「フェイズスリー 融除剤ジェル展開」


「エターナル 大気圏突入します」


その言葉が艦内に流れると同時に、ラクスはシートに身体を預けた。


肉体は既に憔悴しきっている。


けれど、心は疲弊感以上の安らぎに満ち溢れている。


『キラ……』


あの時、ラクスは死を覚悟した。


しかし、死ぬ事は怖くなかった。


天命尽きた時、人は死ぬ。


問題はそれまでに何をなせるか?


何をなさねばならぬか?


それは、キラに新たな剣を授けること。


キラならば、必ずや正しき道を選びその為に剣を振るってくれる。


それで十分…、そう思った……


『わたくしは……』


しかしキラが現れた瞬間、それは思い込みだと気づいた。


自分よがりの思い込みだった……


「ラクス様」


ダコスタの声に、ラクスはふっと現実に引き戻された。


「ダコスタ様…、いかがなされましたか?」


ラクスは姿勢を正し、凛とした態度を示した。


「本艦は無事に降下軌道に入りました。追っ手のレーダー反応もありません」


「そうですか」


「ですので、後の事は我々が行います。ラクス様はお休みください」


「えっ……?」


ダコスタの言葉にラクスは一瞬虚を突かれた。


ラクスはエターナルの艦長。


いくら安全が確保されたとは言え、状況が収束していないのに休める筈がない。


しかも、それを言ったのはダコスタ。


なにしろ、ダコスタは自由奔放な隊長の補佐で散々振り回されている。


気遣いとは言え、規律・管理に厳しい彼が言ったのが不思議でならない。


「早く、キラ君のところへ行ってください」


「で、ですが……」


「行ってくれませんと、僕が困ります」


ダコスタは苦笑を浮かべ、軽くおどけた。


「ラクス様がここにおられますと、後で隊長にどやされます」


「………」


「後の事は我々にお任せを」


ラクスは頬を赤らめ、言葉を押しとどめてしまった。


だが、現状を見ればもう安全圏内。


しかも少々おせっかいではあるが、この申し出はラクスにとって最高のものであるのは事実だ。


「分かりました」


ラクスは柔らかに微笑み、ダコスタに一礼した。


「お言葉に甘えさせていただきます」


「了解」


ダコスタも一礼し、その後すぐに計器に目を向けた。


『ありがとうございます……』


ラクスはもう一度ダコスタに一礼し、そして残りの隊員全員に感謝の言葉を述べ、司令室を後にした。











◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆








「しかし、何だな〜」


エターナルに戻ったバルトフェルドは、共に戻ったキラにぼやいた。


「とことん俺は死神に嫌われてるようだ」


「バルトフェルドさん……」


「そう怖い顔をするな」


バルトフェルドはわざとらしくポンポンと自分の肩を叩いた。


「いくら俺でもMS25機相手は無理だ。それでも、まあもらった命だ。別にくたばっても問題はないと思った」


「………」


「だがお前を見た途端、くたばる気がしなくなった」


バルトフェルドはにかっと笑い、キラの頭をもみくしゃにした。


「本当、不思議な奴だよお前は♪」


「バ、バルトフェルドさん」


「っと、じゃれあいはここまでだ」


バルトフェルドはキラから離れたと思えば、早足でキラから離れていった。


予測不能なバルトフェルドにキラは少し唖然としたが、すぐに呼び止めた。


「バルトフェルドさん、報告することが!」


「あ〜〜? そんなのは後回しだ」


バルトフェルドは振り返らず、ぶっきらぼうに言った。


「お前には、まだやらなきゃならない事があるだろ?」


「えっ……?」


「じゃあな」


「ちょ、ちょっとバルトフェルドさ……」


キラの呼びかけに答えることなく、バルトフェルドはどこかへと消えてしまった。


『行っちゃった……』


キラは呆然とその場に立ちつくした。


『やらなきゃならない事って言われても……』


キラには皆目検討もつかなかった。


新しい機体のデータ整理はアークエンジェルに戻った方が効率が良いし、なによりマードックへの整備説明もある。


ストライクルージュのデータ書き換えもカガリが近くにいないといけない。


『今、何かしなくちゃいけない事って後は……』


確かにある。


しかし、それをここでしていい事か?


いや、ダメだ。


アークエンジェルに戻ってからならまだしも、エターナルではダメだ。


なにしろエターナルは……


「キラ……」


「うわっ!」


キラは不意に聞こえた声に過剰な反応をしてしまった。


その声は…、ラクスの声だったから……


「ラ、ラクス……?」


「はい」


ラクスはキラの正面に立ち、にっこりと微笑んだ。


『ああ……』


キラは自然な態度を装ったが、心中は激しく揺れていた。


『ラクス……』


離れ離れになってどれくらいの月日が流れたのだろう……


今どうしているのか? 無事に過ごしているのか?


一日も、一時さえもラクスの事は忘れた事はなかった。


そして、今ラクスはキラの目の前にいる。


腕を差し出せば、すぐにでも抱きしめられる距離に……


「……ラクスっ!」


「……キラっ!」


気づいたときには抱きしめていた。


頬と頬がこすれ、鼻と鼻が触った。


そして、どちらかでもなく唇を重ねていた。


唇から伝わる体温を互いに確かめ合うように深く、深く……


「ラクス…、会いたかった……」


「わたくしも…、です……」


唇が同時に離れ、言葉も同時に紡いだ。


「キラ……っ!」


しかし、ラクスはそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。


ぎゅっとキラを抱きしめ、キラの胸に顔を埋めて泣いた……


はばかることなく、大声で泣いた……


「ラクス……」


キラはそっとラクスの髪に指を絡め、もう片方の手で優しくラクスの肩を撫でた。


「大丈夫だよ」


キラは赤ん坊をあやすように、それでいて愛しく背中をさすった。


「大丈夫、大丈夫だから」


キラはラクスに、自分に言い聞かせた。


「ボクはここにいるから」











『そうですわ…、キラは今……』


ラクスは全てをキラに委ね、何度も何度も自分に言い聞かせた。


キラはここにいる……


キラはわたくしを受け止めてくれている……


キラはわたくしの為に……


『今だけは……』


目の前にある、非情なる現実。


それでも今だけはお許しください……


この温もりを……


戦う力を……


心を……


キラから……


わたくしだけのキラから……


お与えください……
































《あとがき》
39話終了後を妄想

ゴメン、今回はマジでうるっと来た…
ダ、ダメだな…。最近、めっきり涙もろくなったよ…
本当、無事に再会できてよかったよ…

HPに来てくださる皆様へ。
「あのWEB拍手の量は何なんっすか!?」
《1時間で26って…、見たとき、マジでビビりました(汗)》

そんなに期待してくださってるんですか!?
私、まだ夏コミ原稿終わってないんっすYO!(笑)
しかし! 私は皆様の応援に応えます!
例え、それが修羅場中であっても!
夜流田鉄漫とはそういう漢でございます!

今回は皆様と共にこの感動を分かち合えれば何もいう事はございません!
ありがとう皆様! ありがとうサン○イズ!
ありがとうキララク!!
《本当、無事に再会できて良かったよ》

あっ! まだ書かなくちゃいけないことがあった。
この話はまだ続きがございます。
ですが、続きはどうなるかはヒ・ミ・ツ♪
《これで、どこにどんな話になるかはお分かりでしょ(笑)》


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