「はぁ……」


ラクスは部屋を見渡すと大きく溜息を吐いた。


部屋には洗濯物が所狭しと干されている。


今は梅雨……


最近はキラも家事を手伝ってくれる為、去年の様な憔悴感はまだ少ない。


それでも、この洗濯物のカーテンだけはラクスの気を滅入らすには充分……


『この季節だけは好きにはなれませんわ……』


気晴らしに歌を歌っても、いつの間にか重いバラードになってしまう。


いくらラクスと言えど、そこまで歌のレパートリーはない……


『何か気が晴れる様な事はございませんの……』


ラクスは恨めしそうに洗濯物のカーテンの隙間から見える外の景色を見た。


しかし、当然の事ながら見えるのは薄暗い空と雨粒に曇る庭だけ。


「はぁ……」


もう一度、大きな溜息を吐いたその時だった。


「どうしたの、ラクス?」


部屋に入ってきたキラが心配そうにラクスに声をかけ、彼女の隣に座った。


「いえ…、別に……」


「別に、じゃないでしょ」


キラややんわりと、それでいながらも少し強く言った。


「正直に、気が滅入っているって言ってよ」


「そうは言いましても……」


「ああ、もう……っ!」


キラは業を煮やしたのか、立ち上がると強引にラクスの手を取った。


「ラクス、行くよ!」


「えっ…? どちらへ……?」


「いいから。ラクスは黙ってついて来て!」


キラは訳が分からぬラクスを強引に引っ張って行った。











◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











『あら…、あら……』


ラクスはほのかな夢心地を感じている。


ラクスは今、キラと一緒に外を歩いている。


一本の傘で雨露をしのぎながら、ゆっくりゆっくりと……


『これって相合傘……』


ラクスはそっと隣のキラを盗み見た。


キラは普段と変わらない落ち着いた表情で前を向いている。


それでも開いている腕はしっかりラクスの腰元へ。


傘を持つ手はラクス寄りに。


お陰でキラの利き手側は雨に濡れている。


それでもキラは、何も言わず歩いている。


『キラ……』


ラクスは何度か濡れている事をキラに伝えようとしたが、出来なかった。


いや、伝えたくなかった。


服越しに伝わるキラの温もりから離れるのが嫌で……


「ねえ、ラクス」


キラは前を向いたまま、ラクスに話しかけた。


「ラクスはこういうのって嫌い?」


「いいえ…、好きですわ……」


「そう……」


キラはぶっきらぼうに答えはしたが、その顔は微かに微笑んでいる。


キラもまた、まんざらではない様だ。


その証拠に、ラクスに伝わるキラの腕の強さが少し強くなった。


しっかり寄り添って、一歩ずつ……


雨音だけが支配する世界をゆっくりと進んでいく……


『ああ……』


ラクスは瞳を閉じ、その身をキラに委ねた。


家にいた時は憂鬱にしか感じさせなかった雨音がとても心地よく聞こえ……


まとわりつく湿気も、キラの温もりがかき消して……


それは現(うつつ)に現われた、一時の夢……


誰にも邪魔されず、キラを感じることが出来る……


確かにキラはラクスの全て。


しかし、現でここまで二人きりでいられる時はあまりに短い。


キラがもたらしてくれたこの瞬間……


キラも、世界も全てはラクスの物のようで……


『このまま永遠に……、っ!?』


ラクスがもっとキラに寄り添おうとしたその時だった。


突然、身体が重力の支配から離れ、夢心地の世界が一瞬にして現実へとすりかわる。


それも、急速に傾く視界へ……


「あっ……!」


ラクスは声を上げたが、時既に遅し。


視界が急降下し、雨でぐっしょり濡れた地面がラクスの視界に飛び込んでくる。


「ラクス、危ないっ!!」


キラは重力に引かれるラクスの身体を抱き起こそうとした。


っが……


ズルッ!!


「あっ……」


……


…………





…………………








ぱっしゃぁぁん……!














◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











「あらあらまあまあ……」


カリダは渋い表情でキラを見た…、と言うより睨みつけた……


「この歳になって、どろんこ遊びとはねぇ……」


「うっ……」


キラはカリダの皮肉に何一つ文句が言えなかった。


あの時、ラクスが足を滑らせてしまい、キラは助けようとした。


ところがキラも足を滑らせてしまい、そのまま水溜りへダイビング……


当然の事ながら二人ともびしょ濡れのどろんこ。


泣きそうな思いで家に帰ると、待っていたのはカリダの突き刺すような視線。


その責めを、キラ独りが一身に浴びている……


「本当、母親思いの息子な事……」


カリダは無理に作った笑顔で、嫌味を続ける。


「お陰さまで、また洗濯の腕が上がったわ……」


「ごめん…、なさい……」


キラには謝るしか選択肢がない。


とは言ってもラクスを巻き込んでしまった以上、それだけでは許してくれそうにない。


「キラ、あなたは男の子だからいいとして、ラクスは女の子なのよ」


まだまだ降り注ぐ皮肉の雨あられ。


「風邪引いちゃったらどうするつもりなの?」


「ボクが…、責任を持って看病します……」


消え入りそうな声で責任の弁を述べるキラ。


それでも、この雨は一向に止む気配がない。


「どうして夜まで我慢出来ないの…、まったく……」


「母さん!!」


キラは見も蓋もない愚痴に異を唱えようとしたが、


「あらあらまあまあ」


すぐさま、カリダの氷の微笑がキラを凍てつかせた。


「文句があるなら、遠慮なく言っていいのよ?」


「ありま…、せん……」


再び、キラは沈黙……

















この雨は、暖を取るために風呂に入っていたラクスが帰ってくるまで続いたそうで……






















《あとがき》
6月は梅雨、梅雨ならば相合傘!
《我ながら強引なこじつけだなぁ〜♪》

今回はちょっとツンデレなキラたんにしてみました。
こういうキラも個人的にはありかな? っと♪

でも相合傘のキララクって絶対に絵になると思うのですが、どうですか?(同意を求めるな)
でもって、これを絵にしてくれる奇特な人っていないかなぁ〜♪(ちょっと待て)
最近私のキララク血糖値が低下中だから、ほら♪(だから求めるな)

そして、オチはやっぱりカリダさんになるのが私らしい…?
しかし、怒られるキラはマジで洒落になってないですが…(汗)
まあ、雨の中へ連れ出したキラが悪いんですけどね♪




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