ラクスは格納庫奥にある営庫の扉の前にいた。


そこにキラがいると、マードックが教えてくれたからだ。


『キラ……』


ラクスは複雑な気分だった。


間違いなくキラは、あの映像に怒りを覚えている。


それは、被害者である自分にとっては嬉しい。


自分の真似をされた事を怒ってくれているのだから。


しかし、逆に怖くもある。


全員が口をそろえて、激昂した時のキラは尋常ではないと言っていた。


ラクスはそんなキラを一度も見たことがない。


ラクスが知っているキラは少し泣き虫だけど、自分に厳しく、他の誰よりも優しくて繊細な人。


我を忘れるほど怒り狂うなど、到底想像がつかない。


『皆さまの思い過ごしですわ……』


ラクスはそう自分に言い聞かせ、ドアに手をかけた。


ところがドアは鍵がかかっていて開けることが出来ない。


「ピンクちゃん、お願い」


ラクスはすぐさまピンクちゃんを電子ロックキーの側に近づけると、


《テヤンデイ!》


微かにカチッと音がした。


「ありがと、ピンクちゃん」


ラクスはピンクちゃんを床に置き、ゆっくりとした足取りで中に入った。


ピンクちゃんを置いたいったのは、キラとゆっくり話がしたい為。


ラクス自身、アークエンジェルに乗り込んでからというものキラと二人きりで話をする時間があまりなかった。


そういう意味では、ラクスにとって絶好の機会でもあった。










「キラどこですか?」


ラクスは辺りを見渡したが、中は真っ暗でよく見えない。


マードックの聞いた話では、ここにはあまり物が置いていないとの事だった。


ところが、それにしては歩きにくい。相当、物が散乱しているからだ。


ラクスは躓かないように、注意深く歩いた。


「キラ、いたら返事してください」


しかし、返事は返ってこない。


それでも、ラクスはキラの気配をしっかりと感じ取っていた。


「皆さま心配していますわ。ですから……!?」


ようやく暗闇に目が慣れたその時だった。


片隅に置かれた箱の上に腰掛け、うなだれているキラの姿が確認できた。


だが、ラクスはキラに近づくことが出来なかった。


キラの全身から滲み出ている雰囲気。


それはラクスが初めて感じる雰囲気……


憤怒・殺気。そう言えば簡潔だろうが、到底それだけでは言い表せない雰囲気。


ただ、『誰も近づくな!』。それだけははっきりと理解できた。


「キラ……」


ラクスはその場からキラに話しかけた。


「………」


キラは顔こそ上げたが、言葉は返さなかった。


「あの方も、何か深い事情があってやっているのでしょう」


ラクスはキラの怒りの原因を解こうと試みた。


「確かに最初は少し腹立たしく思いましたが、あの場所にいるのはわたくしではありません。それに、わたくしのすぐ傍にはキラがいます」


「優しいんだね、ラクスは……」


小さなキラの声がラクスの耳に届いた。


瞬間、ラクスは全身の血液が凍った様な感覚を感じた。


キラの声……、それはまるで地の底からうめく様な声だった。


「でも、ボクは全然納得いかないんだ……」


ラクスの前の人影がスッと動いた。


と思いきや、いつの間にかそれはラクスの目の前に立っている。


「キ……!!」


「だってそうじゃない?」
キラの右手がラクスの肩を捕らえた。


「あんなはしたない格好で人前で踊って、おだてられて調子に乗って……。まあ、それは道化だなって思えば気が済むけど……」


「キラ、痛……っ!」


ラクスは低くうめいた。


キラの手が深くラクスの肩に食い込んでいる。


「あの歌は一体なに? ラクスが心を込めて作った歌を……」


ラクスの目前にはっきりとキラの瞳が見える。


澄み切った瞳ではなくこの暗闇と、いやそれ以上に暗く、濁った瞳が……


「あんなおちゃらけに作り変えてさ……」


キラの話し方はとても穏やかだ。


なのに、その言葉に込められているのは憎悪以外の何ものでもない。


「冗談じゃないよ。ラクスの…、ボクだけのラクスの……」


「キラっ!」


ラクスは声を荒げた。


「わたくしはここにいます!」


「えっ……?」


「あなたのラクス・クラインはここにいます!」


「あ、あ……!?」


途端、キラの瞳に光が戻った。


と同時にキラは慌てて掴む手を離し、ラクスから離れようとした。


ところが、


「わたくしはキラ・ヤマトのものです!」


逆にラクスに抱きつかれ、先ほどまで座っていた場所に押し倒された。


「ラ、ラク…ス……?」


「ですから、いちいちあんな偽者のことで怒らないでください!」


ラクスは鋭い目でキラを睨みつける。


「それともキラは、あんな偽者のほうがよろしくて!?」


「そ、そんな筈ないよ!」


キラは激しく動揺しながらも、はっきりと返す。


「ボクにはラクスしかいないんだ! 世界で誰よりもラクスの事が!」


「でしたら」


ふっと、ラクスは柔らかに微笑んだ。


「ご機嫌、直していただけますね?」


「う、うん……」


キラは顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに頷いた。











そうだ……


ラクスはボクの傍にいるんだ。


誰よりも傍でラクスの声を、歌を聞くことが出来るんだ。


温もりを感じることが出来るんだ。











本当、恥ずかしい……


ラクスにはみっともないところばかり見られている。


でも、そんなボクを見せられるのは……、


ラクスしかいないんだ……















《あとがき》
17話から
キラ達の怒りもとい、夜流田の怒り(汗)
いや、その、なんでしょうか……。あれを見せられて怒るなっていうのが無理な注文だYO!
スポーツ中継以外でTVに物を投げてしまったさ HAHAHA!!(開き直るな)

でも17話の事を友人達と話したら、『やっぱり、ラクスは腹黒いよ〜』って……
ちょっと待て!!
あれはラクスじゃなくても絶対に怒る! ってか、あれで怒らないほうが腹黒いって!!
っでキラも怒っていましたが、やっぱあれぐらい怒らないとね。男として
ちなみに、床に物が散乱しているのはキラが暴れ狂ったから(笑)
ってかキラ君、種割れ起こしてます(爆)
でも最後はラクスに諭され(押し倒され?)落ち着いたキラ君。
夜流田はラクス→キラの構図大好き人間です♪

本編ではラクスがミーアを諭す(粛清の間違いじゃないのか?)のを期待します。
もち、ラクスの横には静か〜に立つキラ付きで♪






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