『暑い……』


ボクはようやく干し終えた洗濯物を眺めながら、額の汗を拭った。


季節は真夏、灼熱の太陽が容赦なくボク達を照りつける。


良い事と言えば、洗濯物が早く乾く事ぐらい。


それ以外は、苦痛以外の何物でもない……


『何か、涼しい事でもないかな……』


ボクはラクスの部屋の窓を見た。


しっかりカーテンが敷かれ中を見ることが出来ないが、今そこにラクスはいる。


何故か母さんと一緒に……


『また何を企んでいるんだろう……?』


今更ではあるけど、母さんがラクスと一緒に何かをしていると、大抵ろくな事が起きない……


もとい母さんは、ラクスを使ってボクをからかう事に味を占めてしまっている……


そう考えた途端、背中がゾクっとした。


『こんな涼しさはいらないよ……』


とは言っても、覚悟はしておかないといけない。


覚悟してけば、ダメージを抑えられることが出来る……


「キラ〜。ちょっといらっしゃ〜〜い♪」


ほら、きた……


「は〜い。すぐ行く〜〜〜」


ボクは覚悟を決めて、母さんの声が聞こえた方へ向かった。


本当は行きたくないけど、ボクに拒否権なんてないから……


っと、何度も何度も自分に言い聞かせてはみるものの……


「あらあらまあまあ」


母さんはボクの顔を見ると、わざとらしく難しい顔をした。


「見事な仏頂面しちゃって…、どうしたの?」


「別に……」


やっぱり顔に出てしまっているようだ……


「そんな事よりも……」


母さんはボクにお構いなしで、さっくりと話を進める。


「私、お茶淹れてくるから、先にラクスの部屋に行ってて」


「お茶だったらボクが淹れてくるから、母さんは先に戻ってて」


ここで、『はい、そうですか』なんて答えるなんて愚の骨頂……


間違いなく母さんはラクスの部屋に罠を張っている。


そんな状況で単独で部屋に行くのは完全な自殺行為だ!


「あらあら? じゃあ、お言葉に甘えるわ」


あれ???


母さんは無理強いするどころか、ボクにお茶菓子の場所まで教えてあっさりとラクスの部屋に戻ってしまった。


『ボクの考えすぎ……?』


また独りになったボクは、母さんの注文どおりに台所へと向かった。











◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











「母さ〜ん、ラク〜ス。お茶とお菓子持ってきたよ〜」


キラは部屋のドアの前で2人を呼んだが返事がない。


「両手塞がってドア開けれないから、開けて〜〜」


もう一度呼んでみたが返事がない。


「いるんでしょ? 開けて〜〜〜」


しかし返事がない……


『あれ? 本当にいないのかな??』


キラは台所へ戻ろうと思ったが、折角持ってきたお茶とお菓子。


「もう、仕方ないな……」


すぐに戻ってくるであろうと思ったキラはラクスの部屋で待つことにした。


キラはお茶とお菓子を乗せた盆をそっと床に置き、ゆっくりドアを開けた。


「あっ…、えっ……?」


ドアを開けると、そこに人魚がいた。


いや、足はちゃんとついている。なので人魚ではない……


しかし、キラの目には確かに人魚を見た。


「あっ、キラ♪」


人魚…、いや人魚と見間違うほどの格好をしたラクスはいつもの穏やかな微笑みでキラを見つめる。


「どうですか? 似合いますか♪」


「うん……」


キラは、ここでようやく母親の罠を知った。


全ては、キラにラクスを…、水着姿のラクスを見せて驚かす為……


そして、この部屋のどこかに隠れてその様子を面白おかしく見ている。


『そうだ…、絶対にそうだ……!』


そう確信したキラは、水着姿のラクスを前にしても冷静でいられた。


「ラクス、ちょっと待ってね」


キラは一言断りを入れると、ラクスの部屋を家捜しし始めた。


ベッドの下、クローゼットの中は当然の事。


窓の外も、天井を叩いて不審な点がないか。


果てには二人の共謀とも考え、人一人入るかどうか疑わしい引き出しの中も……


しかし、カリダの姿はどこにもない……


『どういう…、事なんだ……?』


無駄な家捜しを終えたキラは、もう一度ラクスの姿を見た。


今度は余計な事を一切考えず、純粋に……


『ああ…、ラクスは何を着せても似合うけど……』


ラクスの水着姿…、それはまさしく人魚姫……


ラクスの髪の色と同じ桜色のビキニ。


思いきり露になっているうなじから肩へのまろやかな曲線。


歴史に残る彫刻のようにすらっと整った脚。


そして、嫌でも強調されてしまっている胸元。


『ラクス…、着痩せしやすいタイプなのは知ってるけど……』


悲しき男の性か、キラの視線は自然と胸元に固定されてしまっている。


キラは産まれたままのラクスの姿を知っている。


実際の大きさも直接知っている。


しかし、水着というだけでこうも違って見えるのか!?


「ちょっと、キラ……」


いかがわしい視線に気づいたのか?


