ケーキだぁ〜〜♪」


「このケーキ、おいしい〜〜♪」


とても賑やかな子供たちが、本当に嬉しそうにケーキを食べていた。


『あれ??』


キラは子供たちに出されているケーキを見て、少し首をかしげた。


普段、子供たちのおやつは勿論、キラのお茶菓子はもっと質素で簡単なもの。


理由は簡単、食事もおやつも全てラクスとカリダの手作りだからだ。


ケーキの様に手の掛かる物は、お祝い事でもない限りまずない。


『ラクスの誕生日はもう終わった筈じゃ……』


キラは不思議に思いながらも、ラクスとカリダが待つテーブルへと足を運んだ。


ただ、この状況はキラにとっていい状況ではない事だけは理解できた。


『今日、何の日だったかな……』


下手をすれば、ラクスの機嫌を損ねる事になってしまう。


しかし、思いだす事が出来ない。


そんな事を考えているうちに、知らず知らずいつもの席に腰を下ろしてしまっていた。


「はい。キラ♪」


ラクスは笑顔でキラにケーキが乗った皿を差し出した。


ケーキは綺麗にコーティングされたチョコレートケーキ。


見た目は普通に店で売っているぐらいの綺麗な出来だが、間違いなく手作り。


『どどど…、どうしよう……』


次第にキラの顔から血の気がなくなっていった。


「どうかされましたか?」


キラとは逆に、ラクスはきょとんとした顔。


カリダはいつも通り、穏やかな微笑みながらキラとラクスを眺めている。


『もう…、ダメ……』


キラは覚悟を決めた。


素直に非を認めれば、ラクスはきっと許してくれる…、そう思って……


「ラクス、ゴメン!!」


キラはテーブルに手を付くのと同時に、頭もテーブルに付けた。


「今日が何の日か、忘れちゃった! ごめんなさい!!」


「あら? あらあら??」


『……、えっ?』


キラの予想に反し、聞こえてきたのはラクスの戸惑いの声。


確実にカリダとラクスが同時に怒る筈であるが……


「あらあらまあまあ♪」


カリダは妙に楽しげに呟いている。


「ある意味、今日の主役がなにやってるのよ♪」


「は…、い……??」


カリダの言葉に、キラは思わず顔を上げてしまった。


「今日の…、主役……??」


「キラ。あなた、ひょっとして……」


息子の間が抜けた顔に、カリダは苦笑いを浮かべた。


「今日、何の日か忘れたの?」


「だから、こうして謝ってるんじゃないか」


「あらあらまあまあ……」


カリダは溜息を吐き、ラクスを見た。


「ラクス、ごめんね。こんなおバカな息子で……」


「あらあら♪」


ラクスはカリダの問いかけに、笑顔で返した。


「これは想定の範囲内ですわ、カリダさん♪」


「そうなの、ラクス?」


「はい♪ キラ、こういう事には無頓着ですから♪」


「ちょっとラクス……」


キラはむすっと顔をしかめた。


何の事を言っているかは分からないが、少なくとも悪く言われている事は分かった。


「さっきから2人して何を言っているの?」


「あらあら。まだ、お分かりになりませんか?」


「質問を質問で返さないでよ」


「本当、仕方がない子ね……」


カリダは割って入り、キラに出されたケーキを指差した。


「キラ。これは何?」


「チョコレートケーキ」


「『チョコレートケーキ』から『ケーキ』を抜いたら?」


「チョコレート」


「じゃあ、今日は何月何日?」


「今日は2月14……、あっ!?」


キラはハッとした。


『そうだった…、今日は……』


今日は2月14日。


聖バレンタインデー……


「やっと気づいてくれましたのね、キラ♪」


ラクスは満面の笑みを浮かべ、キラに告げた。


「あなたの為に作りましたのよ」


「えっ…、あ、あぁ……」


「召し上がってくださいな♪」


「う、うん……」


キラは言われるままフォークを手に取り、ケーキへと伸ばした。


そして、ゆっくり口へ……


「美味しい……」


自然とキラの口から言葉が漏れた。


「本当に美味しいよ……」


無意識に手が伸びて、二口、三口……


売られているケーキなんかよりも断然美味しい。


やや甘さが控えめで、ほんのりした苦味が利いている。


大人の味…、ラクスの味……


気がつけば、皿の上にあったケーキは跡形もなく消えていた。


「あっ…、ない……」


キラはなにも乗っていない皿を切なげに見つめてしまった。


「大丈夫ですわ。まだまだございますから、待っててくださいね♪」


ラクスはあやす様にキラに告げると、席を立ちリビングへと行った。


「あらあらまあまあ♪」


事の次第を見ていたカリダは、ラクスの姿が見えなくなったの確認してからキラに視線を移した。


「本当、幸せ者ね♪」


「うん」


キラは余韻に浸った顔を恥ずかしがることなくカリダに見せた。


「心からそう思うよ……」


「お返し、ちゃんとしなきゃダメよ♪」


「うん。それは分かってる」


キラは言うと同時に、お返しの事を考えた。


手作りケーキを貰って、ありきたりのお返しなんて出来ない。


かと言って、何を渡せばラクスは喜んでくれるだろう?


『カガリに聞けば……』


いやカガリはお返しを貰う立場だ。


『じゃあアスラン……』


いや、これは論外……


どうせハロを大量生産するのがオチだ……


『やっぱりムウさんかな……』


一番、無難な選択だ。


後でムウさんに連絡とろう


キラの中で善後策が決まったその時だった。


「でも大変ね。キラ♪」


カリダは穏やかに微笑みながら告げた。


「バレンタインのお返しは、最低でも3倍返しが相場ですものね♪」


……


…………


えっ……????


「ちょ、ちょっと母さん? それ本当なの……?」


「本当よ♪」


カリダは笑顔を浮かべたまま続けた。


「女の子の、それも手作りのプレゼントよ? それぐらいのお返しがするのが当然じゃない♪」


「でも、3倍返しはやりすぎじゃ……」


「最低で3倍。本当は10倍ぐらいに返すものよ♪」


途端に、キラの背中に冷たい物が走った。


と同時に、ラクスがリビングから戻ってきた。


「キラ、お待たせしました♪」


ラクスは天使のような微笑みを浮かべ、ケーキをキラに出した。


だが、キラの心中は大嵐……


『どどどど…、どうしよう……』


普通のお返しでさえ四苦八苦なのに、3倍返しなんて……


と心の中で叫びつつも、手は勝手にケーキに伸びてしまっている。


そして、そのまま口の中へ……


























『………、苦い……』





























甘さよりも苦さが口の中に広がった……






















《あとがき》
2月は王道、バレンタインの話♪

私的に、キラはバレンタインに興味はないと思います。
だって貰う側じゃなくて、渡す側じゃ…(こらこら)
でも真面目な話、キラがバレンタインチョコを貰うシーンが思い浮かばないです。
だって貰う側じゃなくて、渡す側じゃ…(しつこい)

チョコレートケーキにしたのは、大人のバレンタインを意識して。
どっちかと言えば、ガトーショコラかな?
ラクスが市販のチョコを渡すようには全く思わなかったので、当然の事ながら手作りです。

そして、カリダさんがプレッシャーかける♪
これは完全にお約束です(笑)
しかし現実問題、バレンタインのお返しは3倍返しが基本ですからね…
絶対に不公平だと思うのですが、これいかに??

でも、現実のオレはバレンタインのお返しなんてこれっぽちも心配してません。
だって、今までチョコ貰った記憶なんて…(省略じゃ!)
当日はヤケ酒じゃ!!(空しいな、オレ…)


もどる
SEEDTOP
TOP