《月間キララク08年の設定になっています》


《また、先に【Brothre】をお読みになる事をお勧めします》










「おばあさま」


「どうしたの、イヨ?」


カリダは孫娘の呼びかけに、しっかりと笑顔で孫娘の顔を見据えながら答える。


「そんなに心配な顔をして?」


「申し訳ございません…、ですが、おばあさま……」


イヨは何かに怯えた様子でカリダに訴える。


「おかあさまをそのままにしてよろしいのでしょうか……」


「どうして?」


「今日のおかあさま、様子が変なのです……」


イヨは不安の表情を浮かべたまま続けた。


「おとうさまがカガリ叔母さまと一緒に出かけてから、ずっと不機嫌な様子で……」


「どうしてそう思ったの?」


カリダはイヨの不安を和らげようとイヨの頭を撫でながら訊ねる。


「イヨは何も悪いこと、していないのでしょ」


「もちろんです。ですが、おとうさまが出かけてから、おかあさまはずっと不機嫌でした。それに……」


イヨは心配そうに、自宅が見える窓の外を見る。


「先程、ヒルダおばさまがアスランおじさまを家に引っ張り込むところを目撃しました」


「あら…、あらあらまあま……」


「またアスランおじさまが、カガリ叔母さまとケンカしたから、おかあさまがお怒りになって……」


「気にしなくていいのよ、イヨ」


カリダは懸命に孫娘の不安を拭おうと、優しい笑顔を浮かべながら頭を撫でる。


「お母さんの機嫌が悪いのは今日だけだから」


「本当…、ですか……?」


「ええ、本当よ」


カリダはイヨを抱え上げ、包み込むようにイヨを抱きしめた。


「だから今日はおばあちゃんにたっぷり甘えてね。おばあちゃん、そんなに暗いイヨの顔、見たくないわ」


「………、はい」


イヨは無理に笑いながらも、ぎゅっとカリダにしがみついた。


『あらあらまあまあ……』


カリダも自分の不安を孫娘に悟られないように笑顔を浮かべたが、心中は孫娘同様に穏やかではなかった。


『本当、今日だけよ…、ラクス……』


カリダはイヨを抱きかかえながら、寝室へと向かった……

















その頃―――












「あの…、ラクス……」


「………、何ですの?」


「いや…、何も……」


アスランは視線をあさっての方へ向けながら、心の中で溜息を吐いた。


『どうして俺がこんな目に遭っているんだ……』


アスランは冷静に今の状況を…、どうしてこの場に居合わせってしまったのかを振り返る……


今日はカガリの誕生日。


アスランはカガリに気づかれない様にこの日を迎える準備をし、カガリと一緒に過ごす事を信じて疑わなかった。


ところが、早朝に早々とカガリは外出……


行き先を聞けば、それはキラの家……


それを聞いたアスランは号泣したい衝動を懸命に堪えながら、立てていた予定の全てをキャンセル……


それからはオーブ官邸に間借りしている自室に引きこもり、独り寂しく新しいハロの製作に取り込んでいた。


ところが陽がすっかり西に傾いた頃……


『ラクス様がお呼びだ! グズグズせずについてきなっ!!』


っと、現在、オーブ軍で新兵の教育・育成に努める鬼軍曹こと…、ヒルダ・ハーケンに拉致られた……


拉致られた場所はマルキオ邸…、もとい現在はキラとラクスの家……


アスランを出迎えたのは、不機嫌極まりないラクス……


そう…、鉄壁の鈍さを誇るアスランでさえ分かるほど不機嫌なラクスがアスランを出迎えたのだ……


ラクスの呼び出しの時点で、アスランに拒否権などない。


いや、不機嫌極まりない状態のラクス相手に拒否権を発動できる人間などこの世に存在などしない。


例え、それがキラであっても……











『キラと喧嘩でもしたのか……』


アスランは悟られない様にラクスの様子を伺う。


アスランが到着するなりラクスは浴びるように酒を飲みだし、テーブルの上は空になった酒瓶で埋め尽くされている。


にも関わらず、ラクスの顔には酔っている様子は一切見受けられない。


唯一、普段と違っているのは瞳……


ラクスの瞳に色はなく、完全に瞳が据わっている。


その据わった瞳の矛先は言うまでもなくアスラン……


「本当、嫌になりますわ……」


ラクスはグラスを叩きつける様にテーブルの上に置くと、据わった瞳を鋭くさせた。


「どうしてわたくしが、こんな気分にならなくてはいけないのですか……っ!」


『そんな事、知るか!!』とアスランは言いたい。


しかし言えば、さらなる地獄が待っている。


だからアスランは沈黙を守る……


「今日はキラの誕生日だというのに、どうしてアスランと一緒に……」


「ちょっと待て、ラクス」


このぼやきには、さすがのアスランも真っ向から異を唱えた。


「一体、誰が俺を拉致させた?」


「わたくしですが、それが何か???」


ラクスは全く悪びれた様子もなく吐き捨てる。


「どうせ、独り寂しく部屋に引きこもっていたのでしょ? そんな貴方を思ってわたくしが招待したのですわ。
感謝されることはございましても、文句を言われる筋合いなのございませんわ!」


「言っていることが滅茶苦茶じゃないか!!」


「何か…、文句ありますの……っ!?」


ラクスはギロッとアスランを睨み付けると、アスランは一瞬にして沈黙した……


そんなアスランを確認しながらか、ラクスは乱暴にグラスに酒を注ぎ、煽る様に飲み干し、愚痴り始める。


「わたくしも今日がお二人にとって特別な日である事は理解していますわ。
ですが、同時にわたくしにとっても特別な日ですわ。それなのに、カガリさんはキラを強引に引っ張り出して……」


『何が言いたいんだ……』


アスランにはラクスの言葉の意味が全く分からない。


すると、そんなアスランを理解させるようにラクスの愚痴はエスカレートしていく。


『確かにカガリさんにとってキラは唯一の肉親であり、可愛い弟ですわ……。ですが、わたくしにとってキラはわたくしの全てですわ……。それなのにカガリさんは……』


「まさか…、ラクス……」


思わず、アスランは思った事をそのまま口に出してしまう。


「カガリに…、妬いているのか……?」


バリィィィィィンっっ!!!


