この話は原作を元にしたIF設定です。
原作と違う点は2つ
@……ラクスはアークエンジェルにいる。
A……宇宙(そら)へ行っているのはバルトフェルドだけ。
この話は15歳未満の方の閲覧は禁止です。
15歳未満の方は早々に退却してください。
以上を踏まえまして、ご覧ください。
「キラ……っ」
ラクスはベッドに横たわるキラの手をすがるように掴んで離そうとはしない。
その顔に普段の穏やかさと威厳はどこにもない。
あるのは愛する者を失えかけた恐怖と愛する者が無事だった事への安堵。
それがちょうど半々に織り交ざった顔だった。
「良かったな、ラクス……」
カガリはそっとラクスの肩に手を置いた。
「ドクターの話じゃ、2・3日で動けるってさ」
「カガリさん……」
「本当、無事で良かったよ……」
カガリは努めて明るく振舞い、場を支配する重く空気を払拭しようとした。
ところが……
「おっ、負けやがったな?」
不意にラクス達の後ろから聞こえた声。
キラのベッドの向こう正面にいるムウは嫌味たらしく聞いてくる。
「相手はインパルスのガキか?」
「………」
ラクスもカガリも、医務室にいる全員は一同に口を閉ざした。
しかし、誰もが思っている。
『こんな状況で、よくも飄々と……っ!?』
だが、今のムウには記憶がない。
かつて共に戦った記憶が……
「へっ。ざまぁみろってんだ♪」
「フラガ!? 貴様っ!!」
その言葉に、カガリは凄まじい憤怒をムウにぶつけた。
「言っていい事と悪いことがあるだろっ!?」
「あん?」
対するムウは飯を食いながら面倒そうにぼやく。
「フラガって誰だ? 俺はネオ。ネオ・ロアノークだ」
「そんな屁理屈、聞いてなっ……!?」
カガリは怒りに身を任せ、ムウに殴りかかろうとした。
ところが同時に、カガリの進路はふさがれた。
ラクスの腕によって。
「静かに…、していただけませんか……?」
ラクスの顔はキラに向けられている。
口調も穏やかなものだ。
それなのにラクスが言葉を発した瞬間、医務室の空気は一瞬にして凍りついた。
「す…、すまない……」
カガリは慌てて身を引き、そっとラクスから離れた。
いや、カガリだけではない。
ムウを除く全員が意識的にラクスとの距離を置いた。
すると、ラクスはそれを察したかのように言葉を発した。
「申し訳ございませんが…、キラと二人きりにさせていただけませんか……」
「わ、分かったわ……」
ラクスの言葉に即座に反応したのはマリューだった。
「みんな、持ち場に戻って。キラ君はラクスさんに任せましょう」
マリューの言葉に、主だったメンバーは医務室から出て行った。
ゆっくりであったが、明らかに何から逃げる足取りで……
「ちょっとちょっと、お姫さん?」
この状況にも関わらずムウは小馬鹿にした口調でラクスに突っかかる。
「二人きりって俺もか? 俺も怪我人なんだけどさ〜?」
刹那、残るマリューとカガリの顔から表情が消えた。
『ムウっ! あなた、今の状況わかってるの!?』
『フラガ! 無謀にもほどがあるぞ!?』
っと、言おうとしたが言えなかった。
もはや、言葉を発っせられる状況ではない……
2人は本能でそれを察していた……
それにも関わらず、ムウは飄々とラクスをからかう。
「大体、二人きりでなにすんの? 年頃の男女がこんな所でさ〜?」
その時だった。
ラクスは静かに立ち上がり、ゆっくりと振り返った。
『艦長! ど…、どうすればいいんだ……っ!?』
『カガリさんこそ! ラ…、ラクスさんを……!?』
カガリとマリューは目で意志を伝えあったが、もはやどうすることも出来ない。
その間にもムウへとゆっくり歩を進めるラクス。
彼女の顔に表情はない……
瞳にも光がない……
この世で唯一、今のラクスを止められる人間は動くことが出来ない。
二人がそう思っている間に、ラクスはムウのベッドの前に立った。
「ムウ様…、申し訳ございませんが席を外していただけませんか……?」
「わがままなお姫さんだね〜?」
飯を食い終えたムウはフォークを置き、面倒そうにラクスの顔をみた。
「だから俺も怪我人って言って……っ!?」
刹那、ムウからも表情が消えた。
いや消えたのではない。浮かび上がった。
恐怖と戦慄が……
「もう一度、申し上げます……」
対するラクスは無表情のまま、淡々と告げる。
「席を…、外してください……」
言葉は丁寧だが、明らかに命令だ。
しかし、ムウは言葉を聞く前にベッドから立ち上がった。
「わ、分かった! 分かったから!!」
「ありがとうございます……」
ラクスはベッドから飛び降りるムウにそっと頭を下げた。
「先ほどのお言葉は…、なかった事にいたしますので……」
「さ、サンキュー! お、お姫さまっ!!」
ムウは恥も外聞も関係なく、脱兎の勢いで医務室を出て行った。
そして最後の脱出の機を逃す事なくマリューもカガリも医務室から消えた……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
先ほどまでたくさんの人がいた医務室。
しかし今はキラとラクス、二人きり……
『キラ……』
ラクスは再びキラの傍に座り、そっとキラの手を握り締めた。
その時、キラの瞳がゆっくりと開いた。
「ラ…クス……」
「キラ!」
ラクスは目を見開き、キラを凝視した。
ところがキラは普通に目を開け、普段と同じように呟いた。
今、意識を取り戻したばかりなのに?
