『ここは……』
全く知らない場所だった。
そして、見知らぬ人がわたしの傍にいた。
「あっ、無理しないで」
茶色の、外跳ねの髪の女性が優しく微笑みかけている。
「こ、ここは……」
「アークエンジェルよ」
アークエンジェル……?
えっ!?
ど、どうして敵艦にわたしが!?
あっ!
アスランは!? アスランは何処に!?
「心配しないで。アスランも無事よ」
女性はにっこり微笑み、わたしの額に手を当てた。
「まだ熱っぽいわね……。当分、安静ね」
「わ、わたし……」
「メイリン・ホークさん。でしょ?」
えっ……!
どうしてわたしの名前を……
「ドックダグ、見させてもらったわ」
女性はそう言うと近くに置いてあった椅子に座り、穏やかに微笑んだ。
「あたしはミリアリア・ハウ。アークエンジェルのCICよ」
CIC…、という事は、この人もわたしと同じ艦隊の船員……
「っで、聞きたいことがあるんだけど」
女性…、ミリアリアという人は静かに話しかけてきた。
だけど、わたしは今までに味わったことのない恐怖を感じた。
そう…、今わたしは捕虜……
いくら条約があるとは言っても、過度の尋問……
いや拷問がまかり通っている……
「あっ、大丈夫だから」
わたしの異変に気づいたのか、ミリアリアさんは大きく両手を振った。
「拷問なんてしないわ」
「う、うそ……っ!」
「ホントよ。そもそもアークエンジェルは軍属艦じゃないから」
ミリアリアさんはわたしの頭を優しく撫でた。
「この艦に、あなたを傷つけるような真似をする奴はいないから」
「………」
「いたら、あたしがぶっとばすから」
ミリアリアさんは言葉とは逆に、優しく微笑んだ。
『この人、本当に……』
この人の言葉、本当に信じて……
ううん。信じられる。
この人は、本当に親身になってわたしを見てくれている。
軍属の人間としてではなく、一人の人間として見てくれている。
「お聞きになりたい事は……?」
わたしはミリアリアさんの質問に答える事を決心した。
この人は誠意を持って接してくれている。
だったら、その誠意に応えないといけない。
「そんなに気を張らないで。軍関係の事じゃないから」
「えっ……? じゃあ、何を……」
「アスラン・ザラの事よ」
………
答え…、たくない……
アスランの事を聞かれるぐらいなら、まだ軍の事を聞かれたほうが……
「その様子だと……」
ミリアリアさんは大きく溜息を吐いた。
「アスランの事は、知っているみたいね」
「……少しだけでしたら」
「ホント女難って言うか、優柔不断って言うか……」
ミリアリアさんは呆れきった顔で呟いた。
「でも、それがアスランの長所かもね」
「あの…、アスランはどこに……?」
「こことは別の医務室。カガリも一緒よ」
カガリ……
あっ……
そう…、だった……
アスランの思い人、その人の名前はカガリ……
カガリ・ユラ・アスハ……
「ありがとう。もういいわ」
何故かミリアリアさんは話を打ち切り、立ち上がった。
「ま、待ってください……」
わたしは思わずミリアリアさんを呼び止めてしまった。
「聞きたいことがあった筈では……」
「もういいわ。あなたの態度で分かったから」
「それは…、どういう意味……」
「また今度ね」
ミリアリアさんはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。
『何だったの……』
一人ぼっちの部屋。
先ほどまでの穏やかな空気は、もう何処にもない……
『本当だったんだ……』
不意に空しさが…、悲しさが襲ってきた……
アスランには好きな人がいる。
そしてアスランを心から思う人がいる。
わたしが付け入る隙なんて…、どこにもない……
『ダメ…、よね……』
涙が出てきた。
どうしてなんだろう……
思いが届かないって分かったから?
それとも、今ある状況に?
『でも…、あの人は……』
先ほどの女性…、ミリアリア・ハウさん……
とても堂々と、それでいて優しさに溢れた女性だった。
でも、それなのにどこか寂しそうだった。
どうしてなんだろう?
それに、あの人が持つ雰囲気。
お姉ちゃんと同い年ぐらいなのに、とても重く深かった……
どうしてなんだろう……
《あとがき》
39話を妄想
話としましては【目覚めし騎士】を踏まえてになります。
作中では全く触れたませんが、勝手にアスランとメイリンの関係に終止符を打ちました。
っで、問題は今後のメイリン。
今の状況では、確実に壊れてしまいます。
そんなメイリンを助け、支えてくれるのがミリアリアだと思います(あくまで個人的意見)
それにミリィとメイリン。案外、気が合うかもかも?
ちなみに、この話はまだ続きます。
内容は作中の動向次第ではありますが、あと2〜3話程度で。
っで、終わらせるにはあの男の合流が不可欠です!
そう! あのヘタレ大王です!(笑)
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