その瞬間、何かが砕け散る音がした。


グラスでも、空になった瓶の音でもない……


そう…、二人を包み込む空気の音が砕け散ったのだ……っ!!


「ええ、そうですわっっ!!!」


ラクスは声を荒げ、再び空になったグラスをテーブルに叩き付け、あろうことか酒の入ったボトルを持ち、それを飲み始めたのだ。


「お…、おい、ラクス!?」


「黙りなさい!!」


諌めるアスランにラクスは一喝し、感情のままに湧き上がる言葉をそのままぶちまける。


「貴方がいつまで経ってもグズグズしているから、わたくしがこんな思いをするのですわ!
それにカリダお義母さまも申していましたわ。『もういい加減、カガリの孫は諦めた方がいいのかしら……』って!!」


この言葉にアスランの肩身は一気に狭くなる……


ところが、次に発せられたラクスの言葉はとても穏やかな物に変わっていた。


不気味なぐらい穏やかな物に……


「ですが…、カガリさんがキラのお姉さまである事に関しましては心から神に感謝しますわ……」


『えっ……???』


「もしもカガリさんがキラと血が繋がっていない…、他人同士でしたら間違いなくカガリさんにキラを取られていましたわ……」


この言葉に、アスランの胸にチクリと痛みが走る……


「カガリさんは本当に聡明で、魅力に溢れた女性ですわ……。到底、わたくしでは敵いませんわ……」


『確かに……』


アスランも心底思う。


もしもキラがカガリの弟でなければ、早々にカガリを奪われていた筈……


確信はある。


あの二度の戦争の中、キラとカガリは姉弟以上の絆で結ばれていた。


しかも、自分は未熟極まりない姿ばかりをカガリに晒してしまった……


血が繋がっていなければカガリは自分を見限り、キラと一緒になっていたに違いない……


それほどまでに二人の絆は強く、誰も切ることは出来ないもの……


自分では、キラに到底……


「冗談じゃない!!!」


アスランは腹の底から叫んだ。


「カガリは俺のものだ! キラにも…、誰にも渡しなんかしない!!」


「良く言いましたわ!」


ラクスはボトルを力強く置き、凛とした声で言い放った。


「でしたら、明日にでもカガリさんにプロポーズするのです。善は急げと申しますわ!!」


「えっ……???」


途端に、アスランの顔色が白くなっていく……


「あ…、あの…、それは心の準備というものが……」


「アスランっっっ!!!」


バンッ!!


ラクスは右手を思いきりテーブルの上に叩きつけた。


「どうして貴方という人間は、土壇場になって逃げるのですか!?」


「ラクス、声が大きすぎる。イヨちゃんが目を覚ますだろ」


「ご心配なく。イヨはちゃんとお義母さまに預けていますわ…、って……!?」


今度は左手をテーブルの上に叩きつけた。


「なに貴方風情が、わたくしの娘を『イヨちゃん』などと呼ぶのです! 馴れ馴れしいにも程がありますわ!!」


「ちょ…、ちょっとラクス……」


「いい機会ですわ。今日は思う存分言わさせてもらいますわ!!!」











それからも延々と、ラクスの愚痴は続いた……


いつ終わったのか…、それは分からない……











いや……











記憶にすら残っていないのかも知れない……

























《あとがき》
カガキラ誕生日小説【Brother】と対を成すお話【jealousy storm】
カガキラの誕生日を、別の視点で描いたお話です。
っと、言いながら、物凄いことになってしまっていますが…(滝汗)

以前、キラがヤキモチを妬く話を書いたのですが、
『ラクスがヤキモチを妬く事ってあるのかな?』っと思い、考えたのがこの話。

夜流田さんから見てラクスとカガリは、某監督の名言を借りて一言で言うならば【向日葵と月見草】
なので、ラクスがカガリに嫉妬心を抱いても、全然おかしくないと思ったりしたり…

でも、まあ…、ラクスの荒みっぷりは…、純真なラクススキーの方には申し訳ないばかりで…(滝汗)
それでも人間、荒れる時はこれぐらい荒れますよ…、いや本当に…(爆)
それにラクスの場合、基本的に感情をあらわにする事がないので、たまにはこれぐらい荒れてもいいでしょw(えっ)

っで、問題の凸さん。
多かれ少なかれ、ラクスが荒れる原因を作っているのはこいつにあるので、当然の事ながら標的にw
それに、荒れている人間を相手している時は最後まで黙秘権を貫く事。
中途半端に言葉を返せば、エンドレスで愚痴が続きますよ〜w

おっと、今を思えば、この話が初のアスラク話じゃないか♪
アスラク、今でも根強い人気あるからなぁ〜
でも、夜流田さんが書くと、まあこうなる。もはやデフォルトだなw(反省なしw)




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