「あまりムウさんにきつく当たらないであげて……」
「えっ!?」
「ラクスがボクの手を離した時に…気づいていた……」
「な…、何のことですか……?」
ラクスはわざとらしくとぼけた。
キラはそんなラクスに苦笑いを浮かべ、軽く溜息を吐いた。
「記憶があったら、絶対にあんな事は言わないよ。あの人は……」
「そ…、それは分かっていますわ……。ですが……」
「お陰で二人きりになれた…、けど……」
不意にキラの顔から表情が消えた。
「どうして…、二人きりの状況を作ったの……?」
「えっ……?」
「今の状況、ラクスは分かっているの……?」
「おっしゃる意味が…、わかりませんわ……」
ラクスは冷静にそれを告げた瞬間だった。
キラはラクスの手を思いきり引っ張り、自分のベッドへ引きずり込んだ。
いや、それだけではない。
引きずり込むのと同時にシーツでラクスの視界を奪った。
その時間は一呼吸か、二呼吸……
だが、この僅かな時間でラクスを取り巻く状況は一変していた。
『天井が…、あんなに高い……』
ラクスは目の前に広がる光景で置かれている状況を知る。
キラに押し倒されているのだと……
しかし、心は不思議と落ち着いている。
見えたキラの顔とは正反対に……
「どうして……」
ラクスを見おろすキラは苦しそうに言葉を吐き出す。
涙でラクスの頬を濡らしながら……
「どうして抵抗しないの!?」
「キ…ラ……?」
ラクスはきょとんとした顔でキラを見上げる。
不思議なほど穏やかな気持ちのままで。
「どうしてなの! ラクスっ!?」
キラはぼろぼろと涙をこぼし、ラクスに訴える。
「いきなり押し倒されたら逃げるとか、嫌がるとかするじゃない!」
「あらあら?」
「それにどうして落ち着いていられるの!? 分からないよ!!」
「あらあら。その事ですか」
ラクスは今の自分に驚きつつも、穏やかに答えた。
「嫌ではないからですわ」
「何だよ、それ!?」
キラは激昂し、ラクスの両腕を乱暴に押さえた。
「それって…、ボクに何されていいって事じゃない!?」
「そうなりますわね」
「分かってるの! ボクが君に何をしようとしているのか!!」
「察しは…、ついていますわ」
「嘘だっ!!」
キラは幼子の様に泣きじゃくりながら……
それでいながら、やり場のない怒りをラクスにぶつけた。
「ボクはラクスを抱こうとしている! 強引に! 乱暴に! 無理やりに!!」
「ええ。その通りですわね」
「託したくれた剣を折られ! のこのこと逃げ帰った負け犬が!! ラクスをっ……」
「そうですわね」
「なのに…、どうして……」
キラはラクスの胸元に泣き崩れた。
「君を護るって誓ったのに……、どうして君は……」
「それは、貴方がわたくしのキラだからですわ……」
ラクスはキラの腕を解き、そっとキラの頭を撫でた。
「貴方はわたくしの下へ帰ってきてくれました。それ以上、何を望めばよろしいのですか?」
「け…、けど……、ボクは負けたんだ……」
「負ける事は恥ではありません」
ラクスはむせび泣くキラの背中を優しくさすった。
「貴方はわたくし達の為に懸命に戦ってくれました。全力を尽くしてくれました。それで敗れたのです。誰も貴方を責めませんわ」
「でも剣を…、君が託してくれたフリーダムをボクは……」
「もうすぐバルトフェルド隊長が持ってきてくださりますわ。貴方の新しい剣を」
「えっ……!?」
ラクスの思いがけない言葉にキラははっと顔を上げた。
「新しい…、剣……?」
「新しいフリーダム。今の貴方にふさわしい剣、ですわ」
「で…、でもボクは……」
「気を病む必要なんてございませんわ」
ラクスはにっこり微笑み、キラの頬に手を添えた。
「今は、貴方が思うままにしてくださいな……」
「えっ!?」
「抱いても…、よろしいですわ……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
キラは思わずラクスから離れようとした。
確かにキラはラクスを抱こうとしていた。
しかし、それは現実から逃げる為……
本能のままラクスを喰らおうとしていた……
だけど、今は違う。
ラクスの言葉に救われ、今はそんな気持ちなど微塵もない。
現実から逃げる必要など、どこにもない……
「逃げる事は悪い事ですか?」
ラクスは逃げようとするキラの顔を両手で包むように掴んだ。
