春風に乗って舞い散る桜吹雪。
そんな中を艶やかな黒髪をなびかせながら無邪気に走り回る妖精……
そんな愛娘の姿をラクスは大きな桜の木の下で穏やかな表情を浮かべながら愛でていると、
「おかあさま〜〜〜」
イヨは両手を包み込むようにしながら、パタパタとラクスの所へと駆け寄ってきた。
「見てください、ほら♪」
「あら? あらあら♪」
ラクスは愛娘の小さな手の中にあるものを見て、にっこりと微笑む。
「綺麗な花びらね♪」
「はい。これをおかあさまに…、あっ…!」
イヨが花びらをラクスに差し出そうとしたその時、春風が二人の間を駆け抜け、花びらは天高く舞い上がってしまった。
途端、イヨの顔はとても悲しいものに変わりそうになったが、
「それが桜なのよ」
ラクスは穏やかに微笑みながら、イヨの頭を優しく撫でた。
すると、
「えっ……?」
イヨの顔は悲しいものではなかったが、その顔は年端のいかない幼子には似つかない難しい顔をした。
「どういうことなのですか、おかあさま?」
「ふふっ、それはね……」
ラクスは愛娘の頭を撫でながら、ゆっくりと視線を空へと向ける。
桜舞い散る可憐な空へ。
「桜はね、生きる物全てに春を告げる……。綺麗な花を咲かせて、みんなに春が来た事を告げて、役目を終えると静かに散るのよ」
「寂しい…、ですね……」
「そうね、確かに寂しいわね。でもね……」
ラクスは視線をイヨに戻すと、イヨの頭の上に乗っていた花びらをそっと摘み、
「その一瞬の儚さに人は心を奪われ、春の到来を待ち焦がれるの。
そしてまた来年、みんなに春の訪れを知らせる為に綺麗な花を咲かせ、みんなもまた、桜が咲く時を待つのよ」
肌を撫でる風にそっと乗せ、静かにそれを眺めていると、
「よく…、わからないですが……」
イヨはラクスの傍にぴったりと寄り添い、ラクスの髪をいじり始めた。
「おかあさまは、ずっと春なのですね」
「えっ?」
不思議な事を言う娘に、ラクスは少々面を喰らったが、
「おかあさまの髪はまるで桜の様です。ですから、おかあさまの傍にいる人みんなは一年中、春が来た事を喜んでいる様です」
「あらあら」
「特におとうさまは、おかあさまと一緒の時は本当に幸せそうです。ちょうど、こういう感じです」
イヨはラクスの膝元を指差しながら、無邪気に言うと、
「あらあら、イヨったら♪」
ラクスはくすっと笑みを零し、自分の膝元を見た。
そこにはラクスの膝を枕にして、愛娘と同じ様に愛くるしさ一杯の寝顔をしたキラ。
ただ顔は中空を仰がず、うつ伏せで、ラクスの膝を抱え込むようにしながら静かな寝息を立てている。
「おとうさまにとっての桜は、おかあさまなのですね」
「イヨの言うとおりかもね♪」
ラクスはまんざらでもない表情を浮かべながら、手元に置いてあったグラス…、酒の入ったグラスを手に取ろうとした。
ところが……
「おかあさま、ダメですわ」
イヨはグラスを取ろうとするラクスの腕にしがみついた。
「おかあさま。飲みすぎは『めっ』ですわ」
「あらあら……♪」
ラクスは一瞬だけ邪険な表情を浮かべてしまったが、すぐに穏やかな笑顔に戻し、
「イヨは厳しいですわね」
グラスから手を離し、今度はキラの頭を撫で始めた。
「イヨが言うのでしたら仕方ありませんわね」
「そうですわ。おかあさま」
イヨは満足そうに笑うと、ころりと身体を横にし、僅かに空いているラクスの膝の上に頭を乗せた。
『本当、出来た娘ですわ』
ラクスはもう片方の手でイヨの頭を撫でながら、ゆっくりと空を見上げた。
桜は春風に乗って静かに舞う。
桜の木の下に集った、純真な親子を見守る様に……
《あとがき》
4月は桜の季節。親子揃っての花見です。
3月はキラメインだったので、4月はラクスメインでいきましたw
桜の持つ魅力と儚さ。
これを理解するにはイヨはまだまだ幼いですが、近い将来きっと桜の持つ粋を分かるでしょうね。
といいつつ、夜流田さんも完全には桜の粋を理解できてませんが…w
《桜の持つ意味は人それぞれ、完全に分かっている人は悟りの境地です》
蛇足ながらキラが寝てるのは既にラクスに潰された為♪
だから、イヨはラクスを止めたのでありますw(爆)
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