ラクスは、ほんの少しだけ顔をしかめた。


「先ほどから胸ばかり見ていられますが……?」


「えっ? 気のせいじゃないの?」


「見てくれるのは嬉しいのですが…、わたくしは感想が聞きたいですわ」


ラクスは水着の感想をキラに聞いた。


ところがキラの聴覚は、ラクスの言葉の後半部分を見事にふっ飛ばしていた。


『嬉しい……? でも、これってどう考えても生殺し状態だよね……』


ふつふつと湧き上がる黒い感情……


それでも、まだ理性がそれを抑制している。


いや、理性が悲鳴を上げ始めている……


「キラ!」


ラクスはぶすっと顔をしかめ、言葉に棘を含ませた。


「わたくしの話、聞いているのですか?」


「うん…、聞いているよ……」


「では質問します。わたくしは何を聞きましたか?」


「水着の感想」


キラはさらっと答えた。


「っで、その答えなんだけど……」


キラはそう言うと、周囲を見渡した。


いや気配を確認した……


『誰もいない…、じゃあ……♪』


直後、キラの瞳から光が消えた……


そして……


「キラ…、あなた一体なに……、きゃぁぁぁぁぁ!!」


一瞬だった。


キラはラクスを強引に抱きしめ、そのままベッドに押し倒したのだ。


「キ……、キラぁぁぁぁぁ!!」


ラクスは大声で叫んだが、キラの態度はどこ吹く風か?


黒々しい笑顔でしっかりラクスの上に覆いかぶさり、一切の抵抗を出来ないようにした。


「これが、ボクの答えだよ……♪」


「これのどこが答えなんですか!?」


「だ〜〜か〜〜ら〜〜〜〜♪」


キラは楽しそうに呟きながら右手をラクスの背中に回し、水着を止めている紐をするりと解いた。


「ちゃんと答えを実践しているんじゃない♪」


「だから! 何が!!」


「自分から誘っておいて、そんな言い方はひどいよ〜♪」


「ちょ、ちょっとキラ!?」


ラクスは怒鳴り激しく抵抗するが、全く持って無駄。


キラは空いている左手をラクスの胸元に伸ばそうとする。


「こんな君の姿…、他の男なんかに見せたくない……。というより、見たら絶対に今のボクみたいな事を考える……っ!」


「キラ……」


「だから実際に痛い目に遭ってもらう。そうなれば、絶対に君はこの水着を着ないから……」


「キラ…、わたくしの事を心配して……」


ラクスの全身から怒りと混乱が消えた……


と同時に全身を包むのは、心地よい火照り……


そしてキラも、言葉に甘い熱を込めて囁いた……


「ラクス…、身体の力を抜いて……ガッ!!」


瞬間、もの凄く鈍い音が部屋に響き渡った。


刹那、キラは白目を剥き、ひっくり返り、ベッドから転げ落ちた。


「あらあらまあまあ……」


この声に、ラクスはハッと我に返った。


今の今までラクスの視線を遮っていたキラの向こう側には……


「見事なまでに私の予想通りな事しちゃって……」


そこには完全に呆れ返った顔をしたカリダの姿があった。


右手には、何故かフライパン……


「ラクス……」


カリダは凹んでしまったフライパンを呆れきった顔で見ながら、溜息混じりで呟く。


「この子、ラクスの事に関しては本当にお馬鹿なんだから……」


「えっ……?」


「それにラクスも何流されてるのよ? そんな事だから、この子が余計に調子乗っちゃうのよ」


カリダはひっくり返る息子の足を持ち上げ、


「でもね、この子の言う事ももっともよ。だから、こういう格好する時はせめて何か羽織ってね」


「あ…、あの……」


「じゃないと、この子みたいに本当に襲われちゃうわよ」


そのままズルズルと息子を引きずり部屋を出て行った。











◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇











「はぁ……」


独り部屋に取り残されたラクスは、ぼぅと天を仰いだ。


「まさか、こんな事になってしまうなんて……」


元々、ラクスの水着姿をキラに見せる事はラクス自身が提案した事だった。


ところが、カリダがこれに難色を示した。


理由は、『あの子、絶対に間違うわよ……』との事。


ところがラクスには『間違う』という意味が全然理解できていなかった。


そして、実際にキラに自身の水着姿を見せて……


『間違い』の意味を理解できた訳である……


「本当、キラとカリダさんは……」


ラクスは苦笑を浮かべ、呟いた。

















「似たもの親子ですこと……」

























《あとがき》
8月なので水着ネタ。
もとい、某アニメ雑誌であんな水着姿を見せられちゃねぇ〜(笑)

ああ…、ええ感じで溶けとるな…、オレの脳みそ…(爆)
《そりゃ、体温より気温の方が高い日が連続で続いちゃねぇ…(えっ)》

日に日にキラがお馬鹿になっていってる気がするのは気のせい…?
ってかカリダさん、武力制裁発動ですよ!?(驚く事はそれか?)
本当、いい感じでぶっ壊れてます。はい♪

ちなみに2人のラクスへの共通見解はNGです。
理由は作中通り、悪い虫が寄ってたかって危険だから♪
もとい、あの水着姿見せられて「襲わない」という答えが出ない奴っているのか?(おい!)
《いや、それほどまでにラクスの水着姿はマジでヤバイ♪》

もしもラクスの水着姿を知らない人は、是非一度見る事をお勧めします♪
ってか、あれを本屋で立ち読みできた人は真の勇者だ……
《夜流田さん、さすがに立ち読み出来ず、ネットで探し当てました》(それもどうかと思うが…)




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