数時間後―――


夕食を済ませたキラは、独り自室で休んでいた。


『本当、ボクって奴は……』


ベッドの上で寝転がりながら、大きく溜息を吐いた。


原因は、昼間のブティック。


ラクスがキラの為に色々な服を着てくれたのに……


『もっと気の利いた事が言えたらな……』


顔にこそ出していなかったが、絶対にラクスの機嫌を損ねた筈。


現に帰って直後、メイリンに、


「キラさん! いくらなんでもラクス様が可哀想です!!」


と、怒られる始末……


『ラクス、きっと怒っているだろうな……?』


そう思ったとき、ドアをノックする音が聞こえた。


『誰だろう? こんな時間に??』


ベッドから起き上がるとドアの向こう側から、


「キラ、わたくしですわ」


今の今まで思っていた人の声が聞こえてきた。


「どうしたの、ラクス?」


「キラにお話したい事がございまして来ました」


「話したい事?」


「はい。ですから、ドアを開けてくださいな」


話したい事って何だろう?


もしかしたら、昼間の事を怒りに来たのか……?


でも、それならば仕方がない。


犯した罪は、償わなければならない。


キラは軽く深呼吸し、ドアを開けた。


瞬間!


キラは完全に固まった!!








◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆








「ラ、ラク…、ラク……っ!?」


キラは言葉も出なかったが、無理もなかった。


ラクスの服装はピンク色のフリフリのワンピース。


俗に言うネグリジェだっ!


それと【天使湯】帰りなのか? 髪は微かに湿り気があり、シャンプーのいい芳香(にお)いがほのかに漂っている。


しかも、おまけに胸元に枕を抱えている。


まともな男なら、この無防備極まりない姿の女性を目の当たりにして平静でいられる筈がない。


しかも、相手はキラの全て。


さらには、ここはキラの部屋の前。


『あら? あらあら♪』


顔にこそ出さないでいるが、ラクスはこの事態を多いに喜んでいる。


ラクスの予想通り、キラは耳の先まで真っ赤になりカチンコチンになっている。


当初の目的は、達成された。


もっとも、褒めてもらえる状態ではないがラクスは満足……


『する筈が、ありませんわ!』


ここまでやって、何もなしで終わるはずがない。


確認こそしていないが、ムウは間違いなく事に及んでいる。


ならば自分達も!


ラクスは完全にキラを物にするべく更なる攻勢に出た。


「あの…、よろしいですか……?」


ラクスは上目遣いに部屋の中を覗き見た。


その仕草で察したキラは戸惑いを隠せずにはいたが、「う…、うん……」と部屋の中へラクスを招き入れた。


『落ち着け…、まず電気をつけてから……』


キラは辛うじて残った理性を働かる。


迫るにしても紳士的にと思い、部屋の灯りのスイッチを入れた。


だが、部屋が明るくなった瞬間!


「ラ、ラク…、ラク……っ!!!!」


キラは視線にあるラクスの姿を見て、再び硬直してしまった。


ラクスが身に纏っているネグリジェが微妙に灯りに透けているのだ。


そう、これこそがラクスの描いたキラ攻略の切り札。


キラは見事にラクスの罠に嵌った!


「え…、あ…、そ……」


懸命にラクスから視線を外そうとするキラ。


だが目標をロックオンした眼球は、絶対に動かない。


『あと一押しですわ……!』


あと一手で、キラは完全にオチる。


ラクスはキラに止めを刺すべく、最後の行動に打って出た。


「あの…、キラ……」


「な…、なにラクス……?」


「今夜…、ご一緒してよろしいですか……?」


ご一緒してよろしいですか?


ご一緒してよろしいですか? ご一緒してよろしいですか?


ご一緒してよろしいですか? ご一緒してよろしいですか? ご一緒してよろしいですか?


ご一緒してよろしいですか? ご一緒にいい夢を見ましょう? ご一緒にいい夢を見ましょう?


時間にずれば刹那の瞬間。


この刹那の時にキラの脳内はラクスが発した言葉で支配された。


深読みした言葉を含めて……


そんなキラをラクスは手にした枕を口元に持っていき、上目遣いで見つめた。


今か今かと、その時を望むような瞳で……


すぱぁぁぁぁぁん……


今、キラの頭の中で確実に何かが弾けた。


キラの理性は完全に失われた。


「ラ…、ラクスっ!!」


キラはラクスの名を口にするのと同時に、その体を抱き寄せた。


パサッ…、とラクスが持っていた枕が床に落ちた。


と同時に、キラはラクスの唇を奪った。


「キ…ラ…、んっ…ふぅ……」


舌を絡ませながら互いの存在を確かめ合うようにきつく抱き合うキラとラクス。


『もっと激しく…、押し倒して……!』


キラにけしかけている間に、ラクスの理性も壊れていた。


激しくキラの唇を貪り、先を求めた。


そんなラクスの願いを察したキラは唇を重ねたまま、ラクスをベッドの上に押し倒した。


そしてラクスから離れ、その姿をじっと見つめた。


『な、なんて綺麗なんだ……』


神話の女神のような可憐で整った体にピンクのネグリジェ。


しかも、灯りで僅かに透けて見える絶対的曲線美。


ありとあらゆる最上級の賛辞の言葉がキラの脳裏に浮かぶ。


しかし、それらを踏まえた上で……


「言葉なんて…、いらないよ……」


「それは…、本心ですか……?」


「嘘でこんなこと言えない……っ!?」


本当だと分からせる為に、さらにラクスの体を見つめた時、キラはある事実に気づいた。


ショーツこそ身につけているが、ブラジャーは身につけていない。


しかもネグリジェ越しに見えるショーツも僅かにピンク色。


純白の下着だ……


『か、身体が熱い……』


ラクスもまた、キラ同様に全身が火照っていた。


これ以上、焦らさないで欲しい!


