カガリの声が聞こえなくなった。
どうやら、先に上がったようだ。
「ふう……」
肩から力が抜け、身体が深く湯の中に浸かった。
【天使湯】。元々はムウさんがみんなの疲労回復・緊張緩和のために提案されたものだった。
それがアークエンジェル改修の際、設置されることになった。
ただ、立案者がこの湯に浸かることはなかった……。
『ムウさんボクは……』
先の戦闘でザフト・オーブに大きな損害がでた。アークエンジェルも軽度であるが損害を受けた。
しかし、戦力的損害だけで済んでいるならいい。
あの戦闘で散った命……
それを考えるのが辛い……
『ボク達はこれからどうすればいいんでしょうか……』
今、出来ることなど微々たるものだ。
それにザフト・連合の情報もまだまだ足りない。
『一体、どうすれば……』
「キラ」
壁の向こうからラクスの声が聞こえてきた。
「そこにいらっしゃいまして?」
「えっ! あっ、う、うん……」
ラクスの声で自分が置かれている状況に初めて気づいた。
壁に隔たれているとはいえ、今この浴場にはボクとラクスしかいない。
そう、ボクとラクスしか……
『な、何を考えているんだ……!?』
邪まな思考が働きかける。
それを振り払おうとするが、一度考えるとなかなか頭から離れない。
『か、考えるな! 冷静にな……』
なれない……
なれるはずがない!
出来る事なら壁を壊して向こう側に行きたい!
でも、そんな事をやった日には後でみんなに何を言われるか分かったものじゃない。
『って、違う違う!』
そんな破廉恥な事をしたらどうなる!?
絶対にラクスに嫌われる。
嫌だ! それは絶対に嫌だ!
ラクスに嫌われたらボクは生きていけない!!
「あらあら?」
ほら! 邪まなことを考えているから幻聴まで聞こえてきたじゃないか!
「どうして頭をかかえていらっやるのですか?」
「かかえるよ!」
幻聴の問いに、ボクは声を荒げて言い返した。
「隣にラクスがいるんだよ! それも今は二人きりで!」
「それはよろしい事ではなくて?」
「良くない!」
幻聴までボクを誘惑する。
「壁があるからいいけど、もしなかったらボクは、ボクは……」
「どう、なされますか?」
「どうって? そりゃ、その……」
おかしい? 何かおかしい??
幻聴なのに問いかけてくることがとても具体的だ。
そんな事を考えていることなどお構いなしに幻聴はボクに囁きかける。
「抱きしめたり、いたしますか?」
「そ、そんな事……」
「こんな風に……、ですか♪」
ピトッ
『えっ!?』
背中から湯とは違う柔らかで温かな感触が伝わってくる。
鼻も湯の匂いに混じって、とても心地よい芳香をかぎ分ける。
それも、ボクが一番大好きな香りが……
『ま、まさか……』
そ、そんな筈は……
壁があるのに、それに入り口から誰も入ってきていない。
でもこの香り、この感触は紛れもなく……
「わたくしは、全然かまいませんのに♪」
肩越しからすっと何かが現れた。
ピンクの髪を束ねた
ラクスの顔が……
「え…、あ…、う……」
声が出ない。
いや、出せない……
出してはならない……っ!
少しでも気を緩めれば、絶叫が喉から飛び出てしまう。
そんな事をすれば、間違いなく誰かが駆け込んでくる。
「どうして、わたくしがここに? とお思いですね?」
湯気にかすんで見えるラクスの顔がいたずらっぽく微笑む。
「一ヶ所だけ壁の色が違う所がありましたの。気になりまして触りましたら簡単に取れてしまいました」
「で、でもそれだけじゃ……」
「はい♪ キラと一緒にゆっくりしたかったので来ましたわ♪」
そ、そんな大それた事をさらりと言わないでよ……
それにこの状況、ゆっくりどころじゃないよ……
「ご迷惑、でしたか?」
ラクスは甘く甘く囁いてくる。
そんな風に言われたら……
「迷惑じゃ……、ううん。嬉しい……」
「わたくしも、嬉しいですわ♪」
勝ち負けの問題じゃないけど、ボクの完敗だ。
本当ラクスは凄い女の子だよ……
ボクもこれぐらい積極的に……
いけそうにないよ……
《あとがき》
24話から。
ありがとうサン○イズ! 種でなかったラクスのシャワーシーンをこんな風に!!(絶叫)
それにしてもあの【天使湯】。絶対に立案者はフラガ兄貴ですYO! こんなおバカな事言い出すのって!!
疲労回復などとのたまっておりますが、当然本当の目的はマリューさんと入浴p…(強制終了)
本能のままに書いたら、キラ暴走!・ラクス暴走! オレも暴走!
まあキラの方からは行かないでしょう。だって、キラは受け紳士ですから(笑)
でっ、あの後二人はどうなったかって?
そんな事、表では書けないな〜〜〜(意味深)
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