「一体どうしてこんな事に……」
メイリンはしっかりパイロットシートに身体を預け、アスランに聞いた。
「FAITHである貴方が……」
「FAITH…、か……」
アスランは渇ききった笑みを浮かべ、呟いた。
「とんだ鎖…さ……」
「鎖……?」
「俺を縛りつけようと…、いや……」
アスランは襟元のバッチ、FAITHの証を引き剥がし、
「縛られていたよ、今の今までな……」
「アスランさん……」
「本当、馬鹿野郎だよ……っ!」
アスランはFAITHの証を乱暴に床に叩きつけた。
「カガリ……」
メイリンはアスランの言葉に困惑と混乱を覚えた。
どうしてオーブ主席だった人物の名が出るのだ?
それも『アスハ』ではなく、名前である『カガリ』と?
どうして、婚約者である『ラクス』ではないのだと?
「どうして、君は……」
錯綜する脳裏にふと、アスランの言葉が聞こえてきた。
「君は俺を助けた……」
「えっ……?」
「巻き込んだ人間が言えた義理じゃないことは分かっている。だが、どうして君は俺を……」
「それは……」
メイリンはそっと、アスランの肩に手を置いた。
「貴方の事が…、好きだから……」
「えっ!?」
「ミーハーなのは自分でも分かっています。それでも私は貴方の事が……」
「済まない……」
アスランはコックピットから見える漆黒の闇を見据えたまま言った。
「君の気持ちには応えられない……」
「そう…、ですよね……」
メイリンは辛そうに言葉を繋げた。
「貴方にはラクス・クラインという素敵な人が……」
「違うよ……」
メイリンの言葉に、アスランは自虐な笑みを浮かべた。
「俺が身命を尽くす女性はラクスじゃない……」
「えっ! でも、ラクス様は貴方の婚約者の筈では……」
「ラクスとは、とうの昔に婚約解消さ」
アスランはまるで他人事のように言い捨てた。
と同時に、自虐的に見えた笑みが変わった。
とは言ってもアスランは笑っている。
言うなればさっぱりした感じの…、そんな笑みだった。
「い、一体…、何がどうなって???」
メイリンの頭の中は完全にこんがらがってしまった。
ラクスとの婚約が解消しているなら、あのラクスは一体何なのだ?
ただ単に、議長と共に行動しているだけ?
それとも、昔のよりを戻そうとしていたのか?
そんな彼女の疑問に答えるように、アスランは告げた。
「あのラクスは偽者だ」
「に、偽者っ!?」
「ああ。議長のプロパガンタだ」
アスランは依然として漆黒の闇だけを見つめている。
しかし、その言葉は明らかに偽者だと言ったラクスに向けられていた。
「役割を果たす……。だけど、それは人から与えられただけの物なのに……」
「そ、それでしたら!?」
メイリンは不適切と思いながらも、抱いた疑問をアスランにぶつけた。
「本物のラクス様は一体どこに?」
「アークエンジェルさ」
アスランは淡々と告げた。次の言葉も。
「今はきっと、キラの傍に片時も離れずにいるだろう」
「キ…、キラって……」
「ああ。『ヤキンのフリーダム』のパイロットさ」
淡々と言葉を続けるアスラン。
だが、この言葉だけは淡々には言えなかった。
「無事…、ならばの話だけどな……」
「………」
「そして、アークエンジェルにはカガリがいる……」
『えっ……?』
メイリンは再び思考を停止させてしまった。
まただ。
また彼は『カガリ』と言った。
ま、まさか……
彼が愛する女性と言うのは、まさか……
「カガリ…、済まない……」
アスランはポツリと呟いた。
「俺は君の言葉をちゃんと聞いてやれなかった……」
ゆっくりとうなだれるアスランの頭。
そして、ポト…、ポトと……、彼の膝元に零れ落ちる雫……
「許してくれなんて…、言わない……」
アスランはうめく様に言葉を吐き出し続けた。
「それでもこの命…、君の為に使わせて…く…れ……」
『アスランさん……』
メイリンは次々と知る事実の重さ以上に、アスランの涙が辛かった。
今まで、アスランは誰にも知りえない苦しみを味わい続けていた。
愛する人と討ち合い、傷つけあう……
そんな不条理が許されるのか?
いくら戦争だからって…、そんな事が……
「大丈夫です、アスランさん」
メイリンは今にも溢れそうな涙を堪え、明るく言った。
「まだ、全てが終わった訳ではありません」
「メイ…リン……?」
「貴方の思い、きっと届きます」
「ありがとうメイリン……」
アスランはメイリンを見据え、そっと頭を下げた。
だが、次の瞬間には元に戻っていた。
いや、メイリンの知らないアスランの顔になっていた。
戦う男の顔に。
「先に言っておく。追っ手は間違いなくレイとシンだ」
「えっ!? 追っ手って……」
「あの奸智に長けた議長だ。このまま野放しにする筈がない」
「そ、そんな……」
ようやく気づいた絶望的な状況にメイリンは恐怖を感じた。
「心配するなって言うには無理があるけど」
ところが、アスランはそんなメイリンに笑いかけた。
「なんとか、切り抜けてみせるさ!」
「ア、アスランさん……」
「来たな……」
アスランは警報音がなる計器に目をやった。
後方から迫ってくる熱源二つ。
機体はおそらくデスティニーとレジェント。
間違いなくグフでは太刀打ちできないだろう。
しかし、そんな事など関係ない。
「キラが『ヤキンのフリーダム』なら……」
アスランは自らを奮い立たせるように、そしてメイリンを勇気づけるように叫んだ。
「俺は『ヤキンのジャスティス』だっ!!」
《あとがき》
36話から
久しぶりに燃えました!!(萌えにあらず)
ア、アスラン…。やっぱり君はやれば出来る子だったんだね(感涙)
巷では「ヘタレ極まりない脱走」と囁かれてたけど、今回の話はマジで震えたYO!
ミーアとメイリンを助けようとしたのも、自分を助けようとする者の為ですね。
そして、思いは届かないと分かっていてもアスランについていく事を決めたメイリン。
今までフレイの亡霊、軽い子だと思ってて本当にごめんなさい!
ちゃんと筋の通った強い女の子だね。ってか…
メイリン株、ただいま高騰中でございます!!(笑)
問題は送り狼と野犬か…
てめぇ等! 絶対に堕とすんじゃねぇぞ!!
堕としたら、絶対に許さねぇからな!!!
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