これ以上、待たせないで!


「キラ……」


「抱いて…、いいよね……?」


「はい……。抱いてください……」


ラクスはそっと瞳を閉じた。


と、その時だった。


「キラ〜、まだ起きてるか〜〜?」


部屋の外からノー天気な声が響いた。


アスランの声だ。


しかも何故かドアまで開いた。


『ああっ! ドアのロックを!!』


ラクスは心底悔やんだ。


不覚にもドアのロックをしていなかったのだ。


わざわざピンクちゃんを部屋に置いてきたのに。


当然、アスランが二人を捕捉するのに時間はかからなかった。


アスランの視線の先にはベッドの上にラクス、それと上にキラ。


キラはまだ服を着たままだが、ラクスはネグリジェ。


しかも体が透けて見えている。


普通ならば見えなくもない距離なのだが、いかんせんアスランもコーディネーター。


しかも、元ザフトのトップガン。


視力には絶対の自信があるが、今は完全に仇となった……


「ミ…、ミィ……」


ラクスの艶めかしい姿を見た瞬間、アスランはフラッシュバックに襲われた。








◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆








「ミーア、頼むから帰ってくれないか?」


アスランはうんざりした顔で言った。


「頼むから自分の部屋に帰ってくれ」


「どうしてですか〜?」


対し、ミーアは不思議そうな顔でアスランを眺める。


「わたし達、婚約者同士なんですよ〜」


「そういう問題じゃない! それに俺は寝てないんだ!」


アスランは頭を押さえながら、声を荒げる。


「頼むから帰ってくれ!」


「それでしたら〜」


ミーアはそう言うと、テーブルにおいてあったワインボトルとグラスを2つ手に取った。


「最後に一杯だけ。それで、帰りますわ〜」


「……、本当に一杯飲んだら帰るんだな?」


「はい、ですから〜♪」


ミーアは嬉しそうにグラスにワインを注ぎ、それをアスランに手渡した。


すると、アスランはそれを一気に飲み干した。


アスランからすれば、これで約束を果たしたのと同じだ。


「飲んだぞ。だから君は部屋に帰っ…、なっ!?」


突然、全身に痺れが走り、持っていたグラスを床に落としてしまった。


幸い、床はカーペットが敷かれていてグラスは割れなかった。


だが、アスランの全身は痺れに冒され身動き一つ取れなくなっている。


「な…、ミィ…、まさ……」


舌先までもが痺れて、話す事すらままならない。


ところが、ミーアはそんなアスランの姿を確認すると、


「ふふふ…、効果抜群ですね……」


身に纏っていたドレスを脱ぎ捨て、下着姿になった。


下着はネグリジェ。色はアスランの服と同じ赤。


「これで、あなたはわたしの思うがまま……」


「ま、まっ…、ミィ……」


「怖がらなくていいですよ。すぐに気持ちよくなりますから♪」


「………っ!(や、やめろミーア!)」


「夜はこれからですわ〜〜〜♪」


ミーアの手がアスランの股間に触れる。


途端、ミーアの顔にさらに怪しい笑みが浮かび上がった。


『やめろミーアぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』








◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆








「あ…、ああ……っ!」


怯えるような声。


キラはてっきりラクスの声かと思ったが、その声の主はアスランだった。


そして次の瞬間、


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


凄まじい悲鳴……


「もう勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


と同時に、アスランは脱兎の如く駆け出して行った。


断末魔の叫びを轟かせて……


「………」


「………」


取り残されたキラとラクスは完全に興ざめしてしまった。


「ボク…、ちょっと用事思いだしたから……」


キラは顔を真っ赤にしたまま部屋から出て行ってしまった。


部屋に残されたのはラクスただ独り。


たまらずベッドの上に大の字に倒れこんだ。


『折角、いいところでしたのに……』


ラクスは唇に手を当てながら先ほどの感触を思いだした。


しかしというか、はやり途中で止まってしまった為か欲求不満気味。


当初の目的こそ果たしてはいるが……


『何が「勘弁してくれ!」ですか!?』


今、ラクスの脳内に駆け巡るものは一つ……


『覚悟は出来ているでしょうね…、アスランっ!?』














すぱぁぁぁぁぁん!











今、確実にラクスの頭の中で何かが弾けた……

















《言い訳その2&あとがき》
くどい様ですが、もう一回言います。
考えたのは管理人ではない! 熊鉄様だ!
そりゃ、確かに5割増ほど追加編集しましたよ。
フラガ兄貴がアホな事やっている所とか、キラがラクスを押し倒す所とか、アスランがミーアに襲われている所とか…
《過激なものをさらに過激にしちゃっているな、オレ(てへ)》

で、でもね!
元はといえば、熊鉄様が管理人にこの話を送った事が全ての原因!
だからこそ、私は熊鉄様に声を大にして言いたい!
朋友(ポンヨウ)! 朋友っっっ!!
《熊鉄様、オレはどこまでも付いていきますぜ!》




っで、後書き。

それにしても、このラクスは随分とやさぐてているな〜(笑)
もう、毒舌の限りを尽くしているね。
書いてて、本当に面白かったです。はい!

ところであの後、アスランはどうなったのでしょうかね?
思いつく選択肢は……

@ 直後、キラにボコられる
A 翌日、ラクスにボコられる。
B 後日、この事を知ったカガリにボコられる
C @AB全部。

管理人は勿論、C番です!

これ書いて、久々にアノ部屋をいじろうかとかと?
激ヤバの内容は、まあ間違いないだろうな〜(遠い目)




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