「勝算もなく無駄に散るぐらいならば、逃げてその時を待ってください。犬死など…、わたくしが許しません!」
「ラ…クス……」
「ですから、今は存分にお逃げなさい」
ラクスは撫でるようにキラの頬を叩いた。
「今日は…、貴方の思うようにしてくださいな……」
「で…、でもボク……」
キラは頬を真っ赤に染め上げ、恥ずかしそうに呟く。
「優しく出来る自信なんてないよ……」
「よろしいですわ」
「泣かせてしまいそうで怖い……」
「その時は貴方の胸の中で泣きますわ」
「本当に…、いいの……?」
最後の問いにラクスはにっこり微笑み、はっきりと答えた。
「はい。喜んで」
「ラ…、ラク……っ!」
「ですが、その前に……」
キラが動き出すほんの僅か手前。
ラクスはキラの唇に自らの唇を重ねた。
一瞬ではなく……
一呼吸……
二呼吸……
それ以上の長い時を……
やがて唇が離れ、ラクスは嗜める様にキラに言った。
「そんな出来ばえのいい仮面は脱いでくださいな」
「は…い……?」
「わたくしは裸のキラに抱かれたいのです。わたくしが愛するキラ・ヤマトに……」
その言葉にキラは驚きもし、恥ずかしくもなった。
ラクスの言うとおりだ。
キラは優しく、愛しくラクスを抱こうとしていた。
けれど、ラクスはそれを望んでいない。
ラクスを望んでいるのは全て……
キラ・ヤマトの全てなのだ……
「ラクス…、ごめん……」
「いえいえ、どういたしまして♪」
ラクスは屈託のない笑みを浮かべると、キラは包むようにラクスを抱きしめた……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
二人きりの医務室。
数台のベッドの一つにキラとラクスは共にいる。
『キラ……』
ラクスは自分の隣で穏やかに眠るキラの顔を見た。
とても穏やかで愛らしい寝顔だ。
『あの時……』
あの時…、キラに押し倒された時……
ラクスには聞こえた……
『ラクス…、助けて……っ!!』
愛する人の叫びが聞こえた……
だから押し倒されても、落ち着いていられたのかも知れない……
けれど抱かれたのは、キラを助ける為ではなかった。
ラクス自身が…、キラに助けて欲しかったから……
愛する者を失いかけた絶望から……
『ありがとうございます……』
ラクスはそっとキラの頬に唇を当てた。
そしてキラを…、自分を思う……
わたくしは彷徨うキラの魂を誘うValkyries
キラはわたくしの命の炎を燃やすCavalier
戦いに疲れた今はただ……
静かに眠りましょう……
《あとがき》
35話のIF。ラクスがAAにいたら? の話です。
まずは前半戦。
フラガ兄貴、よく無事でいられたな〜(笑)
原作でもあの時、全員が何とも言えない表情で兄貴を睨んでいましたからね。
記憶があったら袋叩きじゃ済んでないですよ。兄貴〜。
それにしても、あのラクスは怖すぎ…(汗)
話の為に、ただ2人きりの状況を作りたかっただけなんです。ホントに…(爆)
そして、2人きりになってから。
この設定だとキラはラクスの目の前で敗れ、剣を折られた。
その悔しさと怒りは計り知れません。
完全に生き恥を晒しています。やさぐれてもおかしくありません
そんなキラを優しく包み込むラクスを上手く書けていれば光栄です。
蛇足に、この話を書こうと思ったきっかけ。
サザンオールスターズのアルバム【KILLER STREET】にある【リボンの騎士】という曲を聴いてです。
この小説のタイトルにもなっていますがこの曲を聴いた瞬間、この話が浮かびました。
《ちなみにどういう曲か? きわどい発言がありますので反転しています》
歌っているのは原由子さん。
ただ、詞がもの凄くヤバイ。ぶっちゃけエロスです。
ですが、歌は全然エロスに聴こえない。むしろ、とても幻想的です。
癒されたい男の気持ちが、本当に伝わってきました。
時々、サザンはかなりヤバイエロスを歌っていますが、原さんが歌うと本当素敵です。
でも、桑田さんが歌っている曲に関しては…
《いい歳こいて、なにやってんだ? このエロオヤジが??》ですけども…(笑)
内容的にはR18指定に掛かりかねないものですが、R15指定にしました。
これをR18指定にしたら、絶対に良さが出ないと思いましたので。
サザンに関わらず、歌はやっぱりいいものです。はい。
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