『……んっ?』


射撃場の近くを通ると、銃声が聞こえてきた。


だが、時間はもう遅い。


『一体誰が?』


俺は射撃場のドアを開け中に入った。


するとそこには思いがけない奴が…、キラがいた。


『キラが…、射撃……?』


キラは耳当てをし、一心不乱に銃を撃っている。


どうやら、俺の存在には全く気づいていないようだ。


『だが、キラは確か……』


以前、カガリから聞いたことがある。


キラは銃器の一切を扱えないと。


また先の大戦、ロアノーク一佐ことフラガ少佐がメンデルで負傷した際も、


「坊主が、まさか銃が使えないってのは……」


と俺にぼやいた。


しかし、今はどうだ?


キラは的確に、確実に標的に銃弾を当てている。


もっとも、通常の射撃のように急所ではない。


戦闘能力を確実に奪い、すぐに戦闘放棄し治療すれば絶命は逃れる場所に撃っている。


付け加えるならば、意図的に急所を外して撃つのは普通に撃つよりも格段に難しい。


『誰がキラに銃器の手ほどきを……っ!?』


そう思った時だった。


キラが俺の存在に気づき、ゆっくりと振り返った。


「アスラン? こんな時間に何やってるの?」


「それは俺の台詞だ」


俺は軽く息を吐き、キラの隣の射撃場所に立った。


「おまえ、銃を扱えるようになったんだな」


「うん……」


キラは銃を置き、ぼんやりと的の向こう側を見つめた。


「マリューさんに教えてもらった。ラクスが襲われた後にね……」


「そう…、か……」


「ボク…、もう寝るね……」


キラはくるりと背を向け、射撃場から出ようとした。


「ちょっと待て」


俺は自分の銃を抜き、的に狙いを定めながら伝え、


「おまえの銃はラクスを護る為だけに使え……」


「ア、アスラン……?」


「それだけだ……」


引き金に指をかけ、撃った。


キラとは違い、急所に確実に……


「分かった……。ありがとう、アスラン……」


キラはそう言い残し、射撃場を後にした。


それでも俺は撃ちつづけた。


弾がなくなってもすぐに補充し、撃ちつづけた。


急所部分が完全になくなるまでずっと……


『カガリ……』


アークエンジェルに落ち延びてからずっと思う。


俺はカガリの為だけに力を振るえたのだろうか?


少なくともキラはラクスの為だけに力を使ってきた。


そして、これからもラクスの為だけに力を使うだろう。


『今度こそは……』


俺も誓おう。


絶対に皆で君の元へ帰ると。


そして今度こそ、この力を君だけの為に……


君の望む世界を作る為だけに……








◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆








偶然…、というには余りにも出来すぎている。


射撃場を出ると、そこにラクスがいた。


「キラ、ご苦労様ですわ」


ラクスは優しくボクに微笑みかけてくれる。


だけど、ボクは微笑み返す事なんて出来ない。


ボクは今の今まで、人を殺める技術を磨いていたんだ。


ラクスを護る為とは言っても、それが事実だ。


「どうか…、されましたか?」


ラクスは不安そうな顔で話しかけ、そっとボクの手を握ろうとした。


だけど、ボクはラクスの手を払った。


今のボクの手は硝煙で汚れきっている。


そんな手で、ラクスに触れるなんて出来ない……


「ごめん……」


ボクはラクスから離れようとした。


刹那、ラクスはギッとボクを睨みつけ、


「キラ……っ!」


強引にボクの手を握り締め、そのままボクを引き寄せた。


「どうしてあなたはいつも自分だけで全てを抱え込もうとするのですか!」


「な、何を言い出すの……?」


「とぼけないでください!」


ラクスは握り締めるボクの手を乱暴にボクの目の高さへ上げた。


「でしたら、どうしてその手を隠したのですか!?」


「そ、それは……」


「その手が穢れていると思うのでしたら……っ!」


ラクスは両手で包み込むようにボクの手を握った。


「わたくしの元へ来てください……」


「ラ…クス……?」


「わたくしにもっと…、ぶつけてください……」


ラクスはボクの手を握りしめたまま、瞳をボクに向けてくれる。


一点の曇りもない、澄み切った優しい瞳で……


「ありがとう、ラクス……」


ボクはそっとラクスの手を離し、身体をラクスに預けた。


「気を…、張り詰めすぎてたみたい……」


「本当…、ですわ……」


ラクスは背中に腕を回し、ポンポンと優しくボクの背中をたたいてくれた。


「キラは、わたくしが護りますわ……」


そうだ……


穢れればラクスの元へ帰ればいいんだ……


どれだけ穢れようとも……


ラクスはボクを受け止めてくれるから……











《あとがき》
46話(前ぐらい?)を妄想

キラ、銃が扱えるようになっているのにちょっと驚き。
ラクスとメイリンが仲良さそうで嬉しい&萌え(笑)
アスラン、いい加減にサングラスが似合っていないことに気づけよ(えっ)

話としましては、キラが銃器を扱えるようになった事をもとに考えました。
でもって、そこからアスランとラクスの決意表明と言う形に。
ですが、流石に話が大詰めなので書くのが難しい……

ラストまであと一ヶ月、TV見るのに胃薬が手放せません……(汗)
頼むから生き残って、オレの好きなキャラ